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【連載版】婚約破棄で聖女契約が切れました。――この国は“5分後に”崩壊が始まります。『あざといラフィナの復讐記』  作者: カイワレ大根


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第2話 結界停止――「自由」が国を壊し始める②

 ◆数字が勝ち、国が負けた日


 言葉の意味が、遅れて刺さる。

 “自由”という祝辞が、今この場では最も残酷な確定だった。


 そして、その確定から逃げるように。


「……リュミナ!」


 アルベルトが、隣の少女に縋りつくように叫ぶ。


「お前が新しい聖女だろう! やれ! 今すぐ結界を維持しろ!」


 貴族たちの視線も、王子の苛立ちも、ぜんぶリュミナへ集まる。

「数字で勝った」勝者に、実演の責任だけがのしかかる。


 リュミナは胸に手を当て、得意げに頷く。

「もちろんです、王子様。数値が証明していますもの」


 彼女は杖を掲げ、詠唱を始めた。

 眩い光が生まれ――次の瞬間、まるで“支え”を失った糸屑みたいに、霧となって散った。


「……え?」


 リュミナの瞳が、まん丸に開く。

 さっきまで余裕で細められていたその目が、初めて“怯え”を映す。


 彼女は笑おうとして、唇だけがひきつった。

 杖を握る指先に力が入る。白い手袋が、きしむほどに。


 アルベルトが叫ぶ。


「早くしろ、リュミナ……」


「……もう一度ですわ」


 自分に言い聞かせるように呟き、リュミナは杖を高く掲げた。

 祝祭の光に溶けていた彼女の魔力が、今度は露骨な圧となって大広間を押し潰す。


「聖なる光よ――!」


 詠唱が、空気を裂く。


 光が生まれた。眩い。熱い。眩惑するほどに――

 だが。光は“飛ばない”。


 結界炉へ向かうはずの流れが、途中でぷつりと断ち切られ、まるで行き場を失った水が霧散するように、散った。


 ぱら、ぱら、ぱら。

 落ちてくるのは光の粒だけ。

 誰の役にも立たない、舞台装置みたいな輝きだけ。


 二度目。

 彼女は肩を震わせ、言葉を噛む勢いで詠唱を重ねた。

 光が生まれ――また散る。


 三度目。四度目。五度目。

 回数を重ねるほど、光だけが派手になっていく。

 けれど結果は、最初から決まっていた。

 結界炉へ繋がる“流路”が、ひとつも開かない。


 繋がらない。――違う。

 最初から、“道そのものが存在しない”。


「なんで……! 私、魔力量は十倍なのに……!」


 勝者のはずの声が、喉の奥で擦れて、泣き声に近い高さへ崩れる。


 私は、小さく呟く。

「測れたのは魔力。守れたのは国じゃない」


 貴族たちが椅子を蹴り、裾を踏み、後ずさった。

 誰もが同じものを見て、同じ結論を飲み込めずにいる。


「供給できない……!?」

「なぜだ」

「適性が違うのか……!?」

「数字だけじゃ……!」


 その瞬間、警鐘が“音”を変えた。

 ひとつ下の階へ落ちるような、濁った、重い響き。


 ――二次警報。


 結界管理装置が、次の段階へ移った合図。


 ざわめきが、言葉にならない。

 誰かが息を吸って、吐けなくなる。


 音が“危険”を知らせるんじゃない。

 二次警報が鳴った瞬間、近くの侍従が銀盆を落とした。

 金属音が一度跳ねる。

 誰も拾わない。拾う余裕がないんじゃない。

 拾っても意味がないと、身体が先に理解してしまったように。


 王都の外縁。

 魔物避けの膜が薄くなる。


 遠くで、獣の咆哮が響いた。

 壁の外から届く、現実の音。

 空気が震え、肋のあたりが微かに鳴る。


 そして――“見える”形でも、追い打ちが来る。

 大広間の床。

 結界炉と繋がるはずの魔力回路の上に、薄い文字列が滲む。


【結界崩壊まで 04:18】


 誰かの魔導石が投影したのか、結界管理装置が自動で出したのか、判別する暇もない。


【警戒段階:二次】

【外縁膜:低下】


 数字が、祝祭の空気を刺す。

 貴族の“測定値”が信仰なら、これは“終わりの測定値”だ。

 そして理解する。“始まっている”と。


 十倍を掲げた国に、四分台の数字が“答え”として突き刺さった。


 アルベルトが私に向かって歩み寄ろうとして――足を止めた。

 彼の足元の床に刻まれた魔力紋が、ひと筋。すっと、消えた。

 まるで“王子”の足場だけが、世界から引き剥がされていくように。


「セラフィナ……戻れ」


 声が変わる。

 命令の音色が崩れ、焦りが混じり、そして――懇願になる。


「今すぐ契約を戻せ。これは国の危機だ」


 私は、ほんの少しだけ考える素振りを見せた。

 彼の目に一瞬だけ、希望が灯る。


【結界崩壊まで 04:17】


 数字が一つ減る。

 希望が一つ削れる。


 戻す方法は一つだけ。

 だが、私は戻らない。

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『短編版』婚約破棄で聖女契約が切れました。――この国は“5分後に”崩壊が始まります。
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