191話 逃亡
ウェインさんの鍛冶場に入ると・・・既にもう懐かしい熱気が充満している。
「さっきも言ったがお客さんだ。見学するだけだが格好付けて良い所見せようとか考えるなよ。普段通りにやれ。分かったな」
と、ウェインさんが5人程居る従業員に声を掛けた。
「さ。お前はゆっくり見学させて貰え」
「おう。おっさんは?」
「俺は向こうでウェインと迎え酒でもしとく」
「いやいや、俺は普通に仕事するが?」
「だったら俺は誰と飲めば良いんだよ」
「1人で勝手に飲んでろ」
ブツブツと文句を言っているおっさんは放置して鍛冶仕事を後ろから見物させて貰う。
火の温度が低い。これだと鉄に十分に熱が入らない。
しかも、まだ鉄の温度が上がり切る前に取り出してハンマーで叩いているが効率が悪いし、温度がかなり下がってもまだしつこく叩いている。
更に言えば叩く角度も悪い。それだと中心部まで通らない。
ふむ・・・まぁ、見習いの子とかなら仕方ないか。
と、思っていたらこの鍛冶場のトップだった・・・。
ウェインさんはこの鍛冶場の親方ではあるがほぼ引退状態で事務仕事の方がメインになっているそうで、後ろから見て見習いだと思った人は実質上、この鍛冶場のトップだった。
もしかしたら元貴族とかで権力にモノを言わせてそのポジションに居るのかもと思い、他の人の作業も見たがどんぐりの背比べで大差無かった。
「どうだ?勉強になったか?」
「お、おう・・・」
「外で涼みながら話すか」
「おう」
外に出るとようやく空が白み始めてて、本当に早い時間から仕事を始めている事に驚いた。
「どうだ?微妙だったろ?」
「微妙て・・・まぁ、微妙だったな」
「だろうな」
「この工房が微妙なのか?」
「いや?フーバスタンクでも上位らしい」
「フーバスタンクのレベルがずば抜けて低いとかは?」
「ない。逆に国でも高い方だな」
マジかよ・・・。
となると、俺が打った剣はもう既に国でもトップクラスの出来になっているって事か?
「知識とか経験では足元にも及ばんから」
「ん?」
「一概にお前の方が上だとは言えんが」
「お、おう。そりゃそうだろ・・・」
危ない・・・思いっ切り自惚れる所だった・・・。
「技術だけで言えばお前の方が上だろうな」
「そうか・・・」
「声のトーンと表情が釣り合ってないぞ?」
「え?」
「そのニヤケ面を隠せって言ってんだよ」
「ニ、ニヤけてねぇしっ」
くそう・・・おっさんに褒められたのが純粋に嬉しい。
おっさんに褒められて嬉しいとか負けた気分だ。
「どうした?もう満足したか?」
ウェインさんが俺達を見つけて駆け寄って来た。
「い、いや・・・あの屋敷の主人って事は貴族様なんだよな?いや、なんですよね?」
「あー、あのお屋敷は貰い物で」
「あんな豪邸を?一体、どなたから下賜されたのでしょうか・・・?」
「いや、俺はそんな畏まられる様な身分じゃないんでっ」
授爵してるからなんちゃってではあるけど一応は貴族ではある。
でも、そんな事を言うとややこしくなるし、変な態度を取られる方が面倒臭い。
「この酒浸りのおっさんのツレがそんな偉い人だと思います?」
「それもそうか・・・で、参考になったか?」
「そうですね・・・勉強になりました」
「まぁ、最初はあんまり無理すんなよ?熱さに慣れる事から始めるこった」
「は、はい」
「よし、んじゃ行くか」
「お?もう良いのか?」
「あ、おっさん。ありがとうございました、勉強になりました」
「お、おう」
「おい、待てって」
何故か急ぐ様に歩き出したおっさんを小走りで追い掛ける。
「待てって」
「・・・・・・」
「いきなり何だよ・・・」
「振り返るなよ?」
「ん?おう」
「そのまま歩き続けるんだぞ?」
「分かったって」
「元嫁が居た」
「!?」
「おまっ!振り返んなって」
「なんだよ。会ってけば良いだろ」
「どの面下げて会えっつーんだ」
「どの面もそのしみったれた面以外無いだろ」
「誰の面がっ」
「元奥さんはまだしも、息子にも会わないで帰るやつの面なんてしみったれてるに決まってるだろ」
「ん?ジョイか?ジョイなら会ったぞ?」
「あれ?会ったのかよ」
「おう、昨夜一緒に飲んだ」
「だったら奥さんも会えるだろ」
「お前も結婚した事は無くても彼女くらいなら居た事あるだろ?」
「まぁ、そりゃあ」
「元カノと会うの気不味く無ぇか?」
「まぁ、気不味いな」
「しかも、その元カノの現彼氏がツレだぞ?」
「お、おう・・・」
「どうだ?」
「想像すると中々に気不味かった」
そう考えるとウェインさんと会う事もかなり気不味い。
各々と1対1で会うだけならまだしも他の人の目がある所で会うのはかなりの苦痛かもしれない。
と、考えると・・・よく連れて来てくれたな。




