アココトリ
自室に戻る途中で、後ろから声をかけられた。
振り返ると、暗がりの向こうから、灯りを持ったアドルフォが隊服のまま歩いてくるところだった。後ろに二人の従卒を従えている。
「お疲れ様。見回りかしら?」
「そんなものです。宴が終わるまではしっかり警備しますよ」
「ありがとう」
にこりと笑ってみせると、アドルフォは背後の従卒達に先に行けと命じた。
まだ若い従卒達の背中を見送ってからアココトリはアドルフォを見上げる。
「何か用?」
「いや…宴はもう良いのか?」
若干砕けた口調になる。二人きりの時はいつもそうだった。
チトニアが王配を正式に決めた祝いの席が設けられていた。身内と縁者のごく限られた人数のささやかなものだったが、皆嬉しそうに酒を酌み交わしていた。
アココトリは笑いながら緩やかに首を振る。
「もう少し居たかったけど、さすがに疲れたわ」
朝から戦闘訓練をこなし、政務を片付け、各方面から寄せられる陳情への回答、魔獣の出没情報の整理、討伐隊の派遣要請への対応などを諸々行っていた。アドルフォも僅かばかりの時間を覗きみたが、目の回るような忙しさであった。
「部屋まで送ろう」
「別にいいわよ、仕事に戻って?」
「陛下の身の安全が優先だ」
「あー、はいはい…。なら少し散歩に付き合って」
アドルフォの返事を待たずにアココトリは、王の館が抱える庭の方に向かっていく。灯りで足元に照らしながら、アドルフォはついていった。
「遅くなったが、チトニア様の事、おめでとうございます」
「ありがとう」
ふふふ。と笑いながらアココトリはゆっくりと歩く。今日は月光が眩しい。アココトリの紅い髪が暗く浮かび上がっていた。
「ココイ」
アドルフォが呼び止める。ココイとは昔からアドルフォが呼ぶアココトリのあだ名だった。
「ん?」
呼び止めたきり立ち止まっているアドルフォを、アココトリは不思議そうに見る。周囲の気配を拾うが、不審な様子はない。
「アディ?どうしたの」
動こうとしないアドルフォを見ながら、アココトリは近づいて顔を覗き込む。
灯りはあるが庭の暗がりの方が勝り、表情がよく見えない。心配になってアドルフォの腕を掴むと、彼は手元の灯りを消した。
「ちょ…」
「このまま聴いて欲しい」
真剣な口調にアココトリが緊張気味に頷く。
「パトロン家当主の父の具合があまり良くない」
アドルフォの家門、パトロン家はアガベアスル家を支える筆頭家門のうちの一つだ。特にアココトリにとっては軍事面での知識を育ててくれた家でもあり、アドルフォの父には昔から随分と可愛がってもらっていた。
「そんな…。いつから?」
「病を得たのは去年くらいだ」
「なぜ早く言わなかったの」
その頃は風邪が治らないとかの、割と軽い症状が続いていたという。
「ココイ、俺はパトロン家の嫡男だから、家門のために嫁をもらわねばならない」
「あ…」
統治王などと違い、臣下の家門は存続のために、家門同士で縁戚を結んだりして子を作らなければならない。特に男性が当主となる場合は嫁をもらわねば、存続が危ぶまれる。
アドルフォの言わんとすることは理解できた。
「そう、か」
「…」
黙り込むアドルフォの腕を、励ますようにアココトリは叩く。
「暗い顔しないで?子ができたらおじ様も喜ぶでしょう?安心するのよね?」
「だろうな」
「だったら……」
「俺が嫌なんだ」
「え」
キッパリと否定したアドルフォが、アココトリを真っ直ぐに見下ろしながら、もう一度呟くように言う。
「俺が、嫌なんだ」
「アディ?何が嫌なの?」
「俺は」
眉を寄せるアドルフォが、苦しげに呟く。
「俺はココイが良い。嫁にするならココイだとずっと思ってた」
ぶわっと血が顔に集まるのをアココトリが感じる。お互いに悪い気はしてなかったが、あからさまに好意を伝えるなどはなかったため、アココトリは狼狽えた。
「わたくし」
「知っている。ココイが伴侶を作らない気でいるのも。子だけを望んでいるのも…俺とそれを望んでいるのも」
「……」
「すまん。だが俺は、俺だけの伴侶を望んでしまった。ココイの立場を考えればそれは…間違っているだろう」
苦しげなアドルフォを見つめたまま、アココトリは言葉を出せずにいる。
この恋を、どのような形でも実らせる事は不可能とアドルフォが言う。女王を伴侶に迎えるわけにはいかないのだからと。
「ココイ、お前を愛してる。俺を突き放してくれ。嫌いだと一言」
「…っ言えるわけないじゃない」
「頼む」
眉を寄せて呻くように呟くアドルフォの顔が、とても美しいと思ってしまった。
「…諦める前にわたくしと未来の話をして欲しかったわ」
「すまない」
「謝らないで。家門が大事なのはわたくしも同じ。ただ、諦めて欲しくなかっただけよ。わたくしのわがままだわ」
「…っ」
アドルフォが強く拳を握った音がした。
「わたくしの子の父親になるのはあなたと思ってたけど、そうもいかなくなったのね」
少し前まで熱かった頬が、今は頭の上からどんどんと冷えてゆく。血の気が引いてるのを感じながら、アココトリはアドルフォから離れた。
「愛してるわアドルフォ。どうか幸せになりなさい」
女王らしく毅然と命令口調で言いおく。
「…御意」
副官らしく頭を垂れたアドルフォをそのままに、アココトリは自室にかけもどった。そして、声を押し殺して泣いた。
何年かぶりのこんな感情は、やっぱり慣れなかった。
気が済むまで泣いたら、愛していた男の未来を祝福しよう。今はただ、悲しみだけを噛み締めていたかった。
ペオニアが執務机の向こうで額に指を当てて渋面を作る。対面に立つアドルフォは後ろ手に組んだまま、直立不動の体勢でペオニアの言葉を待っていた。
「あのなぁ、私はお前に発破をかけたつもりだったんだが?統治王との仲を見てそう話したつもりだったんだが?」
「そのように受け取りました」
「そうよな?で、お前はハリスコ家の娘と婚姻すると」
「…はい」
「全く話しが繋がらないんだが?」
「申し訳ありません」
はぁぁぁ、とペオニアが口から息を吐き出す。
「もういい。でパトロン家のご当主のお加減はどうなのだ」
「ご心配おかけして申し訳ありません。おかげさまで小康状態です」
「…わかった。ともかくおめでとう。ご当主にくれぐれもご自愛をするよう伝えてくれ」
報告のためだけに立ち寄ったアドルフォが、規律正しく礼をして辞して行った。
部屋の隅で静かに話を聞いていたチトニアが、おずおずと「母様」と声をかける。
ここ数日のアココトリの気落ちの原因はわかったが。
「上手くいかない事もある」
チトニアと、ペオニア自身にそう言い聞かせるように呟く。チトニアは納得が行ってないように口を開きかけたが、何も言えずに再び閉ざした。
部屋の中はしばらく重い空気に支配されていた。
3ヶ月もすれば、アココトリは立ち直っていた。
アドルフォはその後ひと月程で、テキラナの有力家門の娘を嫁に迎え、パトロン家の当主を継承した。
暫くは気まずい空気感はあったものの、嫁に迎えた女性は気立てが良くアドルフォを尊敬しており、アココトリにも崇敬の念を持つよくできた人であった。
伴侶を得ると言うのは、恋情だけではどうにもならないことをアココトリは学んだ。
「女神様はよく考えておられるのね」
用があって軍部の演習場に来た妻と話すアドルフォ達を遠くに見ながら、アココトリは苦笑する。
ビーマンが近寄ってきて「陛下ー」と肩をぶつけてきた。
「今、いい女の顔してましたよ」
「あら、わたくしはずっといい女よ?」
「そうでしたね」
からりと笑うビーマンを見て、アココトリも吹き出す。後で手合わせ願います、とビーマンが言いおいて集団演習に混じって行った。
素手での組手を行うビーマンの動きを見ながら、アココトリは思う。
そういえばあの男は、恋情をそのまま握りしめて、妹に向かって突き進んだんだったっけ?と。木刀を手のひらに打ち付けながら首を傾げる。
恋情だけじゃなく執着も強そうな匂いもしたが。
「やはり、わたくしが伴侶や王配を迎えることは無さそうね?」
死に物狂いの恋をすれば考えは変わるのだろうか?
考えても今はまだ何も分かりそうもなかった。
チトニアが祭祀王に即位する少し前。
天壁、帝国側の山中でスタンピード発生の報告が上がった。
大鷲を飛ばしてスタンピード発生区域近くの山岳部族の集落に行けば、そこで懐かしい顔を見た。
蜂蜜色の髪を持つ深い碧眼の騎士団長だった。
「ドン・フリオ?」
「ダリア陛下。お久しぶりでございます」
帝国騎士団長のリオ・フリオ・リモーンがそこにいた。
「あなたがここにいるということは、帝国側にも魔獣が行っているのね?」
「はい」
天壁に立ち入る事で、テキラナ側に不信を与える可能性を考えたが、伝令を飛ばして許可を得るには時間が無さすぎた。結果無断で乗り込んだ形になったことをリオが深く謝罪する。
「仕方ないわ、緊急事態ですもの」
「ありがとうございます」
「状況を教えて?」
首長と部族の戦士達が集まる。テキラナの討伐隊の隊長達と、帝国側の騎士団のリーダー格も集まって情報共有が始まった。
「帝国側にはイノシシ型とオオカミ型の野獣の群れが穀倉地帯に雪崩込み、家畜などの被害を出しています。人的被害については早々に避難を完了させたので現時点ではありません」
リオの報告に騎士団の面々も頷く。
「首長、天壁山中の様子は?」
「ここらは聖獣の大熊の縄張りなので、目立った被害はないのですが、大熊が食い荒らした魔獣の死肉を狙って、飛行種の魔獣がうろつくようになりました」
「どちらも厄介だわ」
人里に行ってしまった魔獣は駆逐するしかない。人手がいる。リオに確認すると、騎士団だけでは手に負えないようだった。
「皇帝陛下は禁軍を動かすとも仰ってくださいましたが、魔獣との戦闘経験がないので」
「逆に被害が出そうなのね」
山中の飛行種に関しては、大鷲部隊で一掃していくしかない。大熊の縄張りなので、大熊を刺激すればこちらも被害を被る。しかし死肉の駆除は絶対しないと飛行種を更に呼ぶことにもなる。
「共闘しましょう。部隊を3つに分けます。アドルフォ、帝国側に多めに人を振り分けてちょうだい。必ず駆逐するように。飛行種に対しては大鷲部隊に体力がある精鋭を。こちらはわたくしが担当するわ。あとは死肉の駆除部隊。これは首長が必要人数と装備の指示をちょうだい。10分で振り分けを終えたら討伐に向かいます」
いいわね?
アココトリの呼び掛けに「応!!」と太い声があちこちから上がる。
テキラナと山岳部族の戦士達の入国許可を速やかに取り付けるように指示を出すと、帝国騎士のひとりが駆け出していった。
「陛下、感謝致します」
慌ただしい中、リオがアココトリの手を取ってそこに口付ける。
「…え」
テキラナではされたことのない感謝の印にアココトリが固まる。そんなアココトリを見てリオは目を細めてから、颯爽と立ち去って行った。
「なに、今の…」
「陛下ご指示を!!」
大鷲部隊のリーダーが声を張ってアココトリを呼ぶ。急いで意識を討伐に切り替えると、アココトリは天幕を出ていった。
上空を旋回していた飛行種は、鳥型や竜種など様々だった。
「数は?!」
「100はいます!」
「こちらを片付けないと、死肉の駆除もできないわ!みんな準備はいい?」
「行けます!!」
大鷲部隊は、操縦の関係もありテキラナと部族の合同部隊となった。
「アガベアスルの血を持たないものはあとから来て!!血統の能力があるものはわたくしに続け!!!」
叫ぶなりアココトリは先陣を切って、飛行魔獣の集団に突っ込んでいく。操縦しながら血統能力のスピリッツを強く漂わせながら突き進む。後から追従する数名の討伐隊員も同じように、魔獣を酔わせていくべく能力を解放させて行った。
魔獣討伐におけるアココトリの戦略は同じである。
相手を酔わせる。酔わせて弱らせてから駆逐する。だが種族によってはそれも効かない時もあるため、結局戦術を練ること、鍛錬を積むこと、魔獣種を知ることは、どれも欠かせないのであった。
大鷲を操りながら魔獣の群れの中を進む。弱い個体から地面に吸い寄せられるように落下していくが、手強そうな個体は首を狙いながら剣を振り下ろしてトドメを刺していった。
「死肉は一時的に増えるが、今は駆逐のみ考えろ!これ以上飛行種を増やすな!スピリッツに弱い種が多い!!血統能力を惜しむな!」
声を張りながら鼓舞するアココトリに励まされ、20人程の部隊は次々と飛行種を狩り落としてゆく。
100以上いた飛行種が10を数えるくらいになった頃だった。
「陛下ーー!!!!上空に竜種が現れました!」
必死に叫ぶ隊員の声に上を仰ぎみれば、悠然と羽ばたきながらこちらを見下ろす巨大な竜種の魔獣と目が合う。
「陛下!!メテオラです!!天壁の神獣の天敵です」
「なんでこんな時に…!!」
「一旦引きましょう。大鷲が怯えています」
食い荒らされた先祖の恐怖の記憶があるのか、アココトリの乗る大鷲も様子がおかしい。
「…退却ーーーー!!!」
アココトリの号令に、大鷲部隊が一斉に離脱していく。メテオラを睨みつけたまま、アココトリも前線を離脱するべく旋回して退避した。
中継地点の集落で落ち合ってから、飛行種の監視を数名に任せ、アココトリは死肉の駆除部隊の元へ駆けていく。駆除地点では大熊と距離を取りながら、駆除部隊が必死に木を切り倒し、飛行種の死骸を覆う作業を行っていた。
「陛下」
「首長ごめんなさい、飛行種が多すぎてとても追い払える数じゃなかった」
「承知してます。飛行種を引き付けていた死肉はもう埋めました。あとは降ってきた飛行種の肉を何とか隠すようにしています」
目視できなければ大熊は食わない。
「…本当なら埋めるか焼くかしたいのよね」
「仕方ありません、これがスタンピード。やれる範囲のことをやるのみです」
仕方がないことは理解しているが、あの前線でもう少しやれることはなかったのかと考える。
「陛下、大丈夫です。我らは聖域の番人。最善が何かを知っております」
「…。ありがとう首長」
礼を言ってその場を立ち去る。集落に戻って帝国側の報告を聞かねばならない。やらねばならないことはあまりにも多すぎた。
帝国側に降りた魔獣は無事に駆逐出来たと報告が来た。動けるものを連れて戻るので大鷲を派遣して欲しいと、アドルフォが伝令魔獣をよこしてくる。
大鷲部隊に目を向けると、数名が力強く頷いて天幕を出ていった。
「飛行種の様子は?」
「メテオラがまだ旋回中です。飛行中に現場に残っていた小型の飛行種を食ってる様子が確認できてます」
「現在の数は」
「メテオラのみです」
アココトリがため息を着く。
魔獣の中でも上位種は稀に、敵に強い執着を見せることがある。メテオラは稀な部類なのだろう。アココトリと飛行中にわざわざ目を合わせて来たくらいだ。
「メテオラですと?」
駆逐を戦士や集落の者に任せてきたらしい首長が、天幕に入ってくる。話しが聞こえていたらしい。
「いけません。メテオラの挑発は厄介です。アレのせいで我が部族は何人も優秀な戦士を失いました」
悔しげに歯噛みする首長がアココトリを見る。
「まさか、あヤツは陛下を」
「そのようだわ」
「余計にダメです。陛下をメテオラとぶつける訳には行きません」
首長の剣幕に周りを囲っていた大鷲部隊の面々が顔を見合わせる。
「メテオラがいなければ、天壁の神獣は落ち着くのよね。神獣の大熊が過敏になっていたのもスタンピードもあるけど、メテオラのせいでもあるのでは?」
「陛下、いけません。何も考えてはいけません」
「でもね、首長」
「ダメです。賛成できません」
「しかしこのままでは、また違う区域でスタンピードが発生するかもしれないわ」
その時またメテオラが来たら…?
首長がぐっと詰まるが、やはり首を振った。
「…一旦仕切りなおしましょう。日も暮れて来たし休めるうちに休んで。大鷲に給餌と水も」
周りに命じてから、アココトリ用に用意された天幕に向かう。
メテオラの興味深そうな目付きが頭から離れなかった。
簡素な夕飯を終えた後、またメテオラについての会議が行われる。大半は反対していたが、もう半数はこの先の危険性を問題視している様で、アココトリに同行すると宣言していた。
帝国領から戻ってきたリオが、黙って成り行きを見守っている。意見も出さず、じっと最善を探っているような眼差しをしていた。
紛糾する天幕に、外から集落の女がそっと首長を呼ぶ。その声で一旦、全員が落ち着きを見せた。
顔を覗かせた女性が、アココトリと首長を見ながら頭を下げる。
「ごめんなさいね、うるさくて眠れないかしら」
「ちがいます、その…陛下と面会したいと…」
たどたどしく話す女の後ろから、銀色の髪が見えた。
「姉様!!」
「チキータ?!」
探るように両手をかざしながら前にあゆみ出たチトニアをアココトリは抱きしめた。チトニアの後ろからは、ヘロヘロのビーマンがのっそりと現れる。
「俺もいまーす」
へへ、と薄ら笑いを浮かべるビーマンがやけに酒臭い。
「二人ともなんで…??」
アココトリの腕の中から顔を上げたチトニアが、気まずそうに笑う。
「母様が伝令を見て、姉様が無茶をするかもって」
そういった伝令を出すのはひとりしかいない。
グルンと後ろを振り返ると、アドルフォがサッと目を逸らした。
「だから、ご迷惑は承知で連れてきてもらいましたの。ビーマン卿やミチョアカン様には大反対されましたけれど、ロゼリアがこっそり手引きしてくれましたわ」
「アココトリ陛下からも言ってやってくださいよ、この親子、ほんとに危機感が薄すぎて困るんですよ」
「わたくしの性分はわたくしが百も承知なのですわ!…ビーマン卿とは大喧嘩になりましたけれど、というか大喧嘩中ですけれど、大嫌いと申し上げても、大反対ですと平行線のまま…ここへ参りましたの…」
「チトニア殿が俺を嫌いでも俺には関係ないんで、護衛騎士としてついて行くしかないんですよーだ」
ベロベロに泥酔してるのは、チトニアの能力をモロに食らったからなのだろう。フラフラになっても帯刀してしっかり戦闘準備も整えているあたりが、ビーマンらしいとアココトリは思った。
「…酔ってる…」
姉を前にして、なおも喧嘩を続行している妹たちを見て、アココトリは何か引っ掛かりを感じた。
「ダリア陛下??」
リオの低い声に顔をあげる。チトニアがパッと顔を輝かせた。
「リモーン卿もおられますの?」
「私はここにおります。チトニア殿下、お久しぶりです」
「リモーン卿、チトニア殿の手にキスとかしないで」
そういうの良いから!ビーマンの喚き声にリオが苦笑している。
「………ビーマン卿、あなた泥酔してるのよね??」
「見りゃ分かりますよね?スピリッツ直打ちされましたけど?」
これだ。とアココトリは思った。
チトニアをビーマンに押し付けて、アココトリは天幕を振り返る。
「メテオラを討伐しましょう」
「陛下、正気ですか」
「正気よ。ビーマン卿のお陰で策ができたわ」
久しぶりに笑うアココトリを見て、リオが聴かせて欲しいと願い出た。
「酔わせるのよ」
テキラナらしく。
「首長、この集落にあるスピリッツをありったけ集めて、チトニアに預けてちょうだい」
「なるほど、より強いスピリッツを次代様に作っていただくのですか」
ええ、と頷くアココトリの周りを討伐隊が囲む。
「チトニア、頼んだわ」
「もちろんですわ!」
張り切って返事をする横で、ビーマンが耐えきれなくなったように崩れ落ちる。チトニアたちを連れてきた女がそっと天幕の端まで引きずって、毛布をかけてやっていた。
「私たちはどうやってメテオラにスピリッツを飲ませるかを考えるわよ」
対空戦がいいのか、地面に引きずり下ろしてが良いのかを、集落の戦士がそれぞれの戦闘経験から助言をしていく。
最終的に、対空戦で可能な限りスピリッツを口に放り込み、地上に落としてから集団で切り掛かりに行くのが妥当と思えた。
「対空戦では大鷲部隊が主力になるわ。操縦者とスピリッツを投げる者の二人一組でいけるかしら」
大鷲の負担を考慮しながら組み分けをしていく。最後にアココトリと組む人間を決める段階でアドルフォが手を挙げた。
「陛下、俺を乗せてください」
アドルフォの顔を見てアココトリは首を振る。
「あなたは連れていかないわ」
「なぜです、陛下との連携はこれまでやってきましたが」
「…そろそろ子が産まれるでしょう」
その一言で、アドルフォが黙り込んだ。引き下がるアドルフォの後ろで、次に手を挙げたのはリオである。
「それなら、私をお連れください」
「ドン・フリオ。あなたは大鷲の背に乗った経験がないでしょう。厳しいと思うわ」
「経験なら先程」
え?と思い首を傾げると、大鷲部隊のひとりが迎えに行く時に操縦方法などを教えていたという。
「集落に戻ってから、少しばかり飛ばせてもらいました。陛下の足を引っ張らない自信はあります」
碧眼が静かに燃えているように見えた。
「…ドン・フリオ。あなた結婚はしているの」
「?いいえ、特に相手もおりませんが」
リオが帝国に家族を残しているのなら、連れて行けない。絶対に勝てる討伐ではないからだ。
「わかったわ。あなたにお願いする。よろしくね」
「承知しました」
リオが頭を下げたところでお開きとなった。
チトニアは、眠りこけるビーマンの横で、運び込まれたスピリッツの大樽達を前して能力を発動させているようだった。
「姉様はもうお休みになって」
「でも」
「わたくしは、わたくしのやれることをしてから、ビーマン卿と帰りますので」
「わかったわ、ありがとうチキータ」
仲直りもちゃんとしてね?と釘をさしておく。
自分が原因で喧嘩させてしまった事に少し罪悪感を感じはしたが。喧嘩をしていてもビーマンは怯むことなくチトニアと共にある気概を見せてくれたことが嬉しかった。




