25話 禁止
伯爵様のお屋敷に招かれ。歓談の後、もう帰ろうと思ったタイミングでセバスチャンさんに捕まった。
焼酎と日本酒という単語に引っかかったようだ。
「そうですね・・・」
焼酎の場合、まずは麹を作らないと話にならない。
米を蒸して、そこに麹菌をまぶす。そして、加水したりして一次発酵をしてもろみを作る。
芋焼酎の場合なら芋を蒸して、そこにもろみを加えて二次発酵をする。
それを蒸留して熟成させて完成。
熟成後に水を加えたりブレンドしたり濾過したりする場合もある。
日本で販売されている焼酎の大半は加水されているし濾過もされているはずだ。
「と、まぁ・・・言いましたけど・・・麹の作り方とかは知らないんですよね」
「麹でしたらショーユに必要ですので把握しております」
「あ、そうなんですね」
「ショーチューの作り方は大体理解しました。ニホンシュというのは?」
「えっと・・・」
日本酒は醸造酒でビールとかワインに作り方は近い。
そして、普段食べている米は日本酒には向かない。日本酒を作るには日本酒を作る用の米が必須だ。
その米を精米して水を吸わせる。そして、蒸して澱粉の糖化を促進させる。
蒸した米は麹用、酒母用、仕込み用と3つに分ける。
酒母を入れ麹と米と水を入れる。1日寝かせてから再び麹と米と水を入れる。翌日、また麹と米と水を入れる。これでもろみが出来る。
そのもろみを発酵させる訳だが、その時に澱粉が糖化して糖がアルコールに変化する。
それを絞って濾過して火入れをしてほぼ完成。
そこから更に加水したりブレンドしたり熟成させたりする場合もある。
「って感じで日本酒の方が難易度は高そうな感じですね」
「そうですね。ショーユの製造方法にかなり近いので何とかさせます」
させます・・・。
「あ、そうそう」
「はい」
「もろみ造りの段階で麹と米と水を入れるって言ったじゃないですか」
「はい」
「最後に入れる水を酒に変えると貴醸酒っていう酒になったはずです」
「ほうほう」
「1日目とかは普通に水で良かったはずです」
「分かりました」
「甘くてとろみのあるお酒ですね」
「ほうほう」
「貴腐ワインに近いって言った方が伝わりやすいかも?」
「キフワインとは?」
oh...やっと説明が終わったと思ったのに藪蛇・・・。
「えっと・・・貴腐ワインはあんまり知らないんでほぼ説明出来無いと思って下さい」
「はい」
「ワイン用のブドウに特殊なカビが生える事で甘いブドウが出来るはずなんですよ」
「ふむふむ」
「本来はブドウの害になるカビで枯れる事もあったと思います」
「ふむ・・・」
「特殊な条件下のみで枯れずに育成が進んで。それを貴腐ブドウって言います」
「ふむふむ」
「その貴腐ブドウを使って作ったワインが貴腐ワインですね」
「そちらも甘くてとろみのあるワインなんでしょうか?」
「そうですね。貴腐ワイン特有の香りも凄く良いんですよね」
「なるほど。カビですね?」
「確かカビだったはずです」
そうだ。忘れてた。
「あ、それから」
「はい」
この街には米がある。醤油もある。味噌もある。マヨネーズは無いが・・・。
そして、出汁もある。だから、白米に味噌汁なんていう異世界とは思えないような食事も可能だ。
でも、まだ贅沢を言いたい。
俺は納豆ごはんが食べたい。
それも、ひきわり納豆で!
納豆の作り方は先程の日本酒や焼酎の比では無いくらいに簡単だ。
土壌や大気中にも常在していて、稲藁に多く常在する枯草菌。
納豆を作るのに必須な納豆菌は枯草菌の一種で特徴として熱に強いというのがある。
稲藁を熱湯で煮沸する。すると納豆菌以外の菌類が死滅する。
煮沸消毒されて納豆菌のみになった稲藁の中に茹でた大豆を入れると大豆に納豆菌が付着して発酵が進み納豆が完成する。
自分でも作れない事も無いと思うが自分でやるには面倒臭い。
「って感じで比較的簡単に作れて栄養価も高くて健康に良い納豆っていう食品があるんですよ」
「ナットーは先代により禁止されております」
「なんでっ!」
くっそ・・・先代は納豆嫌いだったのかよ・・・。
非国民め・・・。
「ナットーに含まれる物が入ると麹作りに失敗するとの事で」
「あ・・・」
「以前は納豆も製造していて。領内でも人気の食べ物だったと聞いております」
「はい・・・」
「ショーユの製造中にナットーを食べるのを禁止していたそうなんですが」
「はい」
「隠れて食べる者が居たそうで。それにより麹が全滅したそうです」
「・・・・・・」
「それ以降、ナットーの製造は禁止になりました」
醤油と納豆を天秤に掛けた結果。そりゃ、醤油に軍配が上がるか。
なるほど、納豆食いたかったら自作しろって事かよ・・・。




