212話 世の理お断り
新鍛冶場の建築に来てくれている職人さん達には前回同様に色々と差し入れをしている。
そして、夜は夜で飲みに連れて行ったりもしている。
「言っただろ?」
「マジだったんだな」
「何がですか?」
「いやぁ、前にあの家建てた時に毎日差し入れがあって。夜には飲みに連れてってくれて最高の現場だったって話てたんですよ」
「あぁ、なるほど。それくらいで良い物を作ってくれるなら逆に安いもんでしょ」
「昔はそういう人も居たんですけど、今はもぉ~全っっっっっ然居ないんですよっ」
懐古厨というと失礼か・・・でも、時代の流れと共に色々変わっていってしまうのは仕方の無い事だよな。寂しくはあるが。
「今どきは現場に顔出す客もあんま居ないですからね」
「へぇ~、気にならないんですかね?」
「来ても最初と最後だけとかですね。ご祝儀も無し」
「あー・・・ご祝儀は配らせて頂きます・・・」
「あ・・・催促しちゃいましたね」
「わざとだろバカが。コイツには要らないですからね」
「はぁ?俺が無しなら皆無しで良いですからね?」
飲みの席だから許される会話だろう。
こんな話を親方・・・今回の総監督に聞かれたらゲンコツが何発飛ぶ事やら。
ゲンコツと説教を喰らうベテラン達・・・ちょっと見てみたくはある。
夜遅くまで職人さん達を連れて飲み歩き、朝方帰ってベッドに入る。
なので起きて来るのは昼過ぎになる。それが世の理のはずだが・・・職人さん達は朝方まで飲み歩き、何故か朝からしっかり働いている。
俺が朝に顔を出せなくなるとマーシーさんが朝の差し入れをしてくれる様になり。俺は3時のおやつ担当になった。
そんな日々が続いて俺の体力は限界を迎えそうになった。そんなタイミングで新鍛冶場は完成した。
一月掛かるという話だったが3週間程で出来上がった。一月でもかなり早いと思うが差し入れや飲みでモチベーションが高いまま維持されたからと言っていたが人知を超えた早さ・・・いや、速さな気がする。
「っても、早いからって雑には作ってないからな?」
「それは分かりますよ。信用してますし」
職人さん全員に御祝儀を配り、打ち上げに全員を飲みに誘ったのだが断られてしまった。全員に・・・。
「すまんな。ここに来る為に受けてた仕事放っぽって来てたりするヤツも居てな」
「そうなんですかっ?」
「俺もこの後も仕事が詰まってる。みっちりとな・・・」
「ご、ご愁傷さまです・・・」
「いや、でも楽しかった」
「そうなんですか?」
「普段、一緒にやらんヤツらとやれて刺激にもなったしな」
「あー、元お弟子さんとかも居ましたしね」
「だな。成長してんのかしてないのか微妙なトコだったがな」
「いやぁ、良い鍛冶場を作って貰えましたよ」
「おう、中々に満足のいく出来だ。また何かあったら呼んでくれや」
「はい」
炉は試運転も済ませて、いつでも鍛冶を始められる。
「あ?何か増えてねぇか?」
「ん?あぁ、エーリッヒか。何か久しぶりだな」
「おう、さっき帰ったトコだ」
「あー、依頼で出てたのか」
「その前段階だよ」
「ん?」
「前の得意先に挨拶回りしてた」
「へー」
「ひたすら頭下げて叱られる為の挨拶回りだぞ?」
「そう聞くと地獄だな・・・」
まぁ、いきなりエーリッヒが消えて仕事が立ち行かなくなったりはしなかっただろうが迷惑を被ったのは確かだろう。
そりゃ、小言の1つや2つは言いたくなるだろうな。
「で、今後も仕事は回して貰えそうなのか?」
「そうだな」
「何か、エレノアがエーリッヒの後釜に収まってたっぽい話を聞いたんだけど」
「あー、それも頭を下げた原因の1つだな・・・」
「ん?何かやらかしてたのか?」
「んー、まぁ、なんだ・・・確かに基礎の基礎みたいな事は教えたし一緒に依頼を受けた事もあった」
「うん」
「だから弟子を名乗るのは良い。でも、それで俺の名前を使って仕事をするのも・・・まぁ、良いとする」
「うん」
「だが、それで半端な仕事をするのは流石にな・・・」
「あー・・・やっちゃったか」
「その尻拭いも含めて、しばらく必要経費のみで依頼を受けないといけなくなっちまった・・・」
「それは・・・どんまい・・・」
あちこちでやらかしてるな。
ってなると、オーパスポーカスでやっていけなくなりそうな気も・・・。
「で、今度は何始める気だ?」
「あー、いや、この家エレノアに貸してたみたいなんだけどさ?」
「おう」
「鍛冶場が傷んで使えなくなってたから建て直した」
「羽振り良すぎだろ」
「いや、ジョーさんがかなり怒ってて。全額エレノアに請求するって」
「無理だろ。ガチで金無いっぽいぞ?」
「払えないだろうから借金させるらしい」
「終わったな」
「え?」
借金を抱えた冒険者は冒険者稼業が終わりだそうだ。
借金を返す為に無理をして怪我をする。怪我が治るまで稼ぎが無くなり借金は更に増える。
その負の循環に陥った冒険者を何人も見てきたらしい・・・。




