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婚約を破棄すると言われましたが私には真の婚約者がいるのでせいせいしました

作者: けろよん

 夜空には、満天の星がきらめいていた。王国の王城では、豪華な舞踏会が開かれており、華やかなドレスを身に纏った貴族たちが、音楽に合わせて踊り、貴族社会の華やかな世界を堪能していた。今宵の主役は、ダリューア王国の名門、リヴァーヌ家の令嬢、エリシア・リヴァーヌだ。


 美しい黄金色の髪に深い碧眼、どこまでも清楚で高貴な雰囲気を持つエリシアは、会場でも注目の的だ。今日は彼女の婚約者、王子セオドールとの婚約発表が行われる大事な夜だった。王子との結婚を楽しみにしている貴族たちも多く、エリシア自身も、王家との結びつきを喜んでいた。


 だが、その夜の出来事は、エリシアの予想を大きく裏切るものだった。


 王子セオドールが、会場の中央で突然マイクを手に取り、全員の注目を浴びた。エリシアもその瞬間、視線を向けた。王子は少し硬い表情を浮かべており、何かを決意したように見えた。


「皆様、集まっていただき、ありがとうございます」


 王子の声が、静まり返った会場に響き渡る。


「私、セオドール・アウフレッドは、今夜、重大な決断を下します」


 会場が静まり返り、貴族たちは息を呑んで王子の言葉に耳を傾けた。エリシアの胸に不安が広がる。まさか、婚約発表を前に何か問題が起きたのだろうか?


「エリシア・リヴァーヌ嬢」


 王子は、少し苦しそうな顔をして、エリシアを名前で呼んだ。


「私たちの婚約を、ここで破棄したいと思います」


 会場が一瞬、硬直した。エリシアはその瞬間、目の前が真っ白になった。思わず、足元がふらつきそうになったが、すぐに冷静さを取り戻す。周囲からはざわめきが広がり、誰もが彼女を嘲笑しているようだった。


 だが、エリシアは不思議と不安は感じなかった。むしろ、内心ではすっきりとした気持ちが広がっていた。婚約者との関係は、最初から家同士の都合で結ばれたもので、決して自分の意志ではなかったからだ。王子が他に心を寄せていることにも、既に気づいていた。


「セオドール王子、あなたがそう決断されたこと、私は感謝します」


 エリシアは静かに口を開き、微笑みながら言った。


「婚約破棄というのは、むしろ私にとって解放されたような気分です。これで、私は私の人生を自由に生きることができます」


 王子は驚いた顔で彼女を見つめ、言葉を失ったようだった。だが、エリシアはその視線を受け止めながら、軽く一礼して、周囲を見渡す。


「皆様、どうか驚かないでください」


 エリシアは一歩前に出て、にっこりと微笑んだ。


「実は、私にはもっと強くて、素敵な真の婚約者がいます」


 その言葉に、会場中が驚き、ざわついた。誰もが彼女の次の言葉を待っている。王子セオドールも目を見開いてエリシアを見つめていた。


「私の婚約者は、魔王様です」


 エリシアは堂々と宣言した。その瞬間、会場は再び静まり返った。


 魔王? 誰もが驚き、そして信じられないという表情を浮かべた。王国の人々にとって、魔王という存在は恐怖の象徴であり、魔界から来た恐ろしい存在でしかない。それが、エリシアの婚約者だということに、誰もが信じられない様子で固まっていた。


 だが、エリシアは動じず、悠然と続けた。


「私は魔王様に出会ってから、ずっと彼と心を通わせてきました。彼の力強さと誠実さ、そして何よりも私に対する優しさが、私には何よりの宝物です」


「エリシア、お前は何と言う事を……」


 王子セオドールは、言葉を詰まらせた。エリシアはそのまま、彼に向かって微笑んだ。


「王子、あなたには感謝しています。先に婚約破棄を仰ってくださって。あの日々も無駄ではありませんでしたが、私にとってはすでに思い出です。私はこれからは自分の選んだ道で、自分の未来を決めていきます」


 エリシアは、周囲の貴族たちの目線をしっかりと受け止めながら、もう一度深く一礼した。その姿は、まるで堂々とした王女のようで、誰もがその強さと美しさに圧倒される思いだった。


「それでは、失礼します」


 エリシアは、踵を返して会場を後にした。


 王子と貴族たちが唖然と立ち尽くす中、エリシアはそのまま、堂々と舞踏会を後にした。会場を出ると、そこには黒いマントをひるがえした魔王が待っていた。


「お疲れ様、エリシア」


 魔王は、深い黒髪を揺らし、低く魅惑的な声で言った。彼の瞳は、夜空のように深く、エリシアを見守るように輝いていた。


「ありがとうございます、魔王様」


 エリシアは微笑み、彼の元へ歩み寄った。


「これで、私の人生はやっと自由になりました」


 魔王は微笑んで彼女の手を取ると、そのままゆっくりと歩き出した。


「君が望むなら、この国をすぐに献上する事もできるが」

「御冗談を。私はやっと幼い頃からのしがらみから解放されたと言いますのに」

「世界は君のものだ。これからはどこへでも行けるよ」


 エリシアはその言葉に答えることなく、彼の隣で歩きながら心の中で静かな誓いを立てた。


 ――もう、誰の手にも縛られることはない。私は、私自身の力で、運命を切り開くのだ。


 夜の空が二人を包み込み、舞踏会の喧騒を遠くに聞きながら、エリシアと魔王は新たな未来へと歩み始めた。

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