23話 マヨ
「聞いとりますか?」
「あ、はい、聞いてますよ・・・」
完全に出来上がっている。
これがセバスチャンさんの素の口調なのか。
きっとこれが美人なメイドさんとかだったなら素の口調にもキュンとしたかもしれないが・・・。
「先代が素晴らしい方なのは分かっとります」
「はいはいはい」
「ですが!カギノ様はもっと素晴らしい!!それが何故に分からんのか理解に苦しむのです」
「はいはい、そうですね」
筆頭執事らしいけど本気で伯爵様ラブな人だった。恋愛感情ではなく。
「ところで、頂いたお酒なんですけど・・・」
「あれは良い酒ですぞ」
「でしょうね・・・」
「あれは先代が作って。それを蔵で寝かせていた物ですからな」
マジ?それってもしかして値段付けられない感じじゃない?
「もしかして、もう同じのは作れない感じですか?」
「作れませんな。もし作れたとしても熟成にどれ程の時間が掛かるか分かりませんな。はっはっは」
後になって分かった事だが。先代が健在だった頃は国王への上納品であり、他国や他領への輸出品として有名だったようだ。
ただ、製造方法や熟成方法が秘匿されていて現在は作れなくなっているそうだ。
同じ木で同じ形状の樽を作り同じ期間熟成したにも関わらず味が違うそうだ。
もしかしたら先代の特殊能力で味を良くしていた可能性があるが今となっては分からない。
一応、俺の持っている知識として。シェリー酒の熟成に使用した樽でウイスキーを熟成させたり、樽の内側を焼き入れして焦がしたり、海藻から出来た泥炭を使って麦芽を乾燥させてピート香を付けたり。
そんな中途半端な知識を領主様に伝えた。
当然、直ぐには結果は出なかったがかなり感謝された。
そして、それによって生まれた新しい酒が再び世界を席巻する事になるがそれはまた別のお話。
「そろそろ良い時間なんで・・・」
「なにをおっしゃられりまらからすか。まらまらカギノ様のすばらしさをこれっっっっっっっっ」
「いや、あの・・・」
「っっっっっっぽっちもつたえきれておるりませぬ」
「後はこちらでやっておきますので」
と、後ろから宿屋の従業員のデレクがひょっこりを顔を出した。
「!?」
「セバスチャンさん。お屋敷でカギノ様がお待ちですよ?」
「はっ!そうでした。カギノ様が!!」
と、飛び出して行った。
「いつもあんな感じなんです」
「ですか・・・」
「直ぐ酔うにのそこからが長くて長くて・・・」
「あぁ・・・居ますよね・・・そういう・・・」
「厄介な人です」
流石にと思って飲み込んだのに・・・。
「精算はこちらでしておきますのでミト様はこのままお帰り頂いて結構です」
「あ、はい」
「お気を付けてお帰り下さい」
宿に戻り一息付く。
長時間飲んでいたはずだが一切酔っていない。
あの酒が思っていた以上に貴重だった所為か厄介な酔っ払いを相手にしていたからか・・・どちらかは分からない。
「飲み直すか・・・」
どこぞの貴族から慰謝料として頂いた酒をグラスに注ぐ。
「こいつでも十分高級な酒なんだけどなぁ」
金額も桁違いだし、レアリティが更に段違いだ。
返品は・・・やっぱり失礼な行為だから出来無いし、見合ったアイディアを捻出するしかない。
晩酌は直ぐに終わらせ翌日は屋台ではなく店舗の食べ歩きを行った。
何となく分かったのは領主直営店と市民が経営している店があるという事だ。
直営店の方が少し割高だが。その分、味も良い。
というか・・・あの酒の作り方を秘匿していた事から推測出来る事だが醤油がこの街にはある。
だが、正しい作り方は秘匿されている。
恐らく先代領主が製造方法を秘匿しながら広めた醤油等の日本由来の調味料はこの街に浸透している。
浸透しているが製造方法は分からない。なので長い時間を掛けて似た物を作り出した。
だから、一般の店で使用されている醤油は魚醤の様な独特な匂いがある。
屋台で使用されているのもそういったジェネリック醤油だ。不味い訳では無いが醤油をイメージして口に入れると生臭さや違和感があり微妙に感じてしまう。
まぁ、そうと分かっていればその匂いが酒に合ってクセになるんだけど。
そうして食べ歩きをした結果。
俺でも簡単に作り方が分かって、この街に無い物があった。
作り方を手紙に書き。セバスチャンさんに渡してくれとデレクに頼んだ。
鶏卵と植物油と酢と塩を混ぜる。
たったそれだけでマヨネーズという魔法のソースが完成する。
これで酒代を多少は払えたと思ったが、直ぐ様セバスチャンさんから返信があり・・・マヨネーズは先代から禁止されているとの事だった。
マヨネーズアンチかよ!と思ったが、サルモネラ菌による食中毒を避ける為らしい・・・。
生卵を安全に食べられるのは世界でも日本くらいのものだった。そして、ここは異世界。
生卵なんて危なくて当然だった。




