229話 ぼっち
今回の事で俺は俺の事を理解した。
いや、理解が深まった。全てを理解するにはまだまだ掛かるだろうが・・・。
そう。
鍛冶をやり始めると集中し過ぎて時間感覚がおかしくなる。
なので鍛冶をする時は他の人に時間を管理して貰った方が良い。と・・・。
という訳で、職人さん達への差し入れはマーシーさんにお願いした。マーシーさんが無理な時もあるのでシェリルさんに日持ちのするお菓子を渡しそれでお茶を濁して貰う様にと頼んだ。
が・・・お昼時になると強制的に我に返らされる事になった。
「熱くねぇのか?」
「いや、まぁ、熱いは熱いですよ」
「ほーん」
と、お昼休憩の時に何故か職人さん達が俺の鍛冶を見学に来るのが習慣になった。
「俺の昔馴染みが鍛冶の棟梁やってるけど。ソイツより全然上手い気がすんな」
「俺も鍛冶は分からんが動きが洗練されてるから上手いのは分かる」
そんなに褒められて集中出来る訳が無い。
「この火花ってのは良いな。魅入られる」
「良いよなぁ」
「でも、こんな暑い中で年中やるのは無理だな」
「流石にキツいよな」
俺は耐性スキルがあるから問題無いけど。普通は中々そんなスキル持ってないしどうやって耐えてるのか謎だ。気合?
言われて気付いたけどこの火花かもしれない。
火花を見ているとどんどん集中力が高まっていっている気がする。
それが魅入られるって事なのかもしれない。
「冬場だったら暖かくて良いかもな」
「ばーか。冬場だろうが熱いもんは熱いだろ」
「そうかぁ?」
職人さん達は入れ代わり立ち代わり後ろで好き勝手言っている。
炉の付近は勿論の事。鍛冶場の室温が高いので皆直ぐに出ていくのだ。
1-2分。長くて2-3分。後ろから好き勝手言って出ていく。
そして、その会話に意識の9割くらいを持っていかれながら鎚を振るっている。
職人さん達が仕事に戻ったら俺は昼食タイムだ。
最初は一緒に昼食休憩を取ろうとしたが鍛冶している所を見たいと言われ。何故か未だにそれが続いている。
まぁ、職人さん達のおかげで昼食を食べ忘れる事が無くなったのは良い事だが・・・これだけ人が居るのに毎回ぼっち飯なのは少し納得がいっていない。
職人さん達はちょこちょこと小さな休憩を取っている。
タバコ休憩だったり、小腹を満たしたり、水分補給だったり。小まめに体力回復を図っている。
理由としては鍛冶場を建てた時に比べて人員が少ない事。ほぼ若手が居ない事。ベテランと中堅しか居ない・・・。
なので頻繁に小休止しているが何故かこちらには顔を出さない。
後ろで好き勝手言われるのは集中力が削がれるので嫌ではあるが・・・褒めてもくれるので嬉しくもある。
どうせ休憩するなら一緒に休憩して世間話なんかをしたいし、一緒にご飯も食べたい。
外から楽しそうな笑い声が聞こえてくる度に疎外感に苛まれる。
なので鍛冶に集中して外からの音をシャットアウトしようと思えば思う程に集中出来ずに外の気配にばかり集中してしまう。
であれば・・・いっその事、シェリルさんとリンさんの家が完成するまで鍛冶を休んでも良いかも。とは思ったが・・・そうなったらそうなったで他にする事が無い。
それで、気付いた。
趣味が無い。そして、俺は友達が少ない。
おっさんは他所の村に稲作の指導に行っているし、エーリッヒもここ最近は顔を見ていないから依頼でどこかに行っているのだろう。
そうなると親しい相手はジョーさんかマーシーさんしか居ない。
2人は仕事で忙しい上に育児もある。その上で差し入れを持って来てくれたり頻繁に顔を出してくれている。
そんな2人を遊びに誘うなんて狂気の沙汰でしかない。
となれば、趣味を作るか友達を増やすか。
大人になってから友達を作るというのは子供の時に比べて難易度が上がる。
鍛冶にしても趣味というよりも仕事になりつつあるから別で趣味を作るべきではある・・・ということで新たな趣味を作ろうと思う。
「趣味ですか?」
「はい」
「休みの日に時間があれば編み物や刺繍等をしたりはします」
「へぇ~」
まずはシェリルさんからリサーチを。
「暇潰しの手慰みでお世辞にも上手いとは言えない程度ですが」
「いや、上手そうですけどね」
「参考になりましたか?」
「はい、ありがとうございます」
次はリンさん。
「休みの日ですか?」
「はい」
「友達と買い物に行ったり甘い物を食べに行ったりします」
「おー」
女の子らしい。
買い物も嫌いじゃないし、甘い物も嫌いじゃない。
でも、一緒に行く相手が居ない・・・趣味よりも友達の方が先に必要なのか・・・?
「休みの日?」
「はい」
「孫だな」
「孫・・・」
「孫は良いぞ」
「良いですか」
「子供も5人育てたがな。やっぱり孫は良い」
「5人も・・・」
「子供ってのは親に責任があるだろ?」
「まぁ、そりゃ、ありますね」
「食うに困らせず、あれやこれやと教育して、一人前になるまで面倒見る。それが親の務めだ」
「はい」
「でも、孫ってのはそんな面倒な責任が無いからな。ひたすらに甘やかすだけで良い。最高だぞ」
そうか。
毎日、毎日、朝から晩までつきっきりじゃなく。たまの休みにだけ思う存分甘やかせる可愛い存在。
しかも、そこに責任も義務も何も無くただ思う存分可愛がるだけで良い。
友達より先に嫁が必要なのか・・・。
の、前に彼女か。




