幕間『天国の味噌スープ』
ほんの少しだけ時間を戻す。
病室のベッドで初めて目が覚めた時。シエルが左隣のベッドで、まだぐっすり眠っている時へ──
〇
「あっ」
腹の虫が鳴く。思えば昨日の食事は、激苦ドリンクとシエルに分けてもらった味噌汁だけだ。
「もうすぐ朝食の時間ですから少々お待ちくださいね」
「あぁ、ありがとうございます」
看護婦さんが、俺の背中に包帯を巻きながら言う。
朝食は『食事ガチャ』で用意する事が出来る。しかしここは病院だから、栄養の考えられた病院食を戴こう。
ベッドから食事、優しい心遣いまで、感謝してもしきれない。
「あっ」
今度はなんだろうと看護婦さんが俺の顔を見つめる。
「あの、入院費なんですけど」
「えぇ、どうしました?」
「すぐに払えそうに無くて……どうすればいいでしょうか?」
職なし金なし身寄りなし、と絶望的な状況だ。現時点、もちろん入院費は払えない。
これからの対応について、聞いておく必要がある。
「心配いりませんよ、無償です」
俺の心配を余所に、看護婦さんは微笑んで言う。
「え、本当ですか!?」
「本当です」
なんと慈悲深い世界だ。
驚きもあるが、一先ずは安堵した。
それから数分後。朝食の時間になり、お盆に乗った食事が各患者に運ばれる。
献立は、短いバケットとコンソメスープ。飲み物はカフェオレだ。
異世界の割に馴染みのあるメニューで、意外に思った。
「いただきます」
看護婦さんは配膳で、今は隣にいない。
シエルは未だ左隣のベッドで寝ている。
兵隊さんは右隣のベッドで、「んまいな」と呟きながらパンを齧っていた。
久しぶりの食事に、嬉々として俺はパンに齧り付いた──。
「ご馳走様でした」
手を合わせ、感謝をする。
お盆は看護婦さんが回収してくれた。
腹が満たされ、幸福感に満ちる。
「天国にミソシルはあるんだね……」
シエルの変な寝言を聞き流しながら、俺は再び眠りについた。




