186話 ツレ
フルーツサンドとパンケーキを振る舞ってから数日が経った。
「やってくれたな」
「何がだよ」
「あれ以降、毎日毎食パンだ」
「米農家なのにな」
「お前、笑いごっちゃ無ぇぞ・・・はぁ~、まぁ、良い・・・それでな?」
「うん?」
「前に言ってただろ」
「何を?」
「あー、いや、言ってなかったわ」
「どっちだよっ」
「お前、ちょっとフーバスタンクに行って来い」
「は?」
「向こうに居る知り合いに手紙書いてやる」
「ふむ」
「んで、向こうの鍛冶場をいくつか見させて貰え」
「こっちじゃダメなのか?」
「向こうのがレベルが高いからな」
「なるほど」
まぁ、向こうの家の様子も気になるからな。エレノアの4人も。
ただ・・・数年は会わないだろうと思ったエーリッヒと顔を合わせるのは少し気まずい。
「こないだのマン・ゴーシュもあるからな。しばらくはマリリンのトコの契約も問題無いだろ」
「え?そんな直ぐに行けって話なのか?」
「善は急げ。思い立ったが吉日。って言うだろ?」
「言うなぁ・・・」
なんでそんな言葉が共通なんだよ。
そのクセ通じない言い回しも絶妙にあるし・・・。
そして、その場でおっさんが手紙を書いてくれた。
「これは組合のヤツに見せろ」
「組合?」
「鍛冶師の組合だ」
「そんなのがあるのか」
ギルドだったり組合だったり農協だったりややこしい。
いや、農協は農業協同組合だから組合か。
あ、なるほど。
ギルドは国直系だったりする縦の繋がりに対して組合は個人事業主同士の横の繋がりっぽい感じなのかもしれない。
「いや?」
「違うのか」
「国だったり領主管轄で組合って名称の組織もあれば、逆もある」
「ややこし過ぎんだろっ」
「俺に言うな。俺が決めた訳じゃない」
それは確かにそう。
「鍛冶師の組合はどっちかっつーと後者だな」
「個人の繋がりか」
「農協もそうだが。モノ作りしてるヤツってのは国とか商売人ってのと相性が悪い」
「そうか?」
「カモにされるだけだからな」
「ふむ」
「国の管轄に入ろうもんなら奴隷みたいな扱いになる」
「ふむ」
それは流石に言い過ぎな気もするけど。農業従事者であるおっさんが言うんだから100%嘘って事も無いかもしれない。
「それに、金勘定出来無いヤツも多いからな」
「あー、それは分かる」
現代日本と比較する事自体がナンセンスかもしれないが。比べると識字率など教育が全く行き届いていないので簡単な足し算や引き算は出来ても2桁になると出来なかったり指を使って数えないといけない。そんな人が多いイメージではある。
更に、頑固な職人さんは儲ける為にやってる訳じゃないというプライドもあってか金儲け=悪という風潮も無きにしも非ずといった感じだ。
「商売人と職人は相性悪そうなのは確かだ」
「国やら貴族とも悪いぞ?」
「いや、そっちは本来なら農家とか職人は国が保護するべきなんだけどな」
「ほう?」
食料自給率の問題もある。
現代の輸入どうこうの問題ではなく、戦争の際に自国からどれだけ兵站を用意出来るかはかなり重要だし。災害時もそうだ。
職人に嫌われて他所の国に行かれてしまうのは技術の流出だし、自国の発展が遅れる要因にもなる。
まぁ、まだ文化レベル的にそこまでに至っていないのかもしれないが・・・。
「お前も経験しただろ?」
「ん?」
「貴族ってのはどうしようもないバカばっかだ」
「あー・・・」
「まぁ、マトモなのも居るには居るんだろうが。大半がバカだ」
「それは否定出来無い・・・」
「如何に贅沢をするか。如何に虚勢を張るか。如何にマウントを取るか。そんなんばっかだろ」
「それも否定出来無いな」
「お前の言うような感じになりゃあ俺ら農家は助かるが。数十年、数百年は掛かるんじゃねぇか?」
「かもなぁ・・・」
「話を戻すが」
「おう」
「ツレが組合に居るはずだから。ソイツにその手紙を見せりゃ何とかしてくれるはずだ」
「頼りないな」
「ん?」
「居るはず。してくれるはず」
「まぁ、もう何年も顔を突き合わせて無ぇからな。生きてるかも分からん」
「それを頼りに行くのかよ・・・」
「死んでたら普通に観光して土産でも買って来てくれや」
「死んでたらって・・・ツレなんだろ?」
「男友達ってのはそんなモンだろ?」
「そうか・・・?」
「お前だって、エーリッヒとそうじゃねぇのか?」
「そこまで薄情じゃねぇよ」
「でも、今生の別れかもしれんとは思ってるだろ?」
「それは思ってる」
「ほれ?それと大差無ぇよ」
「そうかぁ?」
さよならだけが人生だ。って、やつか?
まぁ、そんなこんなで鍛冶場を見学させて貰う為にまたフーバスタンクに行く事になった。




