74話 二往復
「お前は何してんだ?」
「それは本当に俺もそう思う」
数年ぶりにようやく帰って来たと思ったら直ぐにフーバスタンクに向かい。
しばらく向こうに滞在するって聞いてたのに直ぐに帰って来て、また直ぐにフーバスタンクに向かった。
それで帰ってきたら誰でもそう言うだろう。
「それで石窯は?」
「順調だ」
「見たい」
「こっちだ」
倉庫の側に簡易の屋根が設置されていて、その下に石窯があった。
「え?外なんだ?」
「倉庫の中だと邪魔だろ。こんなデカいんだし」
「それもそうか」
外にあるからそこまで大きさは感じないけど。中にあればもっと大きく感じるはずだ。
「で、石窯用に屋根も作ったのか?」
「おう」
「わざわざ?」
「雨降ったらどうすんだよ?」
「確かに」
「んで、風通し良い方が乾くのも早いからな」
「確かに」
「直射日光が当たると急激に乾いて割れたりするから。屋根はそっちの意味もある」
「なるほど」
「それ聞いてもわざわざって思うか?」
「いや、めっちゃ必要だな」
「だろ?」
「おっさんってさ・・・」
「頼りになるだろ?」
「なる!」
「えお?普通に褒めんのかよっ」
「酒が絡まなかったら!」
「フェイントかよっ!」
いや、マジで酒が絡まないとめちゃくちゃ万能で有能。
出来無い事があるのか?って思うくらいに。
酒が関わると一気にバカになるからそれで釣り合いが取れてるとも考えられる・・・。
「後、どんくらいで出来そう?」
「んー、ゆっくりで良いんだよな?」
「うん、別に急いでないから。時間掛かってもしっかり作って欲しい」
「なら後、半月くらいだな」
「結構掛かるな」
「急ぐか?」
「いや、そんな掛かったらおっさんの負担にならないか?」
「付きっきりって訳じゃないからなぁ」
「あ、そうか」
「ほとんどが放置して乾くのを待ってるだけだ」
「そうだった」
「っても、まぁ、半月後に火入れをして」
「うん?」
「それで乾燥が甘かったり中に空気が残ってたりしたら」
「うん」
「パーン!って割れるからな。そん時は1からやり直しだ」
「マジか」
「だから、ゆっくり時間掛けて乾燥させた方が失敗しない」
「なるほどなぁ」
急がば回れってやつだ。
「で?よ」
「でよ?」
「おう、フーバスタンク行って来たんだろ?」
「うん、往復したな」
「土産は、よ?」
「要る?」
「要るだろ、そりゃ」
「んー」
「なんだよ」
「マーシーさんに許可取らなきゃ。ってか、マーシーさんに頼んだ方が早いか」
「ん??」
石窯が出来てからで良いと思っていたけど。折角だから作って貰おうかな。
という訳で、マーシーさんにアップルパイを作って貰おうと思う。
俺の拙い説明にも関わらずマーシーさんはちゃんとレシピを理解してくれるのがありがたい。
しばらく待つと、シナモンをたっぷり使ったアップルパイが完成した。
それを切り分け。俺とジョーさん夫妻におっさんの4人で試食会を開いた。
全員、まずまずの反応。
「そこに、これを!」
と、全員のアップルパイの横にバニラアイスを添えた。
「おい、これじゃ溶けるだろ」
「それが良いんだよ。温かいのと冷たいのが」
「ふーん」
「これは良いですね。1+1が2じゃなくて3くらいになってる気がします」
「そうなんですよ。相乗効果というか」
「分かります」
「酒が欲しいな」
「なんでだよっ」
「合うだろ」
「合うか?」
「ブランデーとか」
「いや、ブランデーなんて・・・いや、合うかも?」
「だろ?」
「合うかもな」
「だろ?」
「うん」
「合うと思うよな?」
「かもな」
「お前・・・分かってやってんだろ」
「そりゃ、もちろん」
「良いから酒出せやっ」
「出さねぇよっ」
飲みたきゃ勝手に飲めば良いのに、こうやって話を振って来る時点でおっさんは確信犯なのかもしれない。
こうやって俺に言った所で酒は出て来ないし。
「何時だと思ってんだよ。まだ仕事は残ってんだぞ?親父」
こうやって息子からのお小言を頂戴するのも分かっているはず。
「そ、そんな酔うほど飲む訳無いだろっ」
「酔う程なんて論外だろ」
こういうやり取りが好きなんだろうな。
おっさんなりのコミュニケーションの取り方なのかもしれない。
「うっせぇ、バーカバーカ」
そう言って自室に逃げ込んで行った。
しっかりとアップルパイ、アイスクリーム添えの乗った皿は持って。
過大評価してしまっていたっぽいのでおっさんの評価を改めなければならないが・・・今はそんな事よりも。
「えっと、あの・・・」
「はい?」
「マーシーさんを」
「マーシーを?」
「止めなくて良いんですか?」
「え?」
先ほどからずっと反応が無かったがマーシーさんは無言で食い続けていた。
どデカいアップルパイのホールを4等分した訳ではなく。4切れを配った訳で。
半分以上が残っていた。
今はマーシーさんがその残りを抱え込んでそこに自作のアイスクリームを乗せて無言で口に運び続けている。
残りと言っても、もうその大半はマーシーさんのお腹の中に入ってしまっているようだが・・・。




