216話 直撃
受け取りを渋るエーリッヒを説得し、何とか預かった荷物の大半を受け取る事を了承させた。
「っても、宿には入り切らないだろ?」
「おう」
「だから、旧鍛冶場の方に置いとくから。好きな時に出入りして持ってっていいぞ」
「開けっ放しにしとくのか?流石に危なくないか?」
「大した物無いからな」
「まぁ、砥石とか盗んでもな・・・」
「売っても金にならないからな」
更に言えば特殊な物しか無いから売れば確実に足が付く。
かといって、他の街や村まで輸送して売る程の価値は到底無い。
あるとすれば・・・同業者が盗むくらいか?
盗んで自分で使うならありかもしれないが、そんな手に職がある様なやつがこそ泥なんてする必要も無いだろう。そう考えるとやっぱりその線も薄い。
「盗まれて困るのはエーリッヒの物くらいだな」
「そ、そうじゃねぇか!俺の素材やら仕事道具盗まれたらどうすんだっ!」
「盗まれない内にさっさと持ってけ。要る物は宿に、要らない物はさっさと売っ払えよ」
「そうだな・・・そうすりゃ、多少は生活費の足しにもなるか」
「あ、そうだ」
「ん?」
「エーリッヒってフーバスタンクに行く用事とか無いか?」
「なんでだ?そういう依頼を受ければ行く機会もあるだろうが」
「だったら行く時は教えてくれ」
「構わねぇけど何だ?」
「俺が打った剣の輸送依頼だ」
「ふむ」
「まぁ、物は無いから直ぐって話でも無いんだけどな」
「先の話かよ」
「そうだな。1本だけ持ってってくれってのも効率悪いしな」
「そんな何十本もは無理だぞ?お前みたいにアイテムボックスなんて無いんだからよ」
「2-3本なら良いだろ?」
「そうだな」
「しかも、冒険者ギルドを挟まずに依頼するから依頼料総取りだ」
「直撃か」
「ん?」
「あぁ、隠語だな。ギルドを通さずに依頼を受ける事を直撃って言ったりする」
「へー」
「金が直接入るから直撃。まぁ、バレたら不味いんだけどな」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろ」
一時期、芸能界で問題になった闇営業みたいなもんか?
「まぁ、そんくらいならツレから頼まれたで通せるけどな」
「その直撃が不味いなら、指名依頼でも良いけどな」
「いや、直撃で良い」
「その方が金良いもんな」
「おう」
中間マージンってのはマジでデカいからな。
今日知ったばかりだけど調査員とかも居て、そんなにしっかり調査をしてるのなら全然安いんだろうけど・・・取られる方からしたらそんな事は関係無いしな。
「貯まったら言ってくれ。フーバスタンク経由で移動する依頼を受けるから」
「おう」
エーリッヒにフーバスタンクまで運んで貰い、シェリルさんからナエジに行って領主管轄の店とかで売って貰えれば俺が打った事はそう簡単にはバレないだろう。
そうと決まれば気の向くままに色々な剣を打っていこう。
「そういや、ギルド倉庫はもう使えないのか?」
「当分は無理だな」
「そうか」
「また1から実績作って・・・次に倉庫使わせて貰える様になるのはいつの事になるやら・・・」
「この2年で今までの実績も吹っ飛んだか」
「だなぁ」
「エレノアの為にやった事なのにな」
「あー、それは言うな。そこを言い訳にしたら格好悪ぃ」
「すまん・・・」
そうだな。
そう考えると俺なんかよりもエーリッヒの方が被害を受けてるんだな。
エレノアに手を出そうとした貴族をボコって2年も逃亡生活を送るハメになった。
そして、その2年間の不在の間に得意先を取られ、雑な仕事をした所為で頭を下げて回っている。
まぁ、頭を下げて回ってるのは2年前に挨拶も無く消えたからって方が大きいだろうが・・・っても、その原因もエレノア絡みだから相性が悪いのかもしれない。風水とかそんな感じのやつ的に。
「基本的にこれからは鍛冶ばっかやってると思うから」
「ふむ」
「暇な時は顔出せよ。飯くらいは食わせてやる」
「微妙に助かるな」
「んで、そのついでに荷物持ってくなり、輸送依頼出すなりあるからな」
「んじゃ、毎日飯食いに来るか」
「毎日はやめろ。長旅でお前の顔は見飽きてんだからな」
「それはこっちもだ」
そう。
それは完全にお互い様だ。
ただ、旅の間の生活費は俺が出してたんだからお前はもっと感謝しろ。
「じゃあ、来たついでだ。何か食わしてくれ」
深い溜息をグッと飲み込み。少し早い夕食を振る舞った。
そして、エーリッヒは深夜に千鳥足で帰っていった。
見飽きた顔ではあったが楽しかった。が、疲れもした。
この鍛冶の出来無かった2年の間、色々と試してみたいアイディアは大量に溜まり続ける一方だった。
それを明日から少しずつ再現する為に今日の所は大人しくベッドへと滑り込んだ。




