表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の神様、ソースコードが丸見えですよ? ~魔法を最適化(デバッグ)する最強言語学者、代償は「自分自身」の全消去~  作者: 天城ユウ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/24

第二十四話:『再定義:俺たちのいる場所(ハロー・ワールド)』

都庁知事室。透明な檻のようなその空間で、世界の「正解」と「間違い」が激突していた。


 アインが放つ黄金の光。それは、一寸の狂いもない完璧な論理ロジックの奔流だ。触れるものすべてを「正しいデータ」へと強制的に書き換え、あるいは消去する、文字通りの神の審判。

 対するレンが纏うのは、七色に揺らめく不規則なノイズ。ステラの「嘘」と、イリスの「犠牲」と、名もなき村人たちの「体温」。システムが「不要」と切り捨てたはずの塵芥ゴミが、レンの背後で巨大な翼となって羽ばたいている。


「……無意味だ、三代目! 不完全なデータがどれほど集まろうと、基底現実の崩壊は止められない! お前がやろうとしているのは、沈みゆく船の穴を、思い出の紙切れで塞ぐようなものだ!」


 アインが両手を広げる。

 知事室の床が、壁が、そして窓の外の宇宙までもが、数式に分解されていく。

 

「――《全領域強制初期化フォーマット・オール》!」


 絶叫と共に放たれた、絶対的な「無」。

 ステラがレンの前に立ち、剣を構える。イリスが最後の力を振り絞り、解析の光を放つ。だが、その消去の波は、彼女たちの存在そのものを「定義不足」として飲み込もうとしていた。


「……アイン。お前は一つ、大きなバグを見落としている」


 レンが、静かに一歩前へ出た。

 彼は、迫りくる消去の波に、無防備にその手を差し出した。

 黄金の光がレンの指先に触れた瞬間、パリン、と。

 硬いガラスが砕けるような音が、虚空に響いた。


「……なっ!? 消去命令デリートを……弾いた、だと?」


「……お前が守ろうとしているのは『完璧な記録』だ。だが、俺たちが守りたいのは『不完全な記憶』だ」


 レンの瞳の中で、銀河鉄道の景色、渋谷の喧騒、そしてステラの涙が、猛烈な速度で再構成リコンパイルされていく。


「……記録は変わらないが、記憶は変わる。……お前が『ゴミ』と呼んだノイズこそが、この死にかけた世界を動かしてきた、唯一の『熱量エンジン』だったんだ!」


 レンが、自分の胸の「嘘の日記帳」に手を触れた。

 彼はそれを、自分だけのものにせず、このドームに住む数万人の「意識」へと、一本の回廊として繋ぎ止めた。

 

 第一部で放った『万象共鳴』の、真の完成形。

 

「――《再定義・生命の定義ハロー・ワールド》!」


 レンの叫びと共に、都庁知事室から極彩色の光が爆発した。

 それは、アインの黄金の論理を塗り替え、死せる地球を包むシミュレーション・ドームの「壁」を、内側から粉砕していく。


「が、あ、ああああああ……ッ!?」


 アインの身体が、ノイズの中に溶けていく。

 だが、その表情は恐怖ではなかった。

 彼の瞳から冷徹な光が消え、代わりに宿ったのは、数百年ぶりに「人間」に戻った男の、安堵の涙だった。


『……そうか。……お前は、管理者になるのではなく……。……ただの「住人」に、なりたかったのか……』


 アインの影は、静かに笑い、光の粒子となって消え去った。


 ――。

 

 崩壊が始まる。

 偽物の空が剥がれ落ち、デジタルな星々が消えていく。

 

 レン、ステラ、イリスの三人は、重力さえも失われた空間で、互いの手を強く握りしめた。


「レン様! 私を離さないで!」

「……絶対に、離しませんわ! 私の魔法が、貴方たちを繋いでいますから!」


 ホワイトアウトする視界の中で、レンは最後の一行を書き換えた。

 自分を消すためではなく。

 

 ――『俺たちの明日は、未定義(NULL)のままでいい』。


---


 それから、どれほどの時間が経っただろうか。

 

 レンが目を開けると、そこには眩しいほどの青空が広がっていた。

 シミュレーターの描く完璧な蒼ではない。雲は不規則に流れ、風は微かに土の匂いと、潮の香りを運んでくる。


「……レン様、気が付きましたか?」


 視界に入ってきたのは、煤けた顔で、けれど太陽のような笑顔を浮かべたステラだった。

 彼女の隣には、灰色の髪を短く切り、不器用そうに焚き火を熾しているイリスの姿もある。


「……ああ。……ここは?」


「都庁のあった場所の、すぐ近くです。……ドームは消えました。魔法も、システムも、もうどこにもありません」


 レンは、自分の掌を見つめた。

 そこにはもう、システムウィンドウも、黄金の文字列も浮かばない。

 

 世界は救われたのではない。

 ただ、終わりのない「管理された平和」から、終わりのある「残酷で美しい現実」へと、放り出されただけだ。

 

 レンは、ステラが差し出したボロボロの日記帳を受け取った。

 そこには、彼女が三年間綴り続けた「嘘」と「真実」が詰まっている。

 

 彼はその真っ白な最終ページに、震える指で、自らの名前を綴った。

 

 ――『レン』。

 

 かつての翻訳官は、もういない。

 記憶の多くは失われ、魔法という万能の力も消え去った。

 

 けれど、不確かな明日を歩むための「言葉」だけは、彼の中に残っていた。


「さあ、行こう。……俺たちが、俺たちの『本当の物語』を書き始めるために」


 三人の足音が、再生を始めた地球の大地に、力強く響き渡った。

 

 ハロー・ワールド。

 それは、失われた言語学者が、新しい世界に贈った、最初の一文字だった。


『言の葉の消失点ロスト・エコー』――完

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

 

 言語学者という独自の視点から、魔法を「言語」として解体し、最終的に「不完全な人間」であることを肯定する物語。いかがでしたでしょうか。

 

 最強の力を手に入れるたびに自分を失っていくレンと、それを繋ぎ止めようとするステラの旅路。

 最後に彼が選んだのは、万能の神としての永劫ではなく、不確かな人間としての「今日」でした。

 

 もし、この結末が皆さんの心に少しでも残ったのであれば、作者としてこれ以上の喜びはありません。

 

 面白かった、あるいは最後が切なかったと思っていただけましたら、

 ぜひ【ブックマーク】や、下の【☆☆☆☆☆】を評価に変えて応援していただけますと幸いです。

 

 皆さんの応援が、私の次の物語を綴る「記述」の力になります。

 

 また、別の物語、別の世界でお会いしましょう。

 

 天城ユウ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ