6話 新天地
まずは現代日本から異世界に巻き込まれ召喚をされ。
召喚のメインターゲット達はあっさりとリタイアして全ての責務は俺に押し付けられ単独での魔王討伐。
そして、救国の英雄として叙爵して領地も貰い現代知識で内政チートのターンかと思ったが早々に領地を奪われ指名手配されて逃亡。
逃げた先で冒険者になるも嫌がらせをされて逃げ出した。
今度こそは!と商人になるも錬金ギルドからの嫌がらせに屈して逃亡。
「はぁ~~~~~~~」
日本に帰してくれ。それが無理ならそっとしておいてくれ。
「えらく景気の悪そうな顔してるね。お兄さん」
行き先も決めず適当な乗合馬車に乗り込み。この不運続きの異世界ライフを思い返していると乗り合わせた婆さんに話しかけられた。
「あー・・・すいません。こんなため息ばっかうっとうしいですよね」
「幸せが逃げるとは言うね」
「あー、言いますね・・・」
「街で何かあったのかい?」
「そうですね。色々と・・・」
「田舎に帰るのかい?」
「あー、行き先は決めてないですね」
「都会に疲れたならどこでも良いから田舎でゆっくりしな」
「それも良いかもですねぇ」
召喚された最初が1番都会で。厄介事から逃げる度にどんどん田舎へと移動していっているので・・・つい最近まで居た場所でさえも俺的にはド田舎だった。
「手に職はあるのかい?」
「あー、結構なんでも出来ますよ?」
「それならどこででもやっていけるね」
その結果どこからも逃げてるんだけどな・・・。
「私のトコに来ないかい?」
「え?」
「私の家にじゃないよ?村にだよ、村に」
行く当ても無いし頼れる人も居ない今・・・やりたい事も無いから渡りに船かもしれない。
「良いんですか?こんな知り合って間もない男を引き入れたりして」
「なんか悪さでもするつもりかい?」
「いやいやいや、そんなつもりは無いですよ」
「だったら問題あるのかい?」
という事で、この婆さんの居る村でお世話になる事となった。
が・・・辺境の辺境にある深い深い森の中にある寒村。
俗に言う限界集落。この村には老人しか居ない。
「トール君ちょっと頼めるかな?」
「あ、はい。これが終わって・・・んと、あれやこれや頼まれてるのの後で良ければ・・・」
「困ってるんだよねぇ。こっちを先に頼めないかな?」
「いやぁ・・・ちょっと・・・」
この村唯一の若者・・・いや、まぁ、若者っても他と比べたらって話で実際は30を優に回ったおっさんだが・・・。
村唯一の若者になってしまいあれこれと頼られる。頼られる事自体は悪い事ではないがあまりにも細かい仕事で・・・。
薪割りをしてくれ。水汲みをしてくれ。みたいな力仕事なら仕方ない。全然、喜んで引き受ける。
でも、頼まれる事の大半はお気に入りのコップが見当たらないから探してくれ。だとか、嫁さんの機嫌が悪いから何とかしてくれ。だとか・・・本当にどうでも良いし何故に力仕事を頼らないっ・・・!?
村の周りに湧く魔物だとか盗賊やらの退治を頼まれると思ってこの村に来た。
そういった荒事なら簡単に対処出来るし。俺的には労力よりも感謝のされ具合の方が大きくなるだろうと踏んでいた。
「村には慣れたかい?」
「ま、まぁ、慣れましたね」
「ふふん。やっぱり田舎でゆっくりするのが1番だね。乗合の時よりも全然良い顔してるよ」
「そ、そうですかね?」
全然、ゆっくり出来てないけどな。
異世界に来てからで言うなら。魔王退治に向かってた時の次に忙しい。
「トール君まだかね?」
「まだもうちょっと・・・」
余りにもしょうもない頼まれ事が多すぎるので依頼はある程度選別している。
なので今やっているのは雨漏りの応急処置。
プロじゃないから屋根の修理は出来ない。なので応急処置でしかないが雨が降るまでに何とかしなければならない優先度のかなり高い依頼だ。
「何を頼む気なんだい?」
「いや、そりゃ、なんだ・・・お前には関係ねぇだろうが」
「なんだい?人にゃ言えないような事を頼む気なのかい?」
「女には関係ねぇこったよ」
「ふ~ん。どうせあれだろ?その粗末なモノの勃ちがどうにかなる物を手配してくれだとかそんなしょうもない事じゃないのかい?」
「な、なんで分かるんだよ・・・」
「ガキの頃からの付き合いだよ?わからいでかっ」
「つ、っつーか・・・俺のエクスカリバーは粗末じゃねぇ!見せてやろうか!」
「見せんじゃないよそんなもん」
屋根の下からはこんなやり取りが聞こえてくるが・・・異世界でも男のモノの例えとしてエクスカリバーとか言ったりするのか。
ってか、その年になってもまだ現役かよ。
「トール。このバカの頼みは無視しとくれて構わないからね」
「は、はい・・・」
婆さんが去った後も現役バリバリの爺さんにしつこく頼み込まれアイテムボックスからオークの睾丸を取り出して渡してやった。
効果が本当にあるのかは眉唾だが。絶大な効果があると言われていて高値で取引されている。
翌日、爺さんからめちゃくちゃ良い酒を貰ったので効果バツグンだったって事だろう。




