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SPIRITS 番外編  作者: 御堂


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3/3

アココトリ [完]

チトニアが祭祀王に即位して三ヶ月経った。

チトニアの仕事ぶりに満足したらしいシャクヤクは、本格的に隠居体勢に入る準備を進めていた。

帝国にしばらく滞在する事は随分前から打診されていたと言う。道中で、約束を強引に取り付けられたと、シャクヤクは憮然とした様子で語っていた。

「アココトリよ。先に言っておくが、帝国の男は執念深い。意に沿わぬことはキッチリ断わる事を薦める」

何かを思い出したのか、シャクヤクが面倒とばかりに目を閉じた。

天壁を大鷲部隊と共に越えて、帝国の宮城に降り立つ。皇帝の計らいなのか、降り立った場所には皇帝一家とリオ、そして家令などの上級使用人の数名だけが出迎えてくれた。

ベネディクト皇帝とリリーマリー皇后が嬉しげにシャクヤクを挟んで宮城内へと入っていく。途中振り返った皇帝は、アココトリに向かってにこりと笑いかけると、さっさと行ってしまう。

どうやら気を利かせたようで、リオが視界に強引に割り込んできた。

「お久しぶりです」

アココトリの手をとってキスをする。膝まづかずに立ったままするそれは、何かを乞う立場ではなく対等な関係であることを宣言しているようで、少し面映ゆかった。

「ごめんなさい、手紙のこと…」

「開口一番にそれですか?」

苦笑するリオにアココトリは首を振った。

「違ったわね。…お久しぶり。会いたかったわ」

はにかんだアココトリを見つめてリオが目を細めた。

「私も会いたかったです。いい加減に耐えられなかったので、陛下に直談判しました」

やっぱり。とアココトリは思った。

宮城内を自由に見ていい許可をもらったというリオが、アココトリの手を取って腕に導く。

帝国式のエスコートはチトニアがよくビーマンにされているのを見てきたが、自分もされる日が来るとは思わなかった。

「ダリアの花が多いのね」

「流行ってますからね」

宮城の花園は、花が溢れんばかりに咲こぼれ、鮮やかな色彩に満ちていた。

書簡に書ききれなかったささやかな近況を話しながら、二人で広い宮城を散策する。

客人が泊まる別棟まで来ると、リオが部屋まで案内してくれた。

テキラナとは違う広くて立派な洋間だった。

「この部屋は?」

「あなたの部屋です」

リオを見上げる。

「この別棟を貸切にしてもらいました。あなたが帰るまで二人きりで過ごせるように」

心臓がひとつ、大きく鳴る。

「言ったでしょう?もう耐えられなかったと」

「………わたくしもよ?」

どちらともなく顔を寄せ合った。

「部屋から出しません。お覚悟を」



シャクヤクが言う帝国の男の執念深さが、何を、どれを指していたのか、どの事のどういう事を言っていたのかなんて確かめようはなかった。

リオの宣言通り、アココトリは帰国までの三日間、部屋から外に出ることは叶わず、ほとんどを大きな天蓋付きベッドに押し込められたまま過ごす事になった。

睦み合うという穏やかな表現が乏しい、濃密で凝縮された恋情の交換は野性味が強かった。

文字通り、精根尽き果てるまで求め合い、幸せな眠りと甘く激しい情交をひたすら繰り返すだけの逢瀬ではあったが。半年も会えなかった恋人達を責めることは、女神でもはばかられたであろう。


三日目の朝。

一人で身支度を整えていくアココトリを、半裸のリオが浴室の入り口から見つめていた。

「…」

見なくても分かるくらいに、リオの獲物を狙うような視線を感じる。この三日間で何度も味わった疼くような熱だった。落ち着かない。

「…背中のボタンをとめてくれる?」

気づかない振りで声をかけると、毛足の長い絨毯を踏んでリオが背後に立った。髪をかきあげてボタンをとめてもらう格好をするが、リオはボタンには手を触れず、腰を抱きしめて髪に顔を埋めてきた。

「リオ」

「…。約束が欲しい」

恋人の、日に焼けた首筋に唇を寄せて、リオは甘く懇願する。軽く口付けてから、腕の力を込めてねだるように髪に頬擦りをする。

「あなたは甘えん坊ね」

笑いながらリオの腕の中で身体を預ける。アココトリの顔中にキスをしながら、リオも苦笑した。

「俺は甘えん坊だから置いていかないで」

見上げると、寂しさを滲ませた視線とぶつかった。

「ココ。俺は…」

「来月に」

リオを見つめ返しながら、アココトリは微笑む。

「来月に、天壁で聖獣達の生息区域の実態調査をするの。数年に一度行っていて、わたくしは毎回参加しているのだけど…」

リオが首を傾げた。

「こんなに華やかな場所では無いし、山岳部族との合同調査になるから二人きりというのではないけど」

良かったら来る?なんて最後まで聞けなかった。

「必ず行く」

嬉しそうに笑うリオを少年のようだと思った。

きっと子どもの頃もこんな顔で笑っていたのかもしれない。そう思ったら、少し素直な気持ちになれた。

「帰りたくないのはわたくしも同じよ」

「!」

唐突な言葉にリオが少し身体を離して顔を覗き込んできた。驚きで見開かれる目を見つめながら、アココトリは精一杯の笑顔で続ける。

「わたくしはあなたよりも言葉が足りないから、思ったことはちゃんと伝えるように努力するわ」

「ココ」

「だから書簡が素っ気なくても許してほしいのだけど」

少し言い淀んでから、

「わたくしはあなたが好きよ。この数日でもっとあなたのことを知りたいと思った。甘えん坊で独占欲が強いあなたの違う一面を知っていけたら良いなと」

ぎゅう。と抱きしめられる。強い力に窒息しそうだった。

「リオっ苦し」

「あなたが愛おしすぎておかしくなりそうだ」

縋り付くように抱きしめているリオの声が、少し震えていた。後ろから回された腕を撫でながらアココトリは囁く。

「わたくしも寂しいと思ってるのを、どうか忘れないでね」

「…はい」

抱き合ったまま、迎えが来るまで静かに別れを惜しむ。

扉が叩かれなければいいのに思いながら、アココトリは恋人の腕の中で少しだけ涙を流した。



陛下(ドーニャ)、やはりお加減が悪いのでは?」

宰相のホセ・クエルボが気遣わし気に声をかけてくる。

実態調査に向かう朝である。

数日前からダルそうな様子を見せていたアココトリを秘書官も気にかけていたが。今朝は心なしか顔色も悪い。防寒具を着こみながら「そんな事ないわよ?」と笑うアココトリだったが、声にいつもの覇気がなかった。

「しかし…顔色が」

「緊張してるの。それだけよ」

珍しい弱音だった。ホセが顔を上げると、アココトリが気まずそうに外を見ている。

「恋人様と落ち合う事がですか」

ホセの言葉にアココトリの顔が一瞬で赤くなる。

ははぁん、と思わずにっこり笑うホセを睨んで、アココトリは咳払いをした。

「とにかく、元気よ。心配はいらないからっ」

忙しさにかまけて後回しにされてきたが、28になってようやく初恋を体験しているのだ。些細な事に敏感にもなるだろう。それに恋人と会うのが二度目なのだから、色んなことに気を回して人知れず悩んだりもしていたのかもしれない。

娘と同じ年頃の女王を見つめて、ホセは「わかりました」と頷く。

「慣れている環境とはいえ、天壁は過酷な場所です。くれぐれもお気をつけて」

ホセの言葉にアココトリは女王の顔で頷く。

「留守をお願いね」



実態調査は天壁の聖獣研究者と、地質学者、文官の数名、そして案内に近くの部族の戦士。彼らを中心に行われる。そこに護衛と野営設置の為に軍部からも数名派遣してもらい、調査隊ができあがった。

今日から一週間、短い時間ではあるが聖獣達の分布区域と幼い聖獣の生育状況等を確認しなければならない。

調査地域を管理する部族の集落で荷解きをしていると、リオが大鷲と共にやってきた。

「リオ!」

大鷲の背中から滑り降りたリオが、アココトリに向かって駆け寄ってくる。

「ココ、会いたかった」

強く抱きしめるリオの背中に腕を回して、アココトリも頷く。調査隊員から口笛が上がると、部族の若者たちも囃し立てる。顔を赤くしてそちらを見ると、みんなが苦笑していた。

「一週間よろしくお願いします」

「こちらこそ」

アココトリと調査隊員に向かって礼をするリオを、全員が快く受け入れた。


望遠鏡で大鷲の巣を観察する。

リオに望遠鏡を手渡しながら、聖獣の研究者を振り返った。

「使われてないのかしら」

「新しい枝葉が巣材に使われているので、食事にでも行っているのでしょう。周りに落ちてる羽毛も綺麗です。産卵はこれからですね」

ノートに書付ながら早口で説明してくれる研究者。その横で文官が巣の形状をスケッチしており、場所なども細かく書き記していた。

身を屈めて親鳥の帰還をまつ。しばらくすると、遠くの方から、大鷲特有の鳴き声が聞こえてきた。

研究者が望遠鏡を覗きながら、文官に大鷲の特徴を伝えている。細かい模様の形状までしっかり書き込んでいた。

巣に戻ってきた二頭が、身体を寄せあって啼きあっている。食べてきたものの報告なのだろうか。そんな事を思っていると、

「あの番は本当に仲睦まじいな」

研究者が嬉しそうに呟く。アココトリとリオの視線を受けて、小さく咳払いをした。

「私がこの研究をするようになってから、ずっと見てきたカップルなんですよ」

20年くらいになるという。

「素敵ね」

「大鷲はまだ分からないことも多いですが、愛情部深い種であるのは間違いありません。番や我が子に対して惜しみなく献身を捧げる姿は、いつ見ても感動しますよ」

「そうでしょうね」

ふふと笑うアココトリの横顔をリオが見つめている。

「どうしたの?」

「いや…なんでもない」

「?」

首を傾げた時だった。

次のポイントへ向かう合図がする。

立ち上がって踏み出そうとした瞬間に、視界が回った。

「ココ!」

リオが抱き留めてくれたおかげで怪我はせずに済んだが。

「ごめんなさい、ちょっと」

顔を覗き込んできたリオが眉を寄せた。

「顔色が良くない」

今朝も言われたが元気だと伝えても、リオは首を振った。

「陛下を集落まで送ります。調査を進めてください」

「ちょっと…」

「集落に戻って本当問題がないなら、私がまた連れてきますので」

顔を見合せた調査隊員達が頷き合う。

「戻ってきてくださいね。次は陛下が楽しみにしていた狼の神獣の区域ですから」

研究者が待ってますよ、と言って歩き去っていく。

アココトリは口を尖らせた。

「大丈夫なのに」

「その顔色で言われても信用できない」

リオに手を引かれて集落まで戻っていく。

戻る途中でしゃがみ込んだアココトリを見て、とうとうリオが抱き上げた。

「ごめんなさい、貧血なのかも」

「…俺に会いたくて無理をした?」

小さく笑うリオを見上げて、微笑み返す。

「そうね。熱が出ても這って来るつもりだったわ」

「いじらしいことを」

「…下ろしてちょうだい。無理はしないから」

足場がかなり悪い。人を抱いて道を下るのは危険すぎた。

「少し戻ったところに洞窟があったはずよ。日ももうすぐ暮れるからそこで夜営しましょう」

万が一はぐれても大丈夫な準備はしてきている。アココトリの提案にリオが頷いた。


仕留めたウサギの肉を焼いて、ついでに持参した食糧などでスープも作る。

火に当りながら寄り添い、取り留めもない話をして、穏やかな時間を過ごす。

子どもの頃の話や、大人になってからの話など、異なる環境で生まれ育った二人のそれぞれの話は、お互いに興味深いものだった。

リオの両親の話、領地の話、学校時代の喧嘩の話などは、テキラナではあまり聞くことのない内容だったせいもあり、アココトリは熱心に聞き入っていた。

「テキラナは家族という意識は薄いかもしれないわね」

何より子どもが優先される国だ。子を作ることは義務でもあったが、喜びでもある。アドルフォのように家門のために嫁を迎えて、あるいは婿をとって、存続を堅固なものにすることも多いが、それを絶対ともしない風習は帝国では受け入れられないだろう。

「大鷲の厩舎で話していた時、あなたは俺にひとつ…嘘をついたでしょう?」

親善試合に誘われた時の話だろう。

顔を上げると、リオが真剣な眼差しで見つめてきていた。

「あなたはあの時、おれをスカウトしたいと言っていた」

「そうね」

「本音は違ったでしょう」

「…」

「表情や目の動きで、大体の事はわかるんですよ」

これでも騎士団長なので、とリオが微笑む。

「…あの時、本当は何が欲しいと思った…?」

低く囁くリオの声に、心臓がうるさく鳴り出す。

「言わなきゃダメなんでしょうね…」

「無理やり言わせても良いけど…?」

うっすらと熱を孕んだような言い方に、耳が熱くなったのを感じた。リオから顔を逸らしてアココトリは呟く。

「あなたとの子が…欲しいと思ったの」

言ってしまった。惹かれているかどうかもわからない、まだあやふやな感情を抱えていたというのに。

羞恥で熱死しそうだ。抱えた膝に顔を埋めると、

「顔を上げて」

「恥ずかしいから無理よ」

「そんな時から俺を求めてくれてた、と」

「やめて、恥ずかしいから」

「どうして俺を?」

からかうような言い方だが、声は嬉しさが隠しきれてない。

少しだけ顔をあげると、膝を立ててこちらを覗き込むリオと目が合った。

「わたくしはこれでもテキラナの戦士よ。強い雄がいれば自然とそう考えるわ」

「…。ひとつ、告白します。俺もあなたにひとつだけ嘘をつきました」

改まったリオの声に顔を向ける。

「ディノ殿下を打ち負かした親善試合なのですが」

「…わたくしが即位する前に招待された時のことね?」

ええ、と頷いてからリオはアココトリを見つめる。

「実は、あの時にあなたに一目惚れしました。ルイ殿下がテキラナに向かう事の後押ししたのも……あなたにもう一度会いたかったからです」

「……」

「しなやかな剣さばきと、羽のような身のこなしが見事でした。何より強烈だったのは、兜をとったあなたの顔を見た時でした。こんなに美しい女性が隣国にいるのかと衝撃を受けたのです」

アココトリの赤い髪を取りながら、慈しむように口付けてリオは微笑む。

「テキラナで再会したあなたは、あの頃よりずっと美しく成長していて、実は胸が高鳴りっぱなしでした」

「気づかなかったわ」

「でしょうね。あなたは女王として忙しすぎて、ルイ殿下の侍従役の俺を見ている余裕は無さそうだった」

確かに、ルイと話す機会は多かったが、リオと個人的に話す事は全くなかった。

リオは続ける。

「俺の恋情は重いそうです。よく騎士仲間に言われます」

「重い?」

「何年も飽くことなく、いつ会えるかもわからない、ましてや身分の違う女性を想い続けられる男はそういない。それを執念と呼ぶヤツもいましたが」

言葉が出てこない。

「そこまで想い続けて来た相手が、俺の事を強い雄としてでも…認識してくれた事が嬉しい。どうしようもなく幸せで、どうにかなりそうだ」

リオの目に熱が籠っていく。

「リオ、あまりこっちを見ないで」

「なぜ」

「少し…息苦しくて」

スッとリオの気配が遠のく。ホッとして息を吐き出すと横から抱きしめられた。

「ココ、俺を拒絶しないで」

「しないわ。あなたはわたくしを奮い立たせてくれた人だもの」

少しだけ身体を離したリオが、不安そうにこちらを見ている。

「甘えん坊で執念深いリオ、あなたを愛しているわ」

顔を覗き込んでから口にキスを贈る。

「わたくしの伴侶にするなら、あなたがいい。あなたを王配として迎えることは難しいけれど、あなたとの子は何人でも欲しい。離れている間、そんな事ばかり考えていたわ」

「ココ…」

「言ったでしょう?あなたはわたくしに勇気をくれたわ。…告白には驚いたけど、会えない期間に何を思って、眠れない夜にあなたの事をどれだけ考えていたか。ちゃんと話そうと思ったわ。…だから気が抜けたのかもしれないわね」

リオと目が合ったまま、緩く口付けを交わす。

「体調はどう?」

「だからこれでも元気なのよ」

苦笑するとリオの手が首に添えられ、熱を計るようにする。微笑み返されたので、やっと安心したのだろう。

アココトリを抱き上げて、対面で座り込む。

軽い口付けがやがて深く絡みつくようなものに変わり、リオの切なげな目が先に進みたいと言ってきた。



ひと月後。

「ご懐妊おめでとうございます」

王の館に呼んだ医務官が穏やかな笑顔で告げてきた。

付き添っていたチトニアが小さな歓声をあげた。

「姉様…!!」

手探りで抱きついてきた妹を抱き締め返す。医務官と入れ違いに入ってきた宰相が顔を綻ばせていた。

「リオに手紙を…」

「手紙よりカナリアですわ!」

きっと声を聴きたいだろうから、とチトニアが力説する。その方が喜ぶから、と言われればそれもそうだと思ってカナリアを飛ばすと、返事はすぐに帰ってきた。

【側に居させてください】

宰相から皇帝宛に、大至急リオの訪問を求める書面を出してもらい、入国に関する諸々を片付けてもらう。

安定期まで視察や討伐等は行けないため、現場指揮役やら司令塔役の任命やらを急ピッチでこなしていくと、気づけばお腹が膨らみ始めていた。

リオがテキラナ入りしたのは4ヶ月に入った頃だった。

「職を辞して来ました」

「!?」

お腹に耳を当てながら幸せそうな表情のリオが続ける。

「離れていることに耐えられなかった。あなたの傍に侍る事を許して欲しい」

「リオ…」

「あなたは王配を迎えるのは難しいと言ってたが、そんなのは簡単なんですよ」

リオが顔を上げてアココトリを覗き込む。

「なれ、と言ってください。そのために来ました」

「…本当にいいの?」

はい、と頷いてリオは膝を折る。

「あなたと子どもの為に生きます。あなたを愛してしまった時から、そのつもりで生きてきました」

ゆるぎのない眼差しに、また何度目かの勇気をもらった。

「リオ…あなたをわたくしの夫にします。どうかずっとそばに居てね」

「ありがとうございます、我が君」

返答したリオの声は震えていた。それを聞いて、アココトリも少しだけ泣いて、そして微笑んだ。






アココトリ・アガベアスルは、王配リオ・フリオとの間に三人の子を授かった。

それぞれに能力の高い子ども達ではあったが、そこから次代の統治王を指名することはなかった。

次代の指名を受けたのは、長姉ジャカランダの三番目の息子で、早い段階から自分の子として引き取って養育し、教育を施していった。

アココトリは王配としてリオを側に置いたが、これまでの何もしないさせない伴侶という慣例は廃止した。

伴侶の能力を最大限に活かせる仕事を任せるように改革をし、王家の典範にも改定を命じた。

次代に譲るまで、アココトリはリオと共に討伐に赴き、リオと共に視察や生態調査にも繰り出し、二人で統治することを何よりも優先した。それが未来の統治王達の指針に少しでもなれたらいいと思っての行動だった。

女神アガベピニャの計らいか。婚姻を結んでから片時も離れない二人は、死ぬ時も共に居た。

隠居後の天壁での実態調査中、地滑りに巻き込まれたのだった。

救助の為に掘り起こされた時には、二人はしっかりと抱き合っていたと言う。傷だらけのリオがアココトリの頭をしっかりと抱き込んでいたおかげで、その顔は眠るような穏やかさがあったと、皆涙した。


帝国で繰り返し上演された騎士と女王の恋物語は、二人の最期を新たに追加することで完結となった。

世にも美しい恋人達の話はようやく、幕を閉じたのである。




おわり

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