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【連載版】婚約破棄で聖女契約が切れました。――この国は“5分後に”崩壊が始まります。『あざといラフィナの復讐記』  作者: カイワレ大根


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第4話 祝祭は壊れる――命令より先に落ちたもの①

 扉の外へ出た、その瞬間だった。

 背後から、重い金属が軋む音がした。

 ぎ……、という嫌な粘り。次に来るのが分かる音。


 ガシャン――!

 落下音。

 巨大なシャンデリアが、その自重に耐えきれず床を砕いた。

 金属と硝子が散る音が、一拍遅れて広間中に跳ね返る。


 悲鳴が遅れて来る。

 驚きではない。生存本能が叫ばせる、逃げるための悲鳴だ。


 扉へ向かう人の流れが、巨大な一本の圧力に変わる。

「押すな!」という叫びは、後ろからの波に飲み込まれて消えた。

 戻ろうとした肩は弾かれ、個人の意思とは関係なく、身体が勝手に出口を選んで動き出す。


「下がれ! 道を開けろ!」


 王子の怒鳴り声が上がるが、護衛の隊列はもう作れない。

「道を開けろ」という号令に、返事がない。

 兵たちの目は王子を見ていない。床を見ている。出口を見ている。

 命令を待たずに、護衛同士が肩をぶつけ合い、我先にと扉へ殺到する。

 そこにあるのは「騎士」の整った形ではなく、崩れた人の流れだけだった。


 その波の中で、リュミナだけが“立場”にしがみつこうとした。

 豪奢な杖も、誇らしげな胸も、もう役に立たない。


「アルベルト様っ……! 王子様、私を――!」


 叫びは悲鳴に飲まれる。

 彼女は必死に前へ掻き分け、ようやく王子の袖に指先が触れた。


 救いに触れた、と思った瞬間。

 王子は振り向かない。振り向けない。


「邪魔だ! 私を先に通せ!」


 王子が払ったのは、助けを求める指先だった。

 リュミナの指が、袖から無惨に滑り落ちる。

 引き剥がされたのではない。――明確に、置いていかれたのだ。


「ち、違っ……! 私は、新しい聖女で……っ!」


 言い終える前に、逃げる貴族の肩が彼女を突き飛ばした。

 守るべきものの優先順位が、剥き出しの力で示される。

 さっきまで「リュミナ様」と崇めた口が、今は罵声に変わる。


「邪魔だ、退け!」

「足が止まるだろうが!」


 その一言一言が、彼女の“証明”を剥がしていく。

 測定値十倍の魔力量は、いまこの瞬間、誰の命も繋ぎ止めない。


 リュミナが膝をつく。

 踏まれた裾に引かれ、体勢が崩れる。

 杖が手から滑り落ち、床に当たって乾いた音を立てた。


 次の瞬間、無数の靴底が、その杖を、彼女の指先を踏み越えていった。

 宝石が散らばる音。権威が壊れる音。

 彼女が伸ばした「助けて」の手を、誰も見ない。視線さえも拾われない。

 見捨てられるのに、理由も、ためらいも要らなかった。


 バキッ。


 今度は、天井を支える装飾の支柱が裂けた。

 落ちることが確定した音。

 硝子片が跳ね、床に散るたび、王子の声はさらに遠くなる。


 扉の向こう、王子の叫びが聞こえるが、それはもう「王家の命令」ではない。

 ただの声だ。

 現象が、人間の言葉を完全に塗りつぶしていく。


 ジジ……ッ。

 足元を走る魔力回路が焼ける。短く、鋭い。

 それは結界が落ちる音ではなく、この国が信じてきた「安全」が焼き切れていく音だ。


 私は足を止めない。

 振り返らないまま、外へ向かう。


 ゴ……ゴ……ゴ……!

 警鐘が、もう一段低い絶望の音を吐き出した。

 重低音が胸骨の裏を直接叩く。

 息が浅くなる。近くの会話が途切れる。

 口を動かしている貴族がいても、音にならない。

 空気が震え、思考を停止させる圧だけが場を支配する。


 扉を抜けた瞬間、夜風が肌を刺した。

 冷たい。――いや、いつもより冷たすぎる。

 呼吸が一瞬だけ止まる。


 数年間、結界の内側で保たれた温度。

 それが剥がれたのだ。

 剥き出しの夜気が体に触れて、呼吸が一瞬だけ止まる。


 背後で何かが、盛大に崩れる音がした。

 もう、誰も命令を聞いていない。

 崩れたのは灯りや壁だけではない。

「人の形」もだ。



 私は、止めたままの呼吸を、夜の闇に深く吐き出した。

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『短編版』婚約破棄で聖女契約が切れました。――この国は“5分後に”崩壊が始まります。
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