217話 灰かぶり
寝る前に明日打ちたい剣の事を考えていたからだろうか・・・深夜に寝たはずが夜明けと共に目が覚めてしまった。
目が覚めてからもベッドの中でしばらくモゾモゾとしていたが寝付けずにトイレに行ったり水を飲んだりしている内に完全に目も覚めてしまい諦めて鍛冶場へと向かう事にした。
「あ、お客さんおはようございまーす」
「ん?あぁ、炉と煙突のチェックに来てくれた職人さん」
「空気の抜けが悪いって聞いたんすけど、どんな感じっすか?」
「ちょっと時間掛かるんですけど大丈夫ですか?」
「構わないっすよ」
まず炉に火を入れてどんどん温度を上げていく。
「熱いっすね」
「熱中症怖いんで水飲んで下さい」
「あざっす」
まだまだ炉の温度を上げていく。上部の窓は開いているがドアは閉めているので鍛冶場の下部には熱が籠もっていっている。
俺の様に熱や炎に対する耐性を持ってないとかなりキツいだろう。
「これでドアを開けると」
ガチャ───。
昨日の様に鍛冶場下部に溜まった熱が一気にドアの方へと抜けていった。
「なるほどっすね」
「何とかなりそうですか?」
「たぶんっすけど」
「おぉっ」
流石プロ。
「1番良いのは普通の鍛冶場を作り直すっすけどね」
「普通の・・・」
「普通ってあんまり良いイメージ無いっすよね?」
「ま、まぁ・・・」
「でも、長い時間掛けて無駄を削ぎ落とした物が当たり前になって普通って呼ばれるんす」
「な、なるほど・・・」
つまり、素人が余計な口を挟んだ所為で不格好で歪な鍛冶場が出来上がったって事か・・・。
「でも、流石にまた1から建てるのは・・・」
「成功するか分からないすけど試してみて良いっすか?」
「そんな簡単に出来る事なんですか?」
「失敗したら失敗したで何とかなるんじゃないっすかね」
軽いな・・・。
「何するんですか?」
「穴空けようかと思うんすけど」
「穴っ!?どこにっ!?」
換気口を床近くにいくつか空けて熱の逃げ場を作る。但し、外からは空気以外の異物が入って来ない様に加工は必要らしい。
「どのくらいで出来そうですか?」
「そうっすねぇ。半日もあれば」
「そんな早いんっすね。じゃあ、お願いします」
やばい・・・口調が感染った。
「了解っす。じゃあ、工事は明日からで大丈夫っすか?」
「はい。お願いします」
職人さんが帰った後は来客も無く。1日中、鍛冶場に籠もって剣を打ち続けた。
「ん?」
あ、外がもう真っ暗だ。飯食ったのいつだ?
朝方に起きて、職人さんが来て、そのまま鍛冶場に入って今に至る。
飯も食ってないし水分補給した記憶も無いな・・・。
召喚者特典だろうけど成長速度が早い。普通に生活しているだけでも簡単に新しいスキルが発生するし既存のスキルはどんどん上がっていく。
そのおかげというか、その恩恵というか・・・まぁ、その所為でいい加減人間離れし過ぎてきている。
正確に何時間かは分からないが仮に12時間。この熱の籠もる鍛冶場で鎚を振るい続けたのにも関わらず大汗はかいていない。
当然、全身にしっとりと汗はかいているが、それは暑さや熱さからではなく鎚を全力で振り続けるという負荷の半端ない運動をし続けた所為であって室温は関係無い。
そろそろ火を落とさないと明日からの工事に差し障る。
そこに気付くと、急いで火を落として鍛冶場内に置かれている椅子やテーブルに道具何かも全部仕舞い込んだ。
そして、ドアを開けると床に降り積もった灰が舞い上がりながら外へと射出された。
「これはこれで一瞬で掃除出来て良いかも・・・」
そんな事を呟くと・・・。
「んな訳無ぇだろ」
「ん?あぁ、おっさんか」
良く見ると頭の先からつま先まで。身体の前面に灰が万遍なく付いていた。
「あ・・・すまん・・・」
「ずっと作業してっから心配して見に来てやったらこれだ」
「す、すまん・・・」
アイテムボックスからタオルを取り出して手渡した。
「これで・・・」
「おう」
外に出てタオルで顔を拭い、服を叩いて灰を落とす。
「で?」
「いや、すまん」
「違う。どうだって?」
「なにがだよ・・・」
「今日、来たんだろ?これどうにかなんのか?」
「あー、たぶん直るってさ」
「そうか」
「明日、工事してくれるって。しかも、半日くらいで済むらしい」
「ふむ」
「そしたら、もう灰を被らなくて済む様になんのか」
「悪かったって」
「ん」
許してくれたか。
「ん」
「ん?なに?」
「ん」
「なんだよ・・・」
「詫びは要るだろ」
「酒か・・・」
「当たり前だ」
「ほれ」
と、アイテムボックスから取り出したエールを渡してやると美味そうに一気に飲み干した。
それこそ、12時間ぶっ続けで鍛冶をし続けた後の1杯くらいの勢いで。




