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235話 杞憂民

シェリルさんから娘であるリンさんの働きぶりを尋ねられたが・・・邪魔になっていないか聞かれたのかメイドの領分を越えた仕事をさせるのであれば責任を取れと言われているのか分からなくて怯えている。


「お邪魔でなければ娘を宜しくお願い致します」

「こ、こちらこそ」


大人になると良くも悪くも言葉をそのまま額面通りに受け取れなくなる。

いや、正確には受け取ると痛い目を見る可能性が出て来る。だ・・・。

なので無駄にあれこれ考えてしまう。本当に大人って嫌だ。


「リンさん、研ぎはどうですか?」

「え?楽しいです」

「それが1番ですよね」

「はいっ」


好きなのが1番だ。好きこそものの上手なれ。

でも、それがものになるかは別の話だし、仕事になるかもまた別の話だ。


リンさんは領主お抱えのメイドさんなんだからメイドを続けていれば将来は安泰のはずだ。

給料がどのくらいなのかは知らないが平民としては稼いでいる方なはず。

そんな子の将来を歪めてしまっても良いものなのだろうか・・・。


もし俺が鍛冶をやらなくなったとしたら今のままだとリンさんは研ぎの場を失ってしまう。

であれば俺もそろそろ横の繋がりを作って、リンさんを他の工房に紹介出来る様になっておいた方が良いのかもしれない。


「リンさんは将来的に・・・」

「はい」


これは・・・聞いてしまうと後には引けなくなる。

でも、シェリルさんからもよろしく頼まれてる訳だし・・・。


そう。

エーリッヒだって初心者だった頃のエレノアに少し指導をしただけのはずなのに・・・その責任を今も果たしている。

大人というのはその行動1つ1つに責任が付きまとう。


エレノアだってそうだ。

これまでは、女だから、若いから、顔が良いから。で、許されてきてたのだろう。

でも、それがもう許されない年齢になったという事だろう。


だから、俺もエーリッヒを見習って責任を背負う時が来たのだ。


「工房を持ちたいとか、この工房に入りたいみたいのってありますか?」

「へ?」

「いや、今直ぐにって話じゃないです。俺もいつまで鍛冶をやるか分からないですし」

「え?いや、あの・・・私、メイドなんで・・・」

「まぁ、まぁ、まぁ、それは、まぁ、そうなんですけど。将来的に・・・」

「将来の夢。みたいな話ですか?」

「そんな感じですね。夢というか展望というか」

「このままメイドを続けて」

「はい」

「貴族に見初められて」

「はい?」

「正妻とは言わないです。側室にでもなれればと万々歳ですねっ」

「あれ?研ぎは・・・?」

「研ぎ・・・?」

「え?あれ?研ぎをやっていきたい・・・とかは・・・」

「そんなっ、私なんかがっ」


中々、要領を得なかったが・・・詳しく聞いてみるとメイドを辞める気は一切無い。子供の頃からメイド仕事を叩き込まれていて男の子趣味の物は遠ざけられて育てられてきた。なので剣に興味があって触れてみたかった。

そして、実際に触ってみて研ぎ自体は楽しいが仕事にする気はサラサラ無い。


要約するとそんな感じで、全ては俺の杞憂だった様だ。


「ごめんごめん、何か勘違いしてたみたいで・・・」

「はい。私が何かしでかしてメイドを続けられなくなった時は研ぎ師として雇って下さい」

「え、あ、うん。考えておく・・・」


という事は、リンさんは飽きるまで限定の研ぎ師という事だ。

エーリッヒもいつ戻るか分からないし・・・まぁ、エーリッヒは戻った所で即戦力ではなく。しばらく練習させてからでないと使い物にはならないんだけど・・・。


「って事なんだけど。おっさんは研ぎを手伝う気無いか?」

「あー、あんま惹かれねぇなぁ」

「なんでだよ。出来るだろ」

「出来るっても、もうお前のが上手いからなぁ」

「なんだよ。そこが気に入らないのかよ」

「違うわっ」

「だったら何だよ」

「俺が好きなのは物作りだ」

「ん?うん」

「研ぎは仕上げだろ?何か微妙に違うんだよなぁ」

「あー、分からなくはない」

「だろ?」


0を1にする作業とは言わないが。目に見えて形になっていくのが楽しい。

おっさんの言うように研ぎは最後の仕上げであって変化は小さい。

恐らく、俺もおっさんも感性がガキだから地味なものよりも派手なものに惹かれるんだと思う。


「研がずに納品するのはポリシーに反するか?」

「んー・・・」

「研ぎ師くらいなら向こうにいくらでも居るだろうからな。研がずに納品しても問題無いはずだがな」

「出来れば研いで剣として完成させてから納品したい」

「まぁ、だろうな」

「でも、自分で研ぐのは面倒臭い」

「面倒臭いのはお前だ・・・」



自分でも研ぐ本数を増やすか、それとも打つ本数を減らすか。

打てば打つ程に鍛冶が上手くなっていく実感があってなるべく本数は打ちたい。でも、そうなると研ぎのペースが圧倒的に間に合わなくなる。

かといって、中途半端な物は納品したくない。


そんな我儘とも言える拘りが出てくる程度には鍛冶に対してプライドと思い入れが出て来た証拠なのかもしれない。


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