アントニオ:Day3
アントニオ君は、学校が楽しみなようですね。
俺は夢を見ていた。
カルロスと酒を飲んでいる夢である。
...カルロスは、組織屈指の強者であり、”いい奴”だった。幹部の一人であった。
彼は一本の鉄の棒があれば何でもできた。
5mを悠々と跳び、罪悪感はあるものの...人を簡単に殺せた。
火起こしもできたんだぜ?
俺も棒術を彼から教えてもらった。
銃がないと何もできないというのは、結局、とても非力なのだ。
ある日、彼は死んだ。
彼の唯一の心の支えである、母親を人質に取られ、俺自身も決死の救助作戦を企てたが、結局捕まってなぶり殺しに遭った。...俺も。
そもそも彼が組織に入ったのは体が不自由な母親のためであり、一般的な職の倍稼げる幹部は、とても好物件だったのである。
彼は、拷問ができなかった。
泣き叫ぶ人間に...そいつがどんなに卑劣な奴でも、彼の脳は、体は、心は、拒否反応を起こすのだ。
彼は拷問死した。
どんな責め苦を受けても、彼は泣き叫ばず、声を出さず、目を閉じていた。
...俺?もちろん抵抗しまくって抜け出したけど、一生中指立てられんように左中指を切断された。
いやー、切り口にレモン汁は堪えたなあ。
俺は学んだ。
”守る奴が居ると人は弱くなる”と。
血も涙もない奴が一番強いのだと。
夢の中のカルロスは、俺に、メキシコのポリ公に関するジョークを言った。
俺は大いに笑い、彼を称賛した。
知ってるか?俺も死んだんだぜ?
カルロスは、どこか寂しそうな顔をした。
カルロスの口がパクパク動いた。
カルロスが何か言った。
「なになに、聞こえないって」
カルロスがもう一度言った。
俺は彼の口に耳を寄せた。
『罪もない少女に寄生してる害虫が』
俺ははね起きた。
気分が悪い。
時計を見る。
4:52。
...そして俺は目を疑った。
Monday?月曜日...だと?
丸一日寝てたのか?
まあいい。
俺の最長睡眠時間は3か月。
頭を打って、昏睡してたんだっけな。
そして今日は月曜日。月曜日なのだ。
Let's go to the school!
俺は悠々と身支度を開始した。
今日の授業の内容を時間割表と宿題の内容から割り出し、予習をする。
俺、結構頭悪いからさ。
時間が余ったので筋トレを開始する。
この体は、力が弱すぎる。
7:30。行く時間だ。
怖いからポケットにカッターを入れておく。
刃物が一本あれば、そこに無敵のアントニオが顕現する。
俺は扉から外に出た。
春の快晴の空である。
俺が”来る”前の記憶を探り、学校を目指す。
案外遠いなあ。
20分後...
俺は学校に到着した。
3年Ⅾ組っと。
俺は教室に入った。
記憶通りガキどもが派閥を作って意味のない、非生産的な話を延々と続けている。
俺は、クラスで一番”おしゃれ”な席に着いた。
そして、何もないかのように参考書とノートを準備し始めた。
そう、俺は寛大なのだ。
向こうから手出ししてこない限りは、こっちも手出しはやめよう。
そして手を机の中に入れた瞬間、俺の手は違和感を覚えた。
手を出すと、画鋲がいくつも刺さっていた。
血だらけである。
「うーわ」
「クスクス」
「だっさww」
こんなことで怒る俺ではない。
静かに画鋲を抜き...机の上に置いた。
俺はすでに刺されるのには耐性がある。
そして。
奴が、伊藤麻美が来たらしい。
机をバンと叩き、ほざく。
「やっほー、佳奈ちゃん。
お前、私のLINE、無視したよな。
殺してやるから。
今日の昼放課、体育館裏に来てねー。大丈夫大丈夫、逃げたら殺すから。」
俺は”完璧”な日本語で返した。
「消えろ。不愉快だ。」
...内容は完璧じゃなかったみたいだけど。
「ピキッ」
今、音したぞ。
「そうだね、まだ先生来ないし、前倒しにしてここで公開処刑したげる」
したことなんてないくせに。
「...ふーん」
と、俺が返す。
「土日で随分と生意気になったねえ」
河合真紀、と思われる人物が撮影を始めようとする。
イメトレはした。
記憶通りだと...
俺はいきなり後ろの人間の首...と思しき所に手刀を叩き込んだ。
「ぐっ」
そして首をつかみ...よっと。
俺は明らかに自分よりはるかに大柄な女、押さえつけ役、山口綾の顔面を机の上に叩きつけた。
「バァン‼」
「えっ?」
ざわめきが周りから聞こえる。
山口が起き上がろうとする。
俺はもう一回叩きつけた。
「おらっ」
「バァン‼」
「バァン‼」
「ちょっ」
「バァン‼」
「待っ」
「バァン‼」
「バァン‼」
何回も叩きつける。
見せしめにされてるのは、どっちかな?
伊藤が引いている。
河合のスマホも、まだ撮影を始められていない。
そして山口の髪の毛をつかんで頭部を引き上げる。
鼻血まみれやん。
久々に見る血で、感情が昂る。
そしてぶん殴る。人間が意識を失いやすい顎の側面。
「ドゴッ‼」
山口がぶっ倒れた。
「次は誰かな?」
そこで、卑劣な伊藤が、さっきは隠蔽するとかなんとか言ってたくせに、先生に言いつけた。
脂ぎった、30歳ぐらいの男である。
「先生、助けてください!
鈴木さんが、鈴木さんが綾ちゃんをいじめてます!」
非常に不愉快だ。
本当に首剄ってばらばらにして埋めてやろうか。
先生がこっちに来る。
「こら、なにやってるんだ。山口さんをいじめるな!」
なんか怒鳴られた。
「あ?こいつは鵜吞みにするしか能がないのかこのクソ教師が。」
またしても”完璧”な日本語。
「反省しろ!謝れ!」
「そうだよ。謝ってよ」
こいつ、先生を味方につけた瞬間にイキリ始めたな。
ちょっと脅かしてやるか。
俺はいきなり机をけり倒して立ち上がった。
「なんだお前ら。さっきから聞いてれば調子に乗りやがって。
俺...私は非常に不愉快だ。3秒以内に消えろ...!さもないとお前の首が飛ぶぜ?物理的にな」
血走った目。30分放置すれば10人殺してくるといわれる人間がここにいる。
これが失敗であった。
そう、俺は完全に”中学校の喧嘩の範疇”を理解していなかったのである。
クソ教師と伊藤がたじろぐが、クソ教師はすぐに自分のアドバンテージである、体格を思い出し、調子に乗り始めた。
「今謝るなら許してやってもいいぞ?」
俺はとにかくけんかっ早い。
俺は「次は誰かな?」と言ったのを思い出した。
俺はクソ教師に言った。
「次はお前か」
クソ教師(仮)が下卑た笑いを浮かべながら言った。
「ちょっとお仕置きが必要みたいだなあ」
俺の戦闘技術をなめるなよ?
たとえ俺が非力な中学生少女だったとしても、物事は”体の使い方”であり、普通の成人男性なら余裕で勝てるはずだ。
教師がこぶしを振りかぶる。
所詮、一般人だな。
俺は”両手”で教師の前腕部をつかむ。
そう、”両手”がネックなのだ。
左を突っ張り棒のようにして勢いを殺し、さらに上から右手でつかむ。
そして...
左を伸ばし、右を勢いよくこっちに引く。
そうすると...
「ごきっ」
腕なんて簡単に折れてしまう。
そしてふにゃふにゃになった腕を机に乗せ、ポケットからカッターを出す。
「カチカチカチッ」
大きく振りかぶり、
「ドッ」
手の甲にぶっさす。
教師の顔が苦痛にゆがむ。
「う、うあああああああああ!」
俺はその顔を鑑賞して、淑女らしからぬ凶悪な笑みを浮かべた。
悲鳴であふれる教室。
教室から生徒が逃げ出す。
ゆっくりと、カッターを引き抜く。
「お、お願いだから許してくれえ...」
教師は顔をぐちゃぐちゃにして泣いている。
しかし。
「まずいな...こんなにやるつもりはなかったんだけどな...」
誰かがほかの先生陣を呼んだらしい。
一人じゃ何もできないくせに。虫唾が走る。
教室内には俺とクソ教師の二人。
クソ教師は床で手を抑えながらすすり泣き、俺は机に座ってふんぞり返っている。
入口から教師どもが入ってきた。
「ハッ!助けてくれえ!」
クソ教師がほかの教師どもに懇願する。
「「「橘先生!」」」
「どうしたことだ...」
ざわめきが聞こえる。
「たっ助けてくれえ...鈴木さんがいきなり...」
あれ?
なんか作られてる?
というわけでクソ教師(橘、というらしい)の被害妄想(要約)がこちら。
なんか、鈴木が山口をいじめてたから止めに入ったら一方的に刃物で攻撃された。
これはしかるべき措置をとるべきである、って感じ。
正直むかついた。
こいつら全員殺してやろうか、と思ったが、さすがに無理だろう。
以前だったらできただろうが。
俺は、言葉で解決することを試みた。
「異議あり。まず、私はこの証言には捏造があると主張する」
俺は2年前からいじめられていること、今日、画鋲が机の中に入っていたこと、伊藤の言動など、動機を説明し、しっかり伊藤どもが「殺す」と発音していたことを証言した。
しかしこれには問題がある。
クソみたいにでかい問題がな。
これには伊藤がかかわっているのだ。
つまり、こいつらも全員橘と同類だとしたら俺に勝ち目はゼロだ。
そしてそれは、半分そうだった。
いや、4分の3がそうであった。
教師どもは二つの陣営に分かれて論争を始めた。
権力になびかない派と、権力に媚びを売る派がな。
しかし前述のように、その比は1:3なのである。
時間の問題、ってわけだ。
無理だった。
まあ、こいつらが全員まともだったらこんな風にはならなかったな。
4分の3 俺をポリ公に突き出す。
4分の1 俺を保護する。
って感じ。
で、こうなった。
いや、どうしてこうなった?
俺は、なんとクラス移動になったのである。
A組へ。
過剰なトラブルを防ぐため、だってさ。
まあ、教師側もできるだけ警察沙汰になりたくないんだろう。
俺は何回も脱獄しているが、日本の警察はかなり優秀ときている。
正直わからん。
4分の1に感謝だな。
俺はとりあえず帰らされた。
おっかしいな、もう夕方か。
俺、今日勉強してないな。
そして、道を歩いていたら、声をかけられた。
「お、佳奈ちゃん!」
俺は声の主を見た。
魚屋だった。
うーん、やさしげなイメージ、記憶しかねえな。
つまりこいつはいいやつ、ってことだ。
「こんにちは」
まずはあいさつ。
日本人はあいさつをよく好む。
俺だってあいさつぐらいできる。
え?できなさそう?
いやまっさかー。
ひどいな。最近の人間は俺を殺人嗜好の精神異常者かなんかだと思ってるらしい。
あながち間違っちゃいないけど。
「今日も、食べてく?」
えーっと、このくだりは...食料か。
いただいときますか。
「あっすいませんホントに。いいんですか?」
「うん。余るんだからしょうがないじゃん」
「じゃあ、お願いします」
「じゃ、ついてきな」
店の裏口から中に入っていく魚屋の店長。
俺はついていった。
魚のにおいがしたが、さして不快ではなかった。
「じゃ、ここに座ってて。今から出すから。」
「はい」
数分後に焼いた干物が出てきた...3枚ぐらい。
「いつも捨てるのもったいないんだよねー」
でも、そのおかげでいつも生きながらえているといっても過言ではない。
「いつもありがとうございます」
「で、お母さんのほうはどうなの?」
適当に合わせるか。
「相変わらず...」
「そっか」
案外日本食がうまい。
え?これ好きかも。
俺は魚を黙々と食べた。
魚屋は、俺が食べているところを見るのが好きなようだ。
自分が販売しているものが食べられるところを見るのは、やはり楽しいのだろうか。
俺?えーっとね、コカイン、大麻、覚醒剤、MDMA...
俺はあんまりうれしくないかも。
超高価だもん。
まあ、買われたら俺が儲かるからいいんだけど、その後はほぼ金づるとしか見ていない。
健康面はもう知らん、って感じ。
...
「ありがとうございました」
「うん。また来てね」
俺は家に帰った。
母は、相変わらず食卓にいる。
これ、死んでるかもわかんないよな。
部屋に行く。
スマホを開くと、不在着信が8件。
B組の佐藤からの心配電話が一件、山口の親からの鬼電が6件、伊藤から1件。
佐藤妙子は、B組にいる数少ないこの体の友である。
小柄で、眼鏡をかけていて、聡明。
そんなかけなくても。
明日があるんだし。
俺は寝ることにした。
画鋲が刺さっていたところがピリピリするなあ。
A組はどんな感じなんだろうか。
記憶を頼りに探ると、友が2人いるらしい。
確か名前は...武田静香と、松永美玖だ。
静香は、成績学年一位、教師からも気に入られている、まさにthe・優等生。
しかも学年有数の美少女。
でも俺、アジア人の女ってあんまりタイプじゃないんだよな。
しかし重要なのはそこではない。
学年カースト最上位の親友が近くにいるということだ。
なんと頼もしい。
これだったらしっかり勉強できるに違いない。
美玖は、思考が読めない。
ちょっと思考が右側に寄ってることもあるし、左側に寄ってることもある。
そしてシリアルキラー、指名手配犯、凶悪犯を調べるのが趣味。
...そして俺(前世)も知ってるらしい。
彼女曰く、俺(前世)は結構推しらしい。
今後は...まあマシにはなるかな...?
わからんけど。
あーあ、やりすぎちゃった。