194話 昼
オーパスポーカスに帰るなりマリリンさんに契約終了の旨を伝えると、おっさんの言う慣例も昔はあったが今ではほぼ廃れているとの事で次の1本だけで構わないとの事だった。
「で、依頼は何だったんだ?」
「普通のロングソード。切れ味よりも丈夫でぶっ叩く感じのらしい」
「どう打つんだ?」
「んー、固すぎると折れるかもしれないから。気持ち柔らかくしなりはしないけど粘りがある感じに打つかな」
「ほー、そんな事出来んのか」
「分からん」
「なんだそりゃ」
「そう思ってるだけで出来るかはまた別の話だ」
「まぁ、打つ時は教えてくれ。そんな面白そうなのどうやって打つか見たい」
「分かった。ってか、明日打つ」
「朝からか?」
「分からん。起きてからだ」
「お前は起きてくる時間まちまちだからな・・・」
「昼までにはやり始める」
「待て」
「ん?」
「俺が来るまで勝手に始めんな」
「なんでだよ」
「それが嫌なら時間を決めろ」
「んじゃ、昼からで・・・」
「お前は気が向いたからとかで夜中にやり始めたり朝方から始めたり読めねぇんだよ」
「それは・・・否定出来無いな」
「昼からだぞ?んで、俺が来るまで始めんなよ?」
「分かった、分かった。そこまで言うなら手伝ってくれんだよな?」
「それくらい構わんが・・・」
「よし。んじゃ、打ち終わったら飲みは奢る」
「契約成立だな!」
「おっけー」
安く労働力を得た。
ん?いや、安くは無いか。このおっさんはバカ程飲むからな・・・。
でも、気を使わずに助手を任せられるし、知識も経験も俺では足元にも及ばないような人だから酒を奢るだけで顎で使えると考えたらめちゃくちゃ安上がりではある。
「どこまで送れば良い?」
「ん?お前ん家までだろ」
「送ってくって」
「馬はウチで面倒見てんだからお前を降ろしてから俺が連れて帰った方が効率良いだろ」
「あ、確かに・・・」
そして、家の前で馬車やら馬具をアイテムボックスに収納した。
「それじゃ、お疲れさん」
「昼だぞ?」
「分かってるって」
おっさんを見送ってからジョーさんとマーシーさんへのお土産を渡せば良かったと後悔し。おっさんが爆買いした大量の樽に入った酒も預かったままだと思い出した。
「ま、今度で良いか」
楽な格好に着替えて寝室に向かい、ベッドに横になり思う。
フーバスタンクの屋敷は洗濯や掃除といった家事も全てやって貰える。
楽ではあるが人の気配が常にあって落ち着かないし無駄に広いのも落ち着かない。
この普通の家ですら1人では持て余すのだから、それも当然な話だ。
でも、住み慣れたこの家はやっぱり落ち着く。
そんな事を考えながら寛いでいるといつの間にか眠りに落ちていた。
そして、目が覚めたのは真夜中だった。
用を足したついでに鍛冶場へと向かい欠伸を噛み殺しながら炉に火を入れる。
「あ・・・」
そうだ、おっさんと約束したんだった・・・。
時すでに遅し。頭も起きてきて、その事に気付いた時には炉の熱はそれなりの温度になっていて今更後には引けなくなっていた。
「依頼のロングソードを打たなければ良いだけの話だ・・・」
「んな訳無ぇだろ」
「!?」
「お前ん中での昼ってのはこんな真っ暗なのか?」
「いや、それは、あの・・・」
「打つのは昼。それも、俺が来るのを待つって約束だったよな?」
「ま、まだ打ってないっ」
「みみっちぃ言い訳すんな」
「す、すまん・・・」
普通に怒られた。
「で?なんでこんな時間にこんなトコに居んだ?」
それはこっちのセリフでもあるけど・・・このおっさんの事だから普通に飲んだ帰りだろうな。
「いや、さっき起きて寝ぼけたまんま炉に火入れてた」
「危ねぇなぁ。何してんだ?お前は」
「ごもっともです・・・」
「んで、今から打つのか?」
「どうしよっか?おっさんも居る事だし打とうかな」
「30分だけ待て」
「え?うん」
「まず、水くれ」
「え?おう。ほれ」
容量500mlくらいのコップに入れた水を受け取ると一気に飲み干した。
「ふぅ・・・寝る。30分経ったら起こせ」
「お、おう」
おっさんは鍛冶場の粗末な椅子を部屋の端まで移動させ。椅子に浅く座り腕と足を組み目を瞑った。
炉に火を入れたのはさっきなので温度が上がるまでは時間が掛かる。
おっさんを起こさない様、極力音を立てない様に鍛冶の準備を進めた。
「そろそろ30分経ったか?起こすか」
「もう起きてる」
「!?」
「準備は?」
「いつ起きたんだよ」
「今だ、今。準備は?」
「済んでる」
「よし、ならやるか」
「ここに水置いとくから適当に飲んでくれ」
「おう」
そうして、真夜中からロングソードを打ち始めた。




