7話 スキップ
乗合馬車でたまたま一緒になった婆さんに誘われて来た寂れまくった村だったが住めば都とは良く言ったもので慣れてしまえば居心地は良かった。
「トール君。ワシのメガネ知らんかね?」
「えー?いつものトコにないんですかー?」
「ちょっと見とくれよ」
「ちゃんと置く場所決めないからそうなるんですよー。もう1回ちゃんと自分で探してから来て下さい」
「すぐに要るんじゃよ」
「後で行くんで先に探しといて下さい」
「わかった・・・」
俺が行った時には既に見つかっている。毎回そうだから・・・。
「トール君。こないだのまた譲ってくれんかね」
「え?もう全部飲んだんですか?」
「うむ」
「あれかなりキツいんですからそんなペースで飲んで死んでも知らないですよ?」
「男のプライドじゃからな。命と引き換えでも仕方なかろう」
「はぁ~・・・」
と、またアイテムボックスからオークの睾丸を取り出して爺さんに渡してやった。
「すまんの。恩に着る」
オークの睾丸を受け取るや否やスキップで去っていった。
「元気過ぎだろ・・・色んな意味で・・・」
こうやって頼られるというのはやりがいもあって充実した日々を過ごせている。
屋根を直したり、柵を直したり、棚を直したり、椅子を直したり・・・修理屋なのか小間使なのか判断に苦しむラインではあるが。
ただ、この村には俺以外には老人しか居ない。
色っぽい話が無いのも辛いが娯楽と言ったら酒くらいしか無いのが1番辛い。
テレビもパソコンもスマホも無い。更に言えば識字率も低くて本も無い。あってもお馴染みの紙ではなく羊皮紙ってやつでゴワゴワして分厚くて扱いにくい。そして、そんなのでもクソ高い。
そんな高価な物がこんな田舎の村にあるはずもなく。朝からあちこち走り回り。夜になると浴びるほど安酒を飲んで寝るという生活にそろそろ嫌気が差してきた。
「ちょっと今いいかいのう?」
「あ、大丈夫ですよ。どうしました?」
「暇じゃろ?」
「え?」
「あぁ、皆から頼まれた仕事は置いといて。夜は酒を飲んで寝るだけ」
「あー、そうですねぇ」
「休みの日も酒を飲むくらいしかする事ないじゃなかろうかと思うてのう?」
うん、この村に来てから休みの日なんて1日たりとも無かったけどな。
「ですかねぇ」
「そこでじゃ!」
「!?」
「嫁さんでも貰ったらどうじゃ?」
「嫁さん・・・」
ババアしか居ないこの村で嫁さんの候補なんて居ねぇよ。
「いくつかの村と合同で街コンをやるんじゃがトールも参加せんか?」
「街コン!?」
「知らんか?」
「え、いや、知ってますけど・・・あ、いや、俺が知ってるやつと同じかは・・・」
「ふむ。若いのはどうしても都会に出ていきたがるじゃろ?」
「まぁ、そうですかね」
「で、どうしても田舎には若いのが居なくなる」
「はい」
「男は痛い目見てすぐに帰ってきよるが女はとんと帰ってきよらん」
「なるほど・・・」
「そこでじゃ!」
「!?」
「都会に行って嫁さんの2人や3人貰ってこいっちゅーイベントじゃな」
「ふた、2人とか3人?」
「多い分には全然構わん」
まぁ、異世界だし一夫多妻とかそういうもんか。
「で、どうする?」
「い、行きますっ」
「よしきた!」
わくわくテカテカして期待に胸を膨らませていたが・・・待てど暮せど続報が無い。
「アレどうなりました?」
「アレ?」
「アレですよ。アレ」
「???」
「街コンですよ」
「あー、あー、あー、なんじゃ、楽しみにしとったのか」
「楽しみっていうか・・・何時やるのかくらいは気になりますよ」
「次は冬じゃな」
今は夏も終わりかけで秋になるかどうかというくらいだ。
「結構、先ですね」
「大抵、やるのは冬か春じゃからの」
「へー」
「冬は農作業も無くて暇じゃし、肌寒くて人恋しくなるじゃろ?」
「あー・・・なるほど」
「それで、春は男も女も盛る季節じゃからの」
「ぶっ」
「汚いのう。本当の事じゃろうて」
まぁ、浮かれる季節ではあるか。
それからも婆さんの歯に衣着せぬ説明は続いたが・・・。
ザックリ言うと冬場は収入が減って大変だから田舎者の男との結婚も仕方ないとなる可能性がある。人肌恋しくて1回でもヤってしまえば情でどうにかなるかもしれない。
春は盛っててバカになってるからその隙を突く。
そんな感じだったがぶっちゃけ過ぎだろう。
というか、そのくらいに田舎というのはデバフになるらしい。
と、まぁ、そんなこんなで冬になり。ようやく街コン!
荷馬車に揺られながら都会というには心許なさすぎるがウチの村よりは遥かに都会な村へと向かった。
街コンなのに村とはこれ如何に・・・。




