40話 コニャック
そんな事を言っていたが、商談なんだからちゃんとやると思っていた時がありました・・・。
「クソ親父が・・・」
「いや、無理なら他所を紹介して貰えればそれで良いですよ」
ちなみに、おっさんは息子さんが帰って来る前に飲み始めて使い物にならなかったとだけ言っておこう。
「新米は少量しか無理ですね」
「ん?古米ならいけるって事ですか?」
「古米で良ければ結構な量いけると思います」
「味的にはどうですか?」
「まぁ、新米と比べれば落ちますね」
「ですよねー」
「でも、炊き込みご飯にするとか炒飯にすれば。新米よりも古米の方が美味しかったりもするんですけどね」
「あー、なるほど」
「良ければ召し上がっていかれますか?」
「良いんですか?」
「是非、是非」
と、昼食に続いて夕飯までご相伴に与る事になった。
「こちらが古米でこちらが新米です」
「ありがとうございます」
見た目はほぼ変わらないが新米の方が若干ふっくらとしていてツヤがあり輪郭も明瞭で米粒が立っている。
食べ比べるとどちらも美味しいが新米の美味しさは段違いだった。
「やっぱり違いますね」
「そうですね。こちらもお試し下さい」
「はい」
と、出されたのは小さめのおにぎり。
「新米と古米の炊きたてを握って冷ました物です」
「ほぉー」
熱々のを食べるよりも差が明確だった。
新米の方が圧倒的に美味しい。
「新米の方が・・・」
「そうですね。米自体の旨さとしてはどうしても新米の方が当然上です」
「ですよね」
続いて炒飯も出てきた。
「どうぞ」
「いただきます」
これは・・・。
新米の方がふっくらしていて瑞々しい米の味を感じる。古米の方がパラパラで全体のまとまりが良いように感じる。
「どっちもアリ」
「古米の方が美味しくないですか?」
「これは好みが分かれると思いますよ」
「でしたら新米のみを購入なさいますか?」
「んー・・・新米の方が好きですけど。古米の方も十分美味しいんですよねぇ」
という訳で。
新米も古米も買えるだけ買う事にした。
新米は特別な時に。古米は普段用にでもすれば良い。
「興味本位で聞くんですけど」
「はい」
「古古米までいくと味って流石に落ちますよね?」
「そうですね。あまりオススメはしません」
「なるほど」
了解です。
聞くと、ベースとなる旨味自体が落ちるのが大きいし、穀物臭が強くなったり水分含有量が下がるので色々と対策が必要になるそうだ。
パサつき対策には事前準備として浸水させる事。
穀物臭を消すには炊く時に植物油や酢を数滴垂らすと良いそうだ。
酢なんて匂いの強い物を入れて大丈夫かと思ったが、数滴程度なら酢の匂いは一切感じないとの事だった。
パサつきも何とかなる、穀物臭も消せる。でも、根本の旨味が減るのがネックで。
古米までなら生産者としてもオススメ出来るが古古米以降は・・・という話だった。
「食べさせて貰ってばかりなのも難なので」
「はい?」
「良かったら飲みませんか?」
と、王城からガメてきた高級酒をアイテムボックスから取り出した。
「どうぞ」
トクトクトクと小気味の良い音と共にグラスを綺麗な琥珀が満たしていく。
「奥さんも」
「宜しいのですか?」
「どうぞどうぞ」
奥さんのグラスにも注いだ。
そして、横を見るとおっさんが無言でこちらにグラスを出して待っている。
「おっさん何もしてないじゃん」
「後生だ・・・」
「ほれ」
「ん?」
アイテムボックスから普通のエールを取り出しておっさんの前に置いてやった。
「お?すまんな」
そして、そのエールを一気に飲み干すと再びグラスを突き出してきた。
「おっさん・・・」
「頼むよぉ」
「まぁ、良いか・・・」
と、おっさんにも注いでやった。
「かんぱーい」
「「「・・・・・・」」」
「うお、こりゃ美味ぇな」
「頂きます」
「私も頂きます」
「どうぞ」
「これは・・・本当に美味しいですね。親父にはもったいない」
「酒なら何でも良さそうですもんね」
「そうなんですよ・・・」
「おっさん」
「ん?おかわりして良いのか?」
「これやるよ」
「ん?」
と、安物のワインを数本取り出して目の前に置いてやった。
「うひょー」
「それ全部飲んで良いから」
「マジか?もう返さんぞ?」
「良いよ」
おっさんは安物ワインを抱えて自室へと帰っていった。
「よし、これバレないように飲んで下さい」
と、息子夫婦に王城産の高級ブランデーを数本渡した。
「良いんですか?」
「まぁ、食事代という事で」
宿や居酒屋で食べる食事は美味しい。
でも、こういった家庭料理を口にする機会は滅多に無い。
そして、そんな家庭料理に飢えていたので感謝の気持ちを示したつもりだ。
こちらの貨幣価値を日本円に換算すると1本安くても10万円以上。高いのだと50万円くらいはするかもしれない。
渡した酒は総額100万以上するかもしれない。
でも、それよりも白米と一緒に食べた里芋の煮っころがしの方が俺には価値があった。




