207話 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
厩舎を後にして母屋へと向かった。
「あっ、ミトさんおかえりなさい」
「マーシーさん、ただいまです」
「大変だったでしょう?」
「それはもう・・・」
「大した物はありませんけどミトさんのお好きそうな料理を作りましたので」
「おぉー」
家に上がりリビングに向かうと・・・。
「!?」
子供が居る。
あ、ジャコ君か・・・イメージが幼児なまま止まって居るがこの時期の子供の成長は凄まじく早い。
2年振りに見たジャコ君は幼児から完全な子供になっていた。
「ご挨拶なさい」
「・・・・・・」
俺の姿を見るや否やマーシーさんの後ろに隠れてしまった。
「こんにちわ~」
まぁ、覚えてないよな。
「・・・・・・」
「すみません、人見知りが激しくて」
「いやぁ、大きくなりましたね。驚きました」
「そうですね。ミトさんが居なくなってから2年も経ちましたし」
「立ち話も難ですから掛けてください。マーシーは料理をお願い。ジャコは俺が見てるから」
「はぁい」
そして、見る見るうちにテーブルの上をマーシーさんお手製の料理が埋め尽くしていく。
「何があったか聞かせて頂けますか?」
冒険者ギルドを出た所で足元に魔法陣が現れて遠く離れた国に召喚された事を包み隠さず話した。
「そんな事が本当にあるんですか・・・?」
「信じられない話かもしれないですけど本当ですね」
帰りがけにエーリッヒを拾った話。ズタボロで見るに耐えなかった話。商人としての才能がありそうな話。
そんな話をしていると料理も出揃った。
「では、そろそろ始めましょうか」
「おっさんは待たなくて良いんですか?」
「アレは別に放っといて大丈夫でしょう」
アレ呼びか。
まぁ、俺も人の親をおっさん呼びしてるのも正直どうかとは思う。
今更止めるつもりもないが。
「それじゃあ、ミトさん音頭を」
「え?あー、そうですね・・・色々ありましたがまた帰って来る事が出来ました。これからもまたよろしくお願いします。かんぱー・・・」
「何、勝手に始めようとしてんだっ」
振り返ると、そこにはおっさんとエーリッヒが居た。
「俺も呼べよっ」
それは確かにそう・・・。
「すまん」
おっさんはさて置きエーリッヒは呼ぶべきだった。
「エレノアにも声掛けたからもう直に来るぞ」
そうか、エレノアの事も忘れてた。
「まだ引っ越しが済んでないらしくてな。必死に往復してたぞ」
「まだ終わってなかったのか・・・」
依頼で出払っていて引っ越しする時間が無かったのかもしれない。
1週間の猶予といってもエレノアの4人がその事を知ったのはもしかしたら昨日だったかもしれないから。
「早くやるようにと言っていたのですが・・・」
「なるほど」
うん。後回しにしてただけか。
エレノアの到着は待たず、俺とエーリッヒにおっさん一家の6人で宴会が始まった。
「で、土産の酒ってのはいつになったら貰えんだ?」
「これだ」
「ほう」
「バーボンって酒なんだけど」
「バーボンっつーとアレかトウモロコシの」
「知ってたか」
「昔、1回飲んだがそこまで美味いモンじゃなかったな」
「それって透明だったか?」
「透明だな」
「それは熟成させてないやつだな」
「ほう」
「熟成させると格段に味が良くなる」
「今、渡したのが3年物だ」
「よし、飲むぞ」
そして、熟成無し、3年物、10年物と試していった。
「なるほどな。セラー作って良かったわ」
「ん?」
「熟成させる価値を実感してる」
「そんなにか」
「こんだけ味が違うなら価値はあんだろ」
「でも、熟成させてる間は飲めないんだぞ?」
「!?」
「っても、あんだけあれば飲みまくっても早々無くならないか」
「悩むな・・・」
「ん?」
「今日よりも明日の方が美味いなら今日は我慢すべきかもしれんが・・・思い立ったが吉日」
「座右の銘か?」
「そうだ」
確かに・・・今日よりも明日、明日よりも明後日。1年後よりも2年後となると飲むタイミングが分からなくなる。
「だったら、前もって開封日を決めておいて。樽にその開ける日を書いておく。とかな」
「それもアリだな」
確か、泡盛は甕に入れて熟成するけど。飲んだりして減った分を追加しても良いルールだった気がするけど・・・おっさんがそのルールでやると数日後にはその甕の中身は全て入れ替わってテセウスの船状態になりそうだ。
「でも、気にせず飲む!」
「え?」
「細かい事に気ぃ使って飲んでも美味くないだろ」
「まぁ、確かに?」
あの半地下に作られたセラー。あそこに所狭しと並べられた酒樽がどのくらいのペースでなくなるのか。
それはそれで楽しみではある。
肝臓を筆頭に身体には気を使って。身体を壊さない程度に楽しんでくれ。
俺からはそうとしか言えない。




