アントニオ:Day 1
『日本語』→スペイン語
「日本語」→日本語
で表記。
俺は走馬灯を見ていた。
考えてみりゃクソみたいな人生だった。
アントニオとしてくだらん親の元で生まれ、虐待を受け、親を殺し、警察に追われてメキシコへ来た。
程なくして俺は麻薬カルテルに入り、麻薬密売に手を染めた。
そして一瞬にして首領まで上り詰めた。
どれだけの人を殺め、どれだけの人間を麻薬廃人にしてきたことか。
だがそんなことは関係ない。
そんなの、俺に歯向かったやつが悪い。
もとはといえば親が悪い。
麻薬だってそうだ。
俺は売ってるだけだ。吸う奴が悪い。
俺は不満だ。
まだ23歳だ。
もっといろんなことがしたい。
それは殺人願望かもしれないし、もっと別のことかもしれない。
...愛情が欲しいとか。
そして今。
俺は縛られていた。
周りにはライフル銃を持った覆面の奴ら。
背後にはマチェットを持っている屈強な男。
そう。俺は今から死ぬのだ。処刑されるのだ。
しかし、俺は安心できる。
仲間がいるからだ。
今頃俺を囮にして敵の首領を殺しているだろう。
作戦は成功だ。
そう、世間一般で"極悪犯"と呼ばれる人種も、こういった"信念"をもって生きているのだ。
『最後に言い残すことは?』
俺は迷わず言った。
『地獄に落ちろ屑どもが。』
『そうか。』
背後の男が近づいてくる。
待っているのは、間違いなく「死」。
だが、俺もタダじゃ死なねえ。
手足は自由じゃないけど、華々しく終わってやる。
俺はいきなり振り向き、男の脛に齧り付いた。
『なんだこいつ!?』
怒号が飛ぶ。
銃声がして、太腿をやられる。
そして首に激痛。
くそっ...ここまでか。
あとは、あいつらに託すだけだが...
いかんな。
いつまでも見守ってやりたかった。
俺の血液量は、もう限界だった。
意識が朦朧として...
俺はそこで意識を手放した。
あ?
...
なんだ?
体がないのに、なぜか意識だけが残っている。
俺の脳みそはとっくに血液不足で死んでいるはずなのに。
何も見えない。何も聞こえない。だが意識だけが残っている。
これが"死"という感覚なのか?
もう、あそこには戻れないのだろうか。
俺は、考えるのを放棄した。
ずっと暗闇に放置されるなんざ、御免だ。
寝てしまおうと思った。
...
俺は気づいた。
だんだん周囲が明るくなっている?
だんだん、風景が見えてくるようだった。
考えてみればおかしい。今の俺に肉体はないはずだ。網膜も神経もない。
世の中の学者が卒倒するぞ。
その風景は、まるで、まるで...工場のようだった。
俺はベルトコンベアに乗っていた。
俺の前と後ろに、ずらーっとカラフルな火の玉が並んで運ばれている。
直感的に理解した。こいつらは一般的に"魂"と呼ばれる存在になったのだと。
動こうと思えば動けた。
ほかの奴らには意識がないのだろうか。
...俺は自分の体を見た。
火の玉だった。それも真っ黒。
俺は、魂が汚染されているのだと思った。
そして俺は行き先を見た。
二本道に分かれていた。
道はそれぞれ二つの部屋に行くようになっていて、部屋の入り口から、部屋の内部がうっすら見える。
俺は目をよーく凝らした(目ないけど)。
右からは日光(?)みたいな光が差し込んでいるが、左は明らかに火の粉、と思われるものが飛んでいる。
これ、明らかに天国と地獄だろ。直感的に分かった。
運ばれる魂は、仕分け機みたいな奴に入っていって、分岐点のどちらかに行く。
しかし。
みんな右に入っていく。
左に行くのはごく少数...大体色が濃いやつばっかり。
しかし、なぜだろう。
なんで動けるのに動こうとしないのか。
俺は分岐点に近づいていく。
そのとたん、俺は横にぶっ倒れた。
そしてベルトコンベアを降り、走り始めたのである。
ふいに、追いかけてくる気配を感じた。
後ろを見るのに、振り向く必要はなかった。常に360°見えているのだから。
変な白い化け物みたいなやつが追いかけてきてる。しかも複数。
捕まるかよ。
工場は広かった。
俺の魂は、別のベルトコンベアを乗り越え、その上を走り、何も言わないカラフルな魂を蹴飛ばし、動いていない機械を乗り越えた。
しかし、奴らのほうが微妙に速い。
どんどん差が縮まっていく。
俺は焦った。
どこへ行ってもベルトコンベア。
これじゃあ、the back roomみたいじゃねえか。
そして俺は見つけた。
穴が、そこにあった。
直径が狭く、そこは全く見えない。
どっちかというと、パイプみたい。
このまま捕まっても、お先真っ暗だ。
俺は迷わず入った。
...
落ちている、という感覚はあった。
ドッ
着地。
そこは、ろうそくが入ったランタンが大量に置いてあった。
ろうそくが燃えている。
そして、急にアームが下りてきた。
ろうそくだけがなくなったランタンを吊り上げ、上に運んで行った。
なぜか直感で理解できた。
死んだのだ。
俺が入り込むことは可能なのか?
俺は手前のランタンの戸を開け(だんだん慣れてきた)、ろうそくに触れた。
そうすると...
俺はろうそくに吸い込まれた‼
...
俺は立っていた。
転生に成功したのか?
どうやら俺は民家の一室で台に乗っているようだ。
そして俺は、天井にぶら下がる縄をつかんでいた。
縄は天井からぶら下がり、下部に輪っかができている。
そして、なくなっているはずの左手の中指が存在していた。
...いまこれ、何やってんだ?
俺は体を見た。
傷だらけである。
風変わりな制服(?)みたいなやつを着ていて...着ていて...あれ?
もしかして...俺、性転換しちゃった?
だって、スカートはいてるもん。
部屋を見渡す。
部屋は、散らかっていた。
バッグはところどころ破け、落書きが大量にある。
何語だ?これ。
その途端‼
俺の中で記憶がよみがえった。
果てしない情報量に、俺の精神、というか魂は悲鳴を上げた。
ここは、日本か。
で、俺の名前は、"鈴木 佳奈"。
日本の"中学生"で...なんだこの記憶。
...拷問?
昨日。
少女たちにトイレに呼び出され、殴る蹴るの暴行。
その様子を撮影される。
何でやり返さないんだ?
一昨日。
学校に来ると、靴箱の中、椅子の上に大量の画鋲。
机の上には...大量の落書き...だんだん読めるようになってきたぞ。
"死ね"="¡muere!"、"クソ野郎"="Puta madre"
つまり、こいつは学校の人間に色々落書きされてるわけだ。
...暴言を。
こんなことが二年前から続いてるらしいな。
で、この縄は...げっ、自殺?
まてよ?俺、学校行ったことなくね?
これはチャンス。学校、一回行ってみたかったんだよねー。
スマホをFace IDで解除する。
LINEを開く。
なんで使い方が分かるのかって?
こいつの記憶もあるけど、俺も使ってたんだよねー。
"伊藤 麻美"、"山口 綾"、"河合 真紀"。なぜか殺意が沸いてくる。
暴力をふるっていた奴らか。
しかし、俺の視線は、別のところに吸い寄せられた。
"史上最凶の極悪殺人犯"アントニオ・ロメオが敵対組織によって処刑された。
ネット記事である。
俺やん。
死んでるやん。
今日は土曜日。
今日と明日は学校に行かなくていいようだ。
...だが、この家庭、問題だわ。
母親しかいねえ。
親父はどこに行った?
記憶をたどると...こいつ、飲んだくれて娘と母親に暴力をふるってたな?
母親も、ノイローゼになって一日中リビングの食卓にいる。
貯金はもうほとんどない。
そう、行き詰っているのだ。この娘は。この家庭は。
スマホを見る。
今は夜の23時22分。
よーし。今は寝て、明日に備えよう。
こんな縄、片づけちまおう。
紙を取り出し、でっかく"¡No mueras!"と、書きなぐり、縄に張り付け、天井から取り外す。
なんでこんなことをするのかって?
正直、若干この俺でも不安になった。
こういう視覚効果はかなり有効だ。
まあ、さっさと寝ますか。
明日も元気に活動だ!
まず書いてみました。
スペイン語はちょっとかじってるだけなので、間違いがあるかもしれないです。
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更新は、不定期かもです。