218話 工事
翌日、朝から職人さんが2人来てくれてあれやこれやと相談をしながら作業をしてくれている。
「少し宜しいですか?」
「はーい」
旧鍛冶場で昨日打ち貯めた剣の研ぎを行っていると職人さんに確認の為に呼ばれた。
「では、換気口を空けさせて頂きます」
「はい」
「一応は計算したのですが。実際に空けてみない事には分からないので」
「はい」
「失敗した場合、強度は下がりますが塞ぐ事も出来ますので」
「はい」
2-3個くらいだと思っていたが説明された穴はもっと多くて、そんなに穴だらけにして大丈夫か?と、少し不安にもなったがプロに任せるしかない。
素人が口を出して失敗したんだし・・・。
工事が始まったので研ぎは置いておいて職人さんの作業を見学させて貰う。
熟練の職人による作業は何かしら勉強になるし刺激を受ける事も出来るだろう。
と、思っていたが・・・覚束ない手つきで中々にモタつきながらの作業だった。
失礼だが得る物は無いと判断して研ぎに戻った。
「どうだ?」
「あぁ、おっさん」
「見学とかしなくて良いのか?」
「プロに任せるのが1番だ。素人が見てても邪魔になるだけだろ」
「まぁ、確かにな。にしても、エラい量打ったんだな」
「今日は鍛冶場使えないのが分かってたからな」
「で、今日は研ぎだけやって。明日は鞘ばっか作るとかか?」
「鞘なぁ・・・」
木製でも革製でも鉄製でも前よりは楽に早く作れる様にはなったが、やっぱり鞘作りはそこまで楽しくない。
「なんだ?」
「最低限、刃が危なくない様にカバーするだけって感じで良いかもな」
「だったら布巻き付けるだけで十分だろ」
「確かに。それで良いか」
「ん?ホントにそれで済ますつもりか?」
「え?うん。それで十分だろ」
「ふむ・・・折角の剣がもったいない。鞘くらい俺が作ってやろうか?」
「お?良いのか?だったら任せる」
「報酬は・・・」
「農協の口座から引き落としといてくれ」
「そこまでしなくて良い。酒奢れ」
「そっちの方が良いか?」
「おう」
どうだろう。
飲みに行って奢る方が高くつく気しかしないが・・・。
まぁ、楽しいから問題無いか。
「マリリンのトコには卸さないだったよな?」
「だな。エーリッヒにでもフーバスタンクまで持ってって貰って領主経由で売ろうと思ってる」
「それでも足は付くだろうけどな」
「マジ?」
「隠れて打ってんならまだしも、鍛冶場建て直したり・・・こんな大っぴらにやっててバレない方がおかしいだろ」
「た、確かに・・・」
「まぁ、それでも意味はあるけどな」
「そうなのか?」
「バカな低ランク冒険者には気付かれないだろうしな」
「うん?」
「バカに盗みに入られたくはないだろ?」
「あー・・・剣をか」
ある程度の腕と経験があれば出処が俺だと分かる。でも、それに気付けるだけの実力があれば金がある。
なので、わざわざ盗んだりせずに普通に買う。
この程度の目眩ましに気付けない様な実力の金が無い冒険者さえ騙せれば問題無いそうだ。
「でも、盗むっても武器なんて1本あれば十分なんだから単発で済む・・・っても、ムカつくか。折角、丹精込めて打った剣盗まれたら」
「金が無い冒険者だぞ?盗んで他所で売るに決まってんだろ」
「あ・・・そうか」
「盗んでまで強くなりたい様なヤツならとっくに強くなって稼げる冒険者になってる」
「なるほど・・・」
「目先の金に目が眩む様なクズだから稼げない冒険者なんだよ」
「なるほどな・・・」
それこそ、オーパスポーカスとフーバスタンクの間を護衛依頼と輸送依頼を受けて往復してるだけでそれなりには稼げる。
贅沢な暮らしは出来無いかもしれないが、それで普通に生活はしていける。
盗みがバレて捕まればそんな安定した生活も失う。そして、しばらくは冒険者として活動も出来無くなる。
そうなれば借金生活に突入だ。そして、借金を抱えた冒険者の末路は決まっている。
なので、まともな冒険者は盗みなんてバカな事はしない。
それがおっさんの理論だった。
正直、それでも盗むやつは盗むだろうし。ショボい手柄や安い装備を奪う為に同業を殺すやつも普通に居るとは思う。
「っても、まだ大した本数打ってないからな」
「そうだな」
「これから数打ってきゃ知名度はどうしたって上がるぞ?」
「かなぁ・・・?」
「打ってくれって依頼されたらどうするんだ?」
「え?いや、そりゃ、打つけど?」
「相変わらずお前はチグハグだよな」
「え?」
「有名になりたいのか隠れたいのかどっちだよ」
「んー・・・貴族とか権力者とは関わりたくない。でも、冒険者とかからの依頼はなるべく受けてやりたい」
「そりゃ、流石に贅沢が過ぎるな」
「マジかぁ・・・」
これが贅沢ってのは切ないな。
金とか地位とか名誉とかには興味が無いとはいえ・・・。
褒められたいしチヤホヤもされたいけど偉い人とは関わりたくないってのは贅沢か。




