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【ガチャ】が運命る異世界生活  作者: マネキ・猫二郎
第一部『天国篇』第一章『スタートライン』
3/6

第三話『ダッシュ』

 ──歩き続けて数時間。


 何度も倒した木の棒に愛着が湧き、会話の種として二人で名前もつけた。協議の結果、彼の名前は『棒切れスティくん』となった。


 くだらない会話をし続けて、すでに夕暮れ時だ。相変わらず草原にいる。



 「夕陽が綺麗だねシンヤ!」

 「あぁ、綺麗だなシエル」



 シエルは出発時とテンションが変わっていない。だが俺は完全に失速している。とにかく楽しく行こう、そう意気込んで序盤にテンションを上げすぎた。

 

 疲れや、昼食をあまり摂れなかった空腹もある。

 今日のところはここで休むか?


 ポケットに入った『小屋(木製)』のミニチュアを片手に握った時だった。



 「あっ!」

 途端、シエルが感嘆符を零す。



 「どうした?」

 「あそこ」



 彼女が指さす方向を見ると、そこには人がいた。


 

 「人だ……」

 「うん、人だよシンヤ」

 「人、人だよシエル!」

 「人だねシンヤ!」


 

 徐々に喜びが込み上げてくる。もしかすると、近くの町について何か情報を得られるかもしれない。人が行き交う場所にさえ行けば、きっと冒険も進捗する。


 

 「よくぞ見逃さなかった、ありがとう!」

 「どういたしましてだよシンヤ!」



 互いに向かい合って笑い合う。


 

 「よぉし! そうと決まれば、早速あの人の所まで行くぞ!」

 「競走だね!」

 「よし乗った!」



 希望が見えたお陰で、疲労も空腹もぶっ飛んだ。そこそこ距離はあるが、今なら走れそうだ。



 「じゃあ行くぞ。『よーい……ドン!』」



 お馴染みの掛け声と共に地面を蹴る。しかし、


 

 「なにそれー?」



 シエルには伝わらなかった。

 少し進んだ俺は、後ろ歩きでスタート地点へ戻る。


 

 「って言ったらスタートだ!」

 「了解だよ!」

 「それじゃあ位置について──

  よぉ───い…………ドンッ!!!」



 瞬発的に地面を蹴る。強く蹴る。素早く蹴る。とにかく前に出ることだけを考える。五十メートル走を七秒ジャストで走り抜いた実力を見せてやろうと、闘志が滾る。


 褒めるにも貶すにも難しいタイムであることは承知の上、今は調子に乗りたい気分なのだ。と、彼女との差を確かめようと横を向くと、ぴったりついてきていた。



 「同じくらいだねシンヤ!!」



 声を出すと呼吸のリズムが乱れそうで、軽く頷くことしかできない。一方彼女は、軸をぶらさずに走れている。差は僅かにして良い勝負だ。


 ゴールはあと少し。もうひと踏ん張りだ。


 風が気持ちいい。夕焼けが綺麗だ。自然に祝福されているような気分になりながら、ラストスパートを駆け抜けた。


 結果は──……



 「っ……ハァ、ハァ、ほぼ同着だ」

 「引き分けだね!」

 「あぁ、今日のところは、引き分けだ」



 互いに勝敗を確認しあう。引き分けながら、気持ちよく走れた満足感がある。浸りつつも、前を見据え、目的の人に話しかけた。



 「ハァ、すみません。私、旅の者ですが、この辺りに村や町は、ありませんか?」


 「────」



 返事はない。それどころか、俺たちに背を向けたまま、ゆっくりと前に進んでいる。



 「あの、すみませ……」

 「ねぇシンヤ」



 既に息の整ったシエルが、俺の肩を軽く叩いて言う。



 「この人、浮いてるよ?」

 「……え?」



 反応がない人の足元へ目線を向けた。しかしそこには何も無かった。



 「──っ!」



 逃げようと、咄嗟にシエルの手を掴む。

 急な行動に、彼女が「わっ」と驚く声が聞こえたのと同時、振り返ると目の前に、この世のモノとは思えない形相をした男が立っていた。



 「ひぃっ……!」

 心から驚くと、人はロングトーンの声が出せなくなる。



 それでもと、身体の向きを変え、走り出す。

 走り終わったかと思えば、また走る羽目になった。全速力を出す体力はもう残っていない。



 「くっそぉ……!」

 「どうするシンヤ!」



 並んで走るのは、異世界生活一日目にして、俺にとって横にいなくちゃ寂しい存在となったシエルだ。


 

 「とにかく走るぞ!」

 「了解!」



 宙に浮いて移動する、死人の形相をした奴ら。

 仮に彼らを『ゴースト』と呼ぶ。

 幸い、ゴースト達の移動速度は大して早くない。距離が広がるまで、そう時間は掛からなかった。



 「よし何とか、って言いたいところだが」



 すでに夕陽は見えない。

 辺りは一層暗くなり、灯りも無いため周りが見ずらい。かろうじて捉えた情報は、良いものではなかった。



 「ゴーストがうじゃうじゃ湧いてやがるっ!」



 作戦を立てるべく、近くにある木陰にしゃがみこんで身を隠す。


 

 「まずいねシンヤ」

 「まずいぞシエル」



 とにかく今出来ることを考えた。



 「シエル、ガチャを引こうと思うんだが、引くか?」

 「うん引きたい!」

 「よし、ではその手に命運を託そう」

 「託された!」



 俺は一日一回『アイテムガチャ』をタップする。今のところ引ける最後のガチャだ。


 ガチャガチャ機が目の前に現れ、シエルは緊張した様子でハンドルに手を伸ばす。一方俺は、『棒切れスティくん』を地面に突き立てていた。


 ずっとここにいても、増え続けるゴーストに囲まれたら終わり。ならば早めに動いて、ちゃんと安全な所を見つけた方が良い。


 

 「どうせ土地勘のない俺らからしたら、どっちに進んでも同じなんだ。だからお前は、俺たちが道に迷って止まらないよう、進む理由になってくれればいい」



 願掛けも兼ねて、スティくんに一通り語りかける。手を離すと、スティくんは手前に向かって倒れた。つまり俺たちが行くべきは後方だ。


 一方真横では、シエルがガチャを引き終えていた。



 「黄色だ!」

 「なっ……」



 一回目に『食事ガチャ』を引いた時も黄色のカプセルだったが、結果は『大ハズレ』だった。

 仮にカプセルの色が内容を示唆しているのであれば、これは『大ハズレ』のアイテムだ。



 「ハズレ?」



 俺の反応を見て、シエルが不安げな表情になる。



 「いいや、大丈夫だ」

 「だよね!」



 彼女がカプセルを開ける。中に入ったお馴染みの安っぽい紙に書かれていたのは──……「『激苦ドリンク(500mlボトル)』」


 

 「『アイテムガチャ』にもいるのかよ!」

 「やっぱハズレ?」

 「案ずるな。いいかシエル、物はなんでも使いようだ。きっと後で役に立つ」

 「そうだよね……」



 彼女の声色が不安を帯びる。俺にもっと頼り甲斐があれば、と自分の不甲斐なさを悔いた。


 排出された『激苦ドリンク』は律儀にボトルに入っていた。『食事ガチャ』はその場での消費、『アイテムガチャ』は持ち運びが想定されているのだろう。


 とにかく今は……



 「我らが心強い仲間、『棒切れスティくん』が俺たちの真後ろを指した。とにかく突っ切るぞ」

 「うん……」



 彼女の声色は落ちきっている。

 彼女が不安になると、俺も不安になる。

 これは良くない。



 「いいかシエル。これからするのは、俺とお前と、そしてバケモノ共の三つ巴競走だ」

 「──!」



 こういう時は楽しいことを考えて笑おう。

 楽しくないなら、楽しくしよう。

 俺だって不安だ。だけど笑っていなければ、笑って前を見据えなければ、負けてしまう。


 さぞこれからお楽しみだと言わんばかりのドヤ顔で、シエルに話しかける。



 「容赦はしないぞ。俺はこう見えて負けず嫌いなんだ」

 俺が微笑みかけると、

 「……うん、望むところだね!」

 君が微笑む。


 

 「それじゃあ位置について──

  よぉ───い……」



 ドンッ! の掛け声と共に、二人は再び走り出した。



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