王配リオは苦笑する
年に二度ある、テキラナ諸侯との大会議が閉幕した。
この過酷を極める会議の後は、三日間の休日となる。
元は、帰路に着く諸侯らのための休日であったが、いつの頃からか国民全体の休暇期間となり、最近では王配を迎えた女王達の休息期間にもなった。
王の館。
手入れされた中庭の東屋で、アココトリとチトニアが深刻そうな面持ちで何やら話している。
その様子を離れたところから見ているのは、リオとラウルだった。
騎士らしい立ち姿のまま、目線をそれぞれの伴侶から離すことない二人は、先程からお互いにしか聞こえない声量で囁き交わしていた。
「ほら、ココがこちらを見ている。我が君はご立腹のようだぞ?」
「俺のせいですかね?まぁ心当たりはいくらでもありますけど」
「ラウル。ほどほどにしないと愛想尽かされるぞ」
「ええ…?それでも俺はチトニアにしがみついて離れませんけど…」
苦笑するリオの隣で、ラウルは相変わらずチトニアしか見ていない。アココトリが先程からラウルに向かって「こらっ」と叱る表情をしていても目に入ってなかった。
「チトニア様が真っ赤になってるが…」
「見ないでくださいよ、減っちゃうでしょ」
「何が減るんだ」
「チトニアのチトニアが」
「…」
リオが忍び笑いをもらした。
「それで?どんな心当たりが?」
「閨が九割、あとは日々の事が諸々合わせて一割ですかね」
「…婚姻後からいくらか経ってるとは言え、少し加減して差し上げたらどうなんだ。…初めてだったんだろう?」
「リオさん、ソレできます?」
「善処はすると、思う」
「俺もね、まぁ善処はしまくりましたけど、難しいんですよね。だって途中で理性吹っ飛びますし」
「…」
「毎日チトニアを見てますけど、飽きないんですよね。日中もずっと見てますけど、夜なんてもう寝れなくなります。日中とは別人みたいになるんで」
「…そうか」
リオは常々思っていたが、いよいよ確信した。
「ラウル、君は変態だな」
「リオさんに言われたくないんですけど」
「はぁ?!」
「アココトリ陛下とエグい房事してるでしょ」
「な」
「俺からしたら、すんごい羨ましいですけどね」
「…」
「チトニアが閨で積極的になったら、たぶん俺、鼻血出しすぎて死ぬかも」
「それは言い過ぎだろう」
「いやぁ結構そんな気がしてますよ。この間なんか閨で名前呼ばれただけで」
「まて。別にそんな話は聴きたくない」
失礼しました、とラウルが定型文を読み上げるように呟く。リオが仕切り直す。
「俺が言いたいのは、あまり過度に可愛がりすぎるのも良くないって事だ」
「でもリオさんも俺と同じタイプでしょ??自分のモノに執着するあまり、あの手この手で啼かせるとか普通にやりますよね?」
「…当たり前のことだと思ってたが」
「いやぁ、どうやらそうじゃないらしいですよね」
「…そうじゃないってなんでわかるんだ?」
顔を上げてアココトリになにか話し始めるチトニアを、ラウルは満足そうに見つめる。本当に顔を眺めまくっているのか、とリオは少し感心した。
「アココトリ陛下は分かりませんけど、チトニアは即位後に性教育を受けたんですよ。俺も立ち会いました」
子がどうやってできるのか、という初歩的なことから、成長の過程などを学んだ。
「とは言え、口頭だけで説明されてもチトニアには分からないじゃないですか」
実際、ずっとチトニアは首を傾げていて、何が分からないのか分からない状態であったという。
「で、途中から俺も一緒に一般的な閨事の講義を受けたわけです」
「ふむ」
「びっくりしました」
「…何に」
「子種を受け取ったら閨は終わりです、だって」
リオが思わずラウルの方をむく。
ラウルは変わらず前方のチトニアを見つめたまま、頷く。
「一度受け取ったら終わりなんですって」
「馬鹿な、有り得ない」
愕然とするリオに同意するように頷くラウルが続けた。
「その後は、まぁ睦み合うやり方に移るわけなんですが、当然チトニアに口頭だけで説明しても伝わらないんですよね」
「…」
「ここからは実践するしかないんですよ。どうやったら男が元気になるのかとか、それをどこに挿れるのかとか、なんなら子種がなんなのかとか」
ラウルは丁寧にひとつずつチトニアに触らせながら教えたという。
最初は理性を総動員させていたが、元々理性的という言葉からかけ離れたラウルなのだ。当然、崩壊する。
崩壊すれば、あとはなし崩しで物理的に可愛がる方に移行するしかない。
「そんなの、一回で終わらないですって」
「それならまぁ…理解はできる。むしろよく頑張ったとしか」
「リオさんならわかってくれると思ってましたよ」
「俺からもココにフォローは入れておく…」
「それはありがたいです」
二人揃ってまた、東屋の妻たちを見つめる。
苦笑するアココトリに、少し拗ねたような顔のチトニアが何かを話していた。
「うーわ、可愛い…」
「君はブレないな」
「リオさんも顔がユルユルですよー」
ラウルの指摘にリオが咳払いをする。
「あの閨の講義も、ピオニア様のために急遽作られたものらしいので、時代がかってるというか前時代的というか。当時の女官長が作ったものらしいんで、あんまり参考にはならなかったんですけど、チトニアがそれを信じちゃってるんで」
「それは……ちょっと困るだろ」
「だいぶ困ってますよ」
「…」
「なので俺は、【 俺たち夫婦の普通に行うこと】をチトニアに刷り込んでる最中なんですよ。早く慣れて欲しいんですけど、結構抵抗されるんで楽しいですよ」
楽しいのか、とリオは眉間を押さえた。
「そういう事でアココトリ陛下に泣きついてるんでしょうね。講義で聞いてたことと違うって」
ははは、と笑うラウル。この後、アココトリに怒られてもたぶん、動じないしスルーする。そういう男だ。
「まぁ…ほどほどにしてあげてくれ。それしか言えないけどな」
「善処します」
「…」
多分ダメだ、とリオは思った。
お腹が目立ってきてしんどそうな妻が、ソファに横たわりながら笑っていた。
妻の脚をマッサージしてやりながら、先程のラウルとの会話をかいつまんで話して聞かせる。くすぐったいと言いながらも、ラウルらしいあっけらかんとした言い訳の数々がおかしかったようだ。
「ラウルはブレないのね」
「俺も同じことを言ってやったよ」
「ふふ…講義ね」
「講義と違うって話してた?」
笑いながら何度も頷くアココトリが手招きをした。
耳を貸せという仕草に耳を寄せる。
「チトニアはね、なんであんなに参考にならない講義なのかって怒ってたのよ」
「じゃあ…ラウルに対して怒ってたわけではないと?」
「ラウルに対しては、なんだか諦めてた感じがしたわ」
「…」
リオが意外そうにアココトリの顔を見た。
妻がいたずらっぽくこちらを見あげている。
「逆に、どんなことをしたら仕返しになるのかを聞かれたわ」
可愛いでしょう?そう言って笑うアココトリに、リオは苦笑を返した。
「チトニア様からの仕返しは、かえってご褒美なのでは」
「わたくしも同じことを言ってあげたわ」
夫婦で同時に吹き出して笑い合う。
なんとも平和な、昼下がりの会話であった。
終わり




