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【ガチャ】が運命る異世界生活  作者: マネキ・猫二郎
第一部『天国篇』第一章『スタートライン』
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第四話『VS死霊術師』

 夜の草原に、ゴーストの青白い顔が浮き彫りになって無数に彷徨っている。まさに地獄絵図のような光景だ。


 しかし夜風が涼しい。しかし星空が綺麗だ。

 そして何より……



 「月が綺麗だな!」

 「そうだねシンヤ!」



 出会って一日目で言うようなセリフではない。しかしそれでも俺はすでに、シエルが大好きだ。間違いない。俺は『大当たり』を引いた。



 「しかしシエル、競走なのに手を抜くのは、いただけないな」



 先程の競走を思い出す。


 シエルは全速力の俺と肩を並べていた。それも話をしながら。走り終えた後も息を切らしている様子は無かった。つまり彼女は俺より体力がある。未だ体力が回復していない俺より速く先へ進めるはずだ。

 

 これ以上ゴーストが増える前に、どちらかがなるべく遠くまで行き、夜を越せる場所、もしくは頼みの綱を見つけるのが得策だ。

 

 せめて彼女だけでも。などと、しみったれたセリフは言わない。もちろん、みんな揃ってのハッピーエンドを目指して走る。



 「ガンガン行こうぜ!」

 「……! うん!」



 強く頷いて、シエルは先を行く。

 


 〇

 

 

 それから数分走った。


 シエルとは、ギリギリ見えるくらいの距離が開いた。やはり隣に彼女がいないと心細い。

 まだ余裕はあるものの、ゴーストとの距離は縮まっている。このまま助け舟が現れなければ、いずれ体力が底尽きて、ゴーストに殺される。

 

 月が雲に隠れ、一寸先は闇。

 でも、進むべき方向は決まっている。

 このまま真っ直ぐだ。

 俺は微笑んだ。彼女も微笑んでいるだろうか。

 雲がはけ、再び月が地上を照らす。

 

 ──どうやら彼女も微笑んでいるらしい!



 「墓地だ!」



 俺からしたらまだ遠く。彼女からすれば目の前に墓地を見つけた。つまり、町か村が近くにある可能性を示している。


 さらに約一・二分走った。

 シエルはもう見えない。


 先程まで遠くに見ていた墓地に入る。



 「マジかよ……!」



 と、俺が墓地に入った途端、墓石の根元から腐乱した人型が這い出てきた。仮にゾンビと呼ぶ。

 さらに道は上り坂だ。自ずとスピードが落ちる。



 「……っ!」


 

 襲いくる彼らを腕で薙ぎ払いながら先を行く。不幸中の幸い。ゾンビは脚が遅い。俺に辿り着くのは、ほんの数体だった。


 恐怖を希望で払拭しながら、ひたすら突き進む。



 「……()っ!」



 酷使したふくらはぎが攣った。

 緩やかとはいえ、長い上り坂。

 全速力は出せない。しかし全力は出せる。



 「ぬおぉぉぉおおお!!!」



 汗も冷汗も滲ませながら登り切り、やっと道は平坦になる。しかしゴーストやゾンビらは、すでに背後まで迫っていた。さらにしかし、俺には見えていた。

 

 ──それは、墓地の終わりと町の灯り、そして無事に先をゆくシエルの姿だ。



 「変な道から来られたせいで、探すのに手間が掛かりましたよ」



 安堵したのも束の間。聞き覚えのない声と共に、ローブを纏った怪人が現れる。手には大鎌を持っていた。

 立ち止まりかける脚。後ろも前も塞がれている。


 ──立ち止まったらダメだ!


 咄嗟の判断だった。右に避けて進もうと地面を蹴る。でもそれは、誤った判断だったかもしれない。



 「ヒヒヒ」


 

 不気味な嬌声と同時、大鎌に背中を切り裂かれた。一瞬の間をおいて灼熱を帯び、焼けるような痛みが背中を走る。



 「─っぁああ゙───!」


 

 叫ばずにはいられなかった。


 倒れ込み、涙を零しながらも前を見据える。

 遠く前方でシエルが立ち止まり、こちらへ振り返るのが見えた。

 はっきりとした表情までは見えない。それでも、彼女が悲しそうに顔を歪めるのは感じ取れた。



 「──ヤァー! シ─ヤァー!」



 断片的に聞こえる声。明確に哀しみを帯びていた。

 ああ、また不安にさせてしまった。



 「さて、憎きあなたを苦しみから解き放ち、()()()()()()()にして差し上げましょう」



 彼が()()()と呼ぶのは、状況からしてゴーストやらゾンビの事だろう。予想だが、怪人は『死霊術師(ネクロマンサー)』。ゴーストやゾンビを操っているボスは、こいつだ。



 「恨まれるような事は、してないと、思うんだがっ?」

 痛みに喘ぎながらも、時間稼ぎを兼ねて質問する。



 「立場ですよ立場」



 怪人は少し思案した後に、そう呟いて大鎌を振り上げた。同時に俺は大きく息を吸う。そしてありったけの大声で、シエルに叫ぶ──



 「ゴールはその町の中だあぁ!!!」



 怪人が大鎌を振り下ろす。その瞬間を狙っていた。抱え込んでいた激苦ドリンクを投げつける。



 「なっ……!」

 


 反応が間に合わず勢いそのまま、大鎌が激苦ドリンクのボトルを突き破る。ドロドロの液体が辺りにぶちまけられ、怪人に降り注ぐ。

 怪人は鎌の操作を狂わせ空ぶった。



 「クソっ!」



 (ひる)む怪人から、這って距離を取る。


 

 「何をっ…何を飲ませたぁ」

 「そりゃあ味わってのとおり……」



 怪人を見つめ、悪戯に笑う。


 

 「濃〜い苦汁♡」

 「この小童(こわっぱ)がぁ!」



 怪人が再び鎌を振り上げる。俺は最後の力を振り絞り、立ち上がって一歩前へ出る。


 出し惜しみは許されない。

 盾の代わりにでもなればと、パジャマのポケットからミニチュア化した『小屋(木製)』を取り出して、地面に投げつけた。


 俺と怪人との間。瞬時に小屋が現れる。大鎌は勢いそのまま、小屋の壁をグチャグチャに壊し崩した。


 ゾッとしながらも町の方を確認する。

 思わずフッと笑いが溢れた。



 「想像以上に期待に応えてくれたな、シエル」



 装備を纏った大勢の戦士が、町からこちらに向かってきていた。

 中でもローブを纏い、魔法使いの為りをした者達が、流星のような攻撃を放ち、ゴーストやゾンビを蹴散らしてくれる。



 「どいつもこいつも……!」



 怒りを鎮めようと、怪人は深呼吸を挟む。



 「今回は見逃しましょう。しかし次はないと覚えておきなさい。……野郎共! さっさと土に還れやあ!」



 上品な口調に戻ったかと思えば、ドスを効かせてゾンビやゴーストに怒鳴りつける。それから「フンッ」と鼻を鳴らして、影に溶けていった。



 「お手本みたいな小物だな」



 その小物に受けた傷が背中にある訳で、激痛が走る中、それでも俺は大笑いした。

 


 〇

 


 「……っ」


 

 背中の痛みに目が覚める。

 ベッドの上に、上半身裸のうつ伏せで寝ていた。

 夜は明け、カーテンからは陽光が射し込んでいる。



 「おや、無事起きられて何よりです。お加減はいかがですか?」



 声のする右へ首を回す。看護婦さんだ。彼女は消毒液の染みた綿で、俺の背中を優しくつついている。



 「背中と脚がまだ痛みます」

 「それはそうでしょう。昨日の今日ですからね」



 談笑を交えつつ、今度は左に顔を向ける。

 彼女、シエルは左隣のベッドでぐっすり寝ていた。

 


 「彼女が助けを呼んでくれたんですって」

 「……起きたらちゃんと、感謝しなきゃですね」



 看護婦さんは体液の滲んだ綿を捨て、新しい綿をピンセットで摘み、再び背中を優しくつつく。

 ピンセットと綿の入った小さな皿の、コツ、コツ、と触れ合う音が心地よく響く病室。



 「いいよなあ! こんな別嬪(べっぴん)さんが連れなんてよお」



 ふと元気な声で、右隣のベッドに寝ている男が羨ましそうに言う。看護婦さんで隠れていて、気づかなかった。



 「彼もあなたの恩人ですよ」

 「おうよ」



 俺のお父さんくらいの年齢に見える。しかし、メタボだったお父さんとは一線を画すガタイの良さだ。


 

 「彼は昨晩、門の見張り番をしていた兵士です。今にも泣き出しそうな彼女から事情を聞いて、早急に助けを呼んでくれました」


 「その最中に転んじまって、俺もここにいるって訳よ」



 看護婦さんの説明を、兵士は冗談めかして補足する。その気遣いに、頭が上がらない。


 

 「お力添え、ありがとうございます。その、お怪我の方は」 


 「手の着き方が悪くて指一本ポッキリだ。なあに、どうってことねえよ。今日も午後からは門番やれって言われてらあ」


 

 兵士の男は、軽い調子で言葉を続ける。



 「別嬪さんを大事にしろよ。他の門番当番から聞いた話だと、俺に事情を話してすぐに、お前さんの元に向かったってんだ」


 「────!」


 「『危ないから町ん中で待ってろって忠告したのに、脇目も振らずに走っていくもんだから、追いかけるのが大変だった』って同僚が愚痴を零してたぜ。すかさず俺は、『この歳で女を追いかけられるなんて良い経験じゃねえか』と返したが……」



 左隣のベッドで、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てるシエルを見つめる。


 

 「あなたが墓地からこのベッドに運ばれるまで、ずっと隣で『頑張れ、頑張れ』って声を掛けてたんですよ」──看護婦さんが優しい声色で言う。

 

 「まあなんだ。つまりお前さん、相当愛されてるな」──兵士の方が、少しからかい気味に言う。


 「本当に──……嬉しいことですね」



 また彼女と軽口を言い合えること、笑い合えること、共に食事が出来ること、彼女と過ごすあらゆることが、楽しみで仕方がない。

 でも今は、ゆっくり休むとしよう。


 ──競走は今のところ、二戦中どちらも引き分けだ。

 


 〇


 

 再び目が覚める。が、最初に目覚めた時と明確に違うところが一つある。それは──……



 「おはようシンヤ!」



 目の前に、屈託のない笑みを浮かべる彼女、シエルがいることだ。

 心から歓喜が溢れ出し、それは笑顔になって表現される。



 「おはようシエル、昨日はありがとう!」

 「お互い様だね!」



 喜びの中、シエルの澄んだ青の目をしっかり見つめて、心からの感謝を伝える。


 互いに微笑み合う幸せが、病室を満たした。



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