190話 ナンパ
おっさん達の宴会に巻き込まれないように避難した飲み屋でダラダラと1人飲みをしていると。
「ここ良いかな?」
と、テーブル席に1人で座っていると許可を取ると同時に向かいに腰を下ろす人物が居た。
「あー、はい」
まだ良いとも何とも言ってないのに面倒そうなら次の店に行くか。と、考えていると・・・ニヤニヤと片肘を付きながらこっちを見て来る。
「なんですか?」
「久しぶりだね」
「へ?男相手に古臭いナンパか?」
恰幅の良い胡散臭い小金は持ってそうな・・・詐欺師感満載の男は相手せずに帰ろうと腰を上げかけた時。
「何年前になるかな?1回目は乗合で一緒になって」
「ん?」
「2回目は野営地で迷惑掛けたんだけど覚えてないかな?」
「あれ?あ・・・」
「思い出した?」
「いや、記憶の中のイメージと・・・」
「あー、冒険者辞めちゃった所為で太っちゃったからねぇ」
「でも、良く分かりましたね・・・」
「君は全然変わってないよね」
「まぁ、そうですかね」
「今は何してるの?フーバスタンクには商売で?いつまで居る予定?」
早い早い。テンポが早すぎるっ。
「最近、鍛冶の真似事を始めて。知り合いの伝手で鍛冶場を見学させて貰いに来たんですよ」
「へぇ~、君なら良い物を打ちそうだけど始めたばっかりかぁ」
「ですね」
「今、作品はあったり?」
「しないですね」
「そっか。それじゃあ、これ」
「?」
「前にも渡したけど僕の連絡先」
「あ、はい・・・」
「フーバスタンクにも支店がるから」
「あー、はい」
「それ見せたら適正価格以上で買い取って貰えるはずだから」
「そうなんですね」
「卸先が無かったら遠慮せずに使ってくれて良いからね」
「ありがとうございます」
そうして、エールを1杯だけ飲んで去っていった。
前に会ったのは10年近くも前だと思うが、商売っ気を出しつつもあっさりとしていて嫌らしさを感じさせない引き際の良さから以前会った時の様子が鮮明に思い出された。
そして、考えてみればこれで会うのも3度目になる。
会おうと思った訳では無く自然と3度も全然別の場所で会ったのだからこれは縁なのかもしれない。
そう考えれば剣の卸先にしても良いのかもしれない。
いや、それだとセバスチャンさんに対して不義理ではあるか・・・。
と、考えるならポーションでも卸しても良いかもしれない。材料さえあれば手間は掛からないし。
そんな事を考えながら飲み屋を後にして屋敷に帰ると宴会は終了している様で静まり返っていた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。どうなりました?」
「2次会に向かわれました」
「あー・・・」
「そして、ご友人のお宅に泊まられるそうです」
「なるほど。それじゃあ、今日は俺ももう休むんで」
「畏まりました」
翌朝。
まだ陽も昇らない、まだまだ真っ暗な・・・それってまだ夜って事だよな?って時間に起こされた。
「なんだよ?こんな時間に・・・」
「行くぞ」
「どこに・・・」
「どこにってお前はここに何しに来たんだ?」
想定外の時間に叩き起こされ、まだ頭も身体も起きていないのに相変わらずおっさんは言葉が足りなさすぎて要領を得ない。
「鍛冶、見に来たんだろ?」
「こんな時間から・・・?」
「当たり前だろ?」
農家とか漁師とかじゃないんだからこんな暗い内から始める理由なんて無いだろ・・・。
「いいからさっさと起きろ」
「分かった・・・分かったから離れろ」
酒臭い。
寝起きに酒臭いおっさんの顔を至近距離で見せつけられるとか、それ何て拷問だよ・・・。
文字通り叩き起こされ首根っこを引っ掴まれ引き摺られて鍛冶場が密集するというエリアに来た。
「本当にこんな暗い内からやってるんだな」
ロウソクやランプといった弱い灯りでは無く、炉から出る圧倒的な光量が漏れている。
そして、炉を燃やす匂いに離れていても漂う熱気。それからハンマーを振るう金属音がそこかしこから木霊していた。
「なんだ?信じてなかったのか?」
「おう。おっさんの言う事は話半分に聞いてる」
「お前・・・正解だ」
「ツッコめよ」
「なんでだよ。なんでもかんでも鵜呑みにするバカには教える価値も無いだろ」
「それは・・・素直って言うんじゃないのか?」
「自分で考える事を放棄したヤツは何教えても上手くならん」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
正直、おっさんが胡散臭すぎるし、アテにしすぎると痛い目見そうだから話半分に聞いてるだけなんだけど・・・。
「お?来たな。ここだ、ここ」
昨日のウェインさんが鍛冶場の外で涼みながらタバコ休憩を取っていた。
「よぉ。さっき振りだな」
「おはようございます」
「おはよーさん。さっきも言ったが特別な事は出来無いぞ?」
「いい、いい。コイツに見せたいだけだから」
「じゃ、入れ」
と、ウェインさんの鍛冶場にお邪魔させて貰う事になった。




