19話 呼び出し
「おばちゃん、同じのおかわり」
「あいよー」
予想通りというか、獣人の国を目指すという目的は余裕で見失ってこの街で滞在し続けていた。
そして、今日も今日とていつもの居酒屋に入り浸っている。
「トリアエズナマ」
「あいよー」
とある異世界にある、とある居酒屋っぽい飲み物が注文されている。
勿論、それはラガービールってやつなんだが・・・。
この居酒屋はおばちゃんが1人で切り盛りしているので例の店ではない。
聞いた所によると、この街の領主様がどうにも転生者か転移者っぽい。
武功を立てて領地と爵位を与えられ・・・って、古傷が痛む・・・。
まぁ、俺の話は置いといて・・・。
叙爵してこの街の領主になり現代知識チートで内政無双を行ったようだ。
それが、先代の話。
既に亡くなっているそうだ。
今は息子が領主をやっているが有能な先代と比べて現状維持しか出来ない地味で無能な領主という評価をされている。
現状維持出来れば万々歳だと思うし、チーターと比べられて同情してしまう
そんな訳で、この街は日本ゆかりの物が多い。
接客が良いのも日本風な食べ物があったり味付けが日本風なのも前領主の政策によるものだったようだ。
関心したのは大抵の国で入国税や人頭税がある。街に入る時にも掛かったり、村でさえ取る所もある。
場合によっては荷物の大きさや価値で課税されたりもする。
それがこの街では一切の税を廃止している。
税を廃止する事で人が集まり物も集まる。物流の中継地点にもなる。
元の世界で言えば、ドバイがそんな事をやって成功していたはずだが実際どうやって儲けているのかは理解出来ていない。
まぁ、そんな政治的な話は置いといて・・・。
先代が生きていれば話してみたかったが息子であれば興味はない。
ただ、この街の居心地は最高に良いので先代にも今の領主様にも感謝感激雨あられだ。
宿は1週間ほどで別の宿に変えた。
不満があったからではなく、値段を少し上げるとどうなるのかが気になって変えてみたが・・・やはり値段相応。
家具や寝具も少し良くなり、食事や接客の質も上がった。
そして、セキュリティが桁違いに上がった。
今日も昼間からいつもの居酒屋にでも行こうかと思っていたタイミングで部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい?」
「ミト様のお部屋でお間違いございませんか?」
「あ、はい。そうです」
「書状をお預かりしております」
「はい?」
「こちらになります」
「あ、はい。ご苦労さまです」
「では、失礼致します」
書状?この街では居酒屋に入り浸ってる以外の事はしてないはずなんだけど?
あ、ちなみにこの街に来てからはミトと名乗っている。シ「ミ」ズ「ト」オルだ。
ベッドに腰掛け、受け取った手紙を見ると・・・豪奢な作りに封蝋までされている。
この印璽は・・・分かる訳なかった。
誰からの手紙かは分からないが偉い人なのは確定だ。
意を決して封を切り、中の手紙を取り出した。
「領主様かよぉ・・・」
内容はお呼び出しなんだが・・・どうも素性がバレているようだった。
どうしたものか。
逃げるべきか?何とか断る方法はないか?
と、悩んだが日本出身がバレてるという事は俺の事は調べ尽くされていると考えた方が良い。
逃げられないなら開き直って行くしかない。
という訳で、そのまま領主のお屋敷に向かった。
門の前に守衛が居るので話掛ける。
「すまん」
「なんだ?」
「領主様から呼ばれたんだが」
「貴様が・・・?」
「そうだよ」
値踏みする様な失礼な視線がウザい。
「ほら、これ」
と、手紙を取り出すと手のひらが高速でひっくり返った。
「も、も、も、申し訳ございませんっ。少々、お待ち下さいっ!」
「おーい」
「は、はいっ!」
「これ持ってかなくて良いのか?」
「あっ、す、すいません。お預かりさせて頂きますっ」
と、手紙を受け取ると忙しなく走っていった。
しばらくすると執事っぽい人がゆっくりこっちにやって来た。
「お呼び立て申し訳ございません。少しお待ち頂く事になりますが宜しいでしょうか?」
「来て直ぐに会えるとは思ってないですよ」
こんなのは呼び出されたとしても、行ってから数日待たされる事も多々あるというかそれが普通だ。
たまたま時間が空いてて会えるとしても数時間単位で待たされるのは覚悟している。
執事さんの案内でお屋敷に入り応接室の様な部屋に通された。
「掛けてお待ち下さい」
これも罠だったりする。
座ってて良いと言われてても座ってたら怒られたりする。
とは言え、数時間立ちっぱというのも辛い。
そんな事を考えながら調度品を眺めているとドアがノックされた。
「失礼致します。これから参られます」
「あ、はい」
30分も経ってないと思う。ここの領主様は暇なのか・・・?




