9話 水
エレンから街コンの説明を受けていると。最初は遠巻きに見ていた男共がワラワラと群がってきた。
理由は・・・。
「もう1杯頼むっ」
「おい、いい加減金取るぞ?」
「あー?金ぐらいいくらでも払ってやるよっ」
「さっきまでガクブル震えてたクセに態度でけぇな」
「う、うっせぇ!」
そう。
俺がエレンに振る舞ったほんのりワインの入ったブドウジュース目当てに群がってきやがった。
「いい加減、何か摘むモンも欲しくなってくんな」
「贅沢言い過ぎだろっ」
「それと、もうちょと濃くしてくれれば言う事なしなんだけどな」
「いや、お前さっきから文句ばっかだろ」
「頼むよ。最後にもう1杯。なるたけ濃いやつでっ!」
「うっせー、散れ散れ。俺じゃなく女の子に話しかけて来いよ」
「そ、そ、そ、それが出来ねーから頼んでんじゃねぇかっ!」
「もう向こう行けよビビりが。で、女の子はどこに居んだよ・・・」
強制的に解散させた。
「お店に入れば女の子も居るみたいですよ」
「あ、そうなの?」
「って言ってる人が居ました」
「へー」
「そ、それじゃあ、僕も行ってきますっ」
「おう、頑張れよー」
「は、はい!」
「あ、ちょい待ち」
「はい?」
「あの、エレン28才!ってやつ。あれ止めといた方がいいぞ」
「えっ」
「長男がどうとか農家がどうとかも」
「ええっ」
「そんなのは聞かれてからで良いと思う」
「えええっ」
「まっ、わからんけどな。でも、アレは成功率低い気がする」
「そ、そうですか・・・」
「楽しく食べて飲んで喋って気が合うならって感じで気楽にいこうぜ」
「そ、そんなんで良いんですか・・・?」
「さぁ?」
「ええええっ」
「俺はそんくらい気楽にいく予定だ」
「な、なるほど・・・わかりました!」
「おう、程々に頑張れよー」
「はいっ!」
エレンを見送ってから黄色い布が掲げられた建物を探しながら村の中をプラプラと散策した。
どこにでもある田舎の寒村。やっぱりここも高齢化が進んで限界集落化しているようにも感じる。
コンコン───。
黄色い布が掲げられた建物を見つけたのでノックしてみる。
「あいよー」
ガチャ───。
「すまんね、下げ忘れてたみたいだ。先客アリだよ」
「ほーい」
なるほど、そういうシステムか。
次の建物はまだだったようで招き入れられた。
「女の子がお待ちかねだよ」
そう言われると怖いな。
俺の予想だと・・・店が女の子を雇ってて。前半、飲食パートはキャバクラスタイルでそこからは自由恋愛を謳ったソープスタイル。その要所々々でお金が発生する。
言ってしまえば、女の子はサクラだ。
まぁ、エレンに言った通り気楽に楽しむのが1番だ。
相手はプロだからケツの毛まで毟られないように気を付けないといけないけどなっ。
「ほーい」
「こんにちわ」
「こんにちわ」
「お飲み物は?」
「最初だし、軽いのがいいかな」
「エールで・・・」
「うん、エールで良いよ」
「ト・・・」
「と?」
「ミズ!!!」
「!?」
「ぎゃあああああああああああああああ」
え・・・?
叫びながら外へ飛び出していった。
「ちょっとアンタ何したんだい!」
「え?いや、俺は何も・・・」
「何もしてないで逃げ出す訳ないだろうさね!」
「いや、だって、俺の顔を見て・・・何で名前知って・・・」
あ・・・今の女・・・。
そうじゃん・・・俺がミズって名乗ってたのは冒険者時代だ。
清水徹のシミズ。シを取ってミズ。
あの時の美人局の1人だったのかもしれない。
なんちゅー確率だよ・・・。
「アンタどう責任取るんだいっ!」
「うっせーな・・・」
「なんだい、その態度は!」
「ほれ」
キーン───。
懐から取り出した金貨を1枚投げてやった。
「おおっ。釣りはないよっ!」
「いいよ・・・」
「もう返さないからねっ!!」
「んじゃ、俺はもう良いか?」
「うんうん、毎度あり~」
店から出ると物陰から小さく悲鳴が聞こえた。
恐らく、そこに隠れているんだろう。
冒険者ギルドからも、あの時に報復をした貴族達からも指名手配されているだろうからこれで足が付いてしまった訳だ。
なので、あの女を始末しない限りは俺の今の生活は終わりだ。
と、そんな物騒な事をするつもりは無い。
貴族に雇われて俺に近づいただけの女に手を出す気は無い。
いや、でも、あの時、俺に性病を感染した女だとしたら・・・いや、それでもそんな簡単に暴力を振るう気は無い。
辛かったけど・・・結構、長引いたし・・・。
あの女がどこかに報告して早馬でも飛ばされたらって考えると村に戻っている余裕は無い。
戻る事で迷惑を掛ける事になるかもしれないし。
という訳で、俺はまた住む場所も仕事も失い行く当てのない放浪に出るハメになってしまった。
村の皆に挨拶も出来無いまま。




