疑念?
「――ねえ、弥夢くん。最近、なにかありました?」
「……へっ? ……えっと、どうしてでしょう?」
「……あっ、いえ……ただ、ここ最近ホームルームが終わったらすぐに教室を出ているようなので、何かしら大切なご用事でもあるのかと……」
「……ああ、えっとですね……」
それから、一ヶ月ほど経て。
放課後、昇降口へ向かう廊下を進んでいると、ふと後方から凛とした声が届く。まあ、確認するまでもないけども……振り向くと、そこには同じクラスで女子バレー部のエースたる黒髪の美少女、東藤蒼那さんのお姿が。
……さて、何とお答えしたものか。用事、というわけでもないんだけど……というか、そもそもよく気づいたよね、蒼那さん。確かに、ここ最近は以前より早く出ていると思うけど……それでも、以前にしたってのんびり教室に居残ってたわけじゃない。だから、実際にそこまでの差はないと思うんだけど――
「……弥夢くん?」
「……へっ? あっ、はい僕は弥夢です!」
「……いや、存じてますけど……やっぱり、私になにか隠してます?」
「……あっ、いや、その……」
すると、僕の様子が可笑しかったからか怪訝そうに尋ねる蒼那さん。そして、僕の返事にいっそう怪しむような視線で……うん、そうなるよね。僕自身、全く以て意味の分からないことを口走ってしまった自覚はあるし。
……ともあれ、さてどうしたものか。別に口止めをされてるわけではないけど、そもそもの動機が動機なだけに口にするのも憚られ――
「……ひょっとして、恋人ができた……とか?」
「……へっ? いえ、それはないです」
「……へっ? ……その、本当ですか? 本当に、それは絶対にないのですか?」
「はい、神さま仏さまに誓っても構いませんが、それは絶対にないです」
思案に暮れていた最中、不意に届いた思いも寄らない蒼那さんの問い。……うん、ほんとびっくりです。よもや、そんな有り得るはずもない疑念を持たれていたなんて。
ちなみに、僅かながらも早めに教室を出ていた理由だけれど……その、バレーについて改めて勉強する時間を少しでも多く確保するためで。バレーのことを全く知らないわけじゃないにしても、もちろん完璧に分かっているわけもなく……そして、指導する側となれば何も知らないと言って差し支えないわけで。なので、解雇にならないため、というのもあるけど……やっぱり、引き受けたからにはコーチとして少しでも三神さんのお役に立てるよ――
「……そう、なのですね……うん、それならよかっ……あっ、いえ何でも! その、実は私バレー部に所属していまして、その、今から練習が――」
「……あの、存じてますよ?」
「……へっ? ……あっ、そうでしたか! 流石は弥夢くん、私のことなど何でもご存知なのですね!」
「……いや、ほぼ皆さんご存知のことかと……」
すると、今度は蒼那さんが大いに慌てたご様子で不思議なことを……えっと、どうしたんだろ? ひょっとして、僕のが移って――
「……ですが、よかったです。……いえ、正直のところ複雑な気持ちもあるのですが。きっと、私は関与していないでしょうから」
「……へっ?」
そんな懸念の最中、言葉の通り複雑そうなお表情でそう口にする蒼那さん。……でも、いったい何のこ――
「――だって……あれ以降は一度も見たことないくらいに楽しそうですから、最近の弥夢くん」




