4話 悠々自適
地位も名誉も奪われ全てを失った。失意の中、逃げ出した俺は冒険者に身をやつした。
とは言ったが・・・正直、慣れない領地運営やら貴族の相手やら忙しなく次から次へと仕事がありゆっくりする暇も無かったから誰に命令されるでもなく気ままな冒険者生活を始めるに当たって気持ちは晴れやかだった。
ただ、どしてもやりたい事があった。
魔物退治の依頼は受けず近くの森で薬草採取の依頼ばかり受けてランクも全然上がらずうだつの上がらないルーキーからもバカにされる低ランクのおっさん冒険者。
そんなおっさんがスタンピードの時に無双して一躍ヒーローになる展開。
そんな事を考えていた時もあったがスタンピードなんて早々起こるもんじゃない。
なので、ただただバカにされているおっさん冒険者な日々を送っている事に耐えかねて普通に魔物退治の依頼もこなしていった。
その結果、ランクが上がり過ぎて指名依頼がひっきりなしに舞い込む事態になってしまった。
身元を偽って活動しているにも関わらず領主から士官を打診されたりバカにされる日々の鬱憤晴らしにやりすぎてしまったようだ。
なので、旅の護衛依頼を受けて別の街に移動して、その街でしばらくのんびりしてから再び護衛依頼を受けて別の街へ。
その途中で気付いた。依頼を受けずに移動して移動した先の冒険者ギルドで名前を変えて登録すれば新たな身分証を得られると。
この世界の身分証はそのくらいガバい。
犯罪を犯しても少し離れればバレないし。念を入れるなら髪型を変えるなりヒゲでも生やすなりすれば完璧だ。
少し説明すると。
冒険者ギルドが意外と信用度の高い組合なのと冒険者ランクを上げるのが意外と難しいという事がある。
実力があればサクサク上がるのは事実だがそれだけ強ければ身分を偽る必要が無い。冒険者として稼げるのに犯罪を犯す必要も無い。
日銭を稼ぐにも困窮し犯罪に手を染めたり盗賊に堕ちたりするようなやつは実力も無くランクも低いので信用度は低い。
ランクはGから始まりAまである。その更に上にSもあるがこれは名誉ランクみたいなもんで・・・警察で言う所の殉職して二階級特進的なやつだ。Aランクのレジェンドで死後にその業績を称えてSに昇格。そんなのが稀にあるそうだ。
話を戻すとGは誰でもなれる。申請すればその場で受理されてGランクだ。
GからFになるにはいくつか依頼をこなし、魔物を1匹でも討伐すればランクアップ。
FからEが冒険者見習いって扱いで。Dで半人前、Cでようやく一人前。
だからGとかFなんてのは身分証といっても信用度は無いに等しい。
Dでようやく真っ当な身分証で、Cなら大抵の国で入国料も入街税も掛かからなくなる。
という訳で、最低ランクのおっさんが無双するイベントは諦めたのでサクっとDまで上げてダラダラしている。
Cまで上げると貴族からの指名依頼(強制)があったりするので面倒臭い。
そんな感じで悠々自適なスローライフを送っていた訳だが・・・。
指名手配も解かれ拠点をここに構えてしまった。
その結果・・・冒険者ランクもどんどん上がっていき、一目置かれる存在にもなった。
それが気持ち良かったのは否定しない。気持ち良くなって悪目立ちしすぎたのも残念ながら否定出来無い。
とは言え、一線は超えていないつもりだった。
でも、たまたま新人冒険者が大怪我する場面に出くわしてしまい手持ちのポーションで治してやったのがマズかった。
口止めしたはずが翌日には街中にその噂が広まっていた。
まぁ、俺もミスったんだ。
焦ってエリクサーなんて使ってしまったもんだから千切れていた腕もキレイに生えてしまった。
だから、冒険者ギルドに顔を出した瞬間にギルド職員から呼び出しを食らってエリクサーの出所を詰問された。
ダンジョンの宝箱から出た物でエリクサーだとは思わなかった。精々、上級ポーションくらいだと思っていた。
これでゴリ押しても中々しつこいのなんの・・・。
まだ持っているのだろう?
どうせ使わないだろうから私が適正価格で買い取ってあげよう。
エリクサーを探している貴族を知っている。私が取り持ってあげよう。
そうすれば君は金を得て私はこんな田舎で燻らずに王都のギルドに昇進出来るはずだ。もしかしたら爵位を得ても不思議ではない。
そうなれば褒美として君を雇ってやっても良い。
知らんがな・・・。
ほぼほぼお前の欲じゃねぇか。
宝箱にあったのはあれ1個だけでもうエリクサーは無いと突っぱねたが・・・皮算用が捗りまくっていたのだろう。出世の目論見が外れた怒りの矛先が俺に向かった。
最初は買取査定が謎に上がったり割の良い指名依頼が来たりと優遇されるだけだったが業を煮やしたのか美人局を送り込んできたり俺の拠点に泥棒が入ったりと分かりやすくなってきた。
俺が楽して儲けてるのはやっぱり他の冒険者には筒抜けで。儲かってるとなると人が集ってくる。
その大半が寄生だったり金目当てだったりと関わりたくないやつばっかりだ。
そこまではまだ理解も出来るし、まだ我慢出来る範疇だったが・・・。
冒険者ギルドにある俺の口座が凍結され、資産差し押さえからの没収という事態には我慢ならなかった。
余りにもムカついたので冒険者ギルドは灰にしてやったし集ってきた冒険者達もボコった。
エリクサー目当てに近づいてきたギルド職員は後ろ盾である貴族の実家諸共ぶっ潰してやった。
そんなこんなで俺の悠々自適な冒険者ライフは終わりを告げた。