決意
「――おかえり、弥夢。今日もお疲れ」
「おかえり、弥夢。ご飯できてるわよ」
「うん、ただいま。ありがとう、父さん、母さん」
それから、数時間後。
すっかり夜の帳が下りた頃、二階建ての木造アパートに到着。そして、その一室の扉を開くと温かな笑顔で迎えてくれる40代の男女。父さんと母さん――僕が誰よりも感謝……そして、誰よりも申し訳なさを感じている二人で。
ちなみに、三神さんとは本日は契約を交わしただけでお別れに。尤も、彼女としては今日からお仕事――つまりはコーチをしてほしかったみたいだけど、今日は僕にバイトがあることを知っていたので遠慮してくれて……うん、やっぱりそれも知ってたんだね。まあ、流石にもう驚かないけども。
「――それで、今日は先輩から新しい珈琲の淹れ方を教わったんだ。それで、練習も兼ねてということで色んな珈琲の豆もいただいたから、よかったら食後に淹れるけど……どうかな?」
「そっか、それはすごいなぁ。うん、それじゃあ是非いただこうかな」
「うん、私も。楽しみにしてるわ」
それから、ほどなくして。
食卓にて、職場での出来事を話す僕に温かな微笑で耳を傾けてくれる父さんと母さん。ちなみに、今日の食事はブリの煮付けに野菜サラダ、豆腐とワカメの味噌汁に白米という献立で……うん、今日も美味しいです。そして、いつも真摯に話を聞いてくれてありが――
「……なあ、弥夢。本当に、無理してはいないか?」
そんな感慨の最中、ふと箸を止め尋ねる父さん。そんな父さんをじっと見つめた後、徐に視線を移すと母さんも同じ心配そうな表情をしていて……うん、ありがとう二人とも。なので――
「……ううん、無理なんてしてないよ。僕、あの職場で働くの好きなんだ。みんな優しいし、学校では関われないように、色んな歳や立場の人達ともお話しできるからすごく新鮮だし」
そう、努めて笑顔で答える。すると、まだ心配の色はありつつも笑顔を見せてくれる父さんと母さん。……うん、嘘は言ってない。今二人に伝えたことは、紛れもなく本心だから。……まあ、本当のことを全て話したわけでもないけど。
……でも、言えるわけない。入学早々アルバイトを始めた目的が、今まで僕に費やしてくれたお金を少しずつでも二人に返すためであることだなんて。
……だって、分かってるから。二人とも、そんなことを少しも求めていないことくらい。そもそも、二人からすれば貸してたつもりもないのだから、返してもらう道理もないわけで。だから、実は二人に返すために働いて貯めてる、なんて言ったら如何に優しいこの両親でも怒るかもしれないし……それに、間違いなく悲しませてしまう。だから、僕がしていることは……そして、これからしようとしていることは親孝行どころか親不孝と言っても差し支えないであろう愚行で。
……それでも、これだけだから。決してお金だけの話じゃない――気持ちなど色々な面で真摯に支えてくれた二人に全てを返すなんて、一生かけても叶わないかもしれないけど、それでも……今、僕にできるのはきっとこれだけだから。




