185話 米農家
マーシーさんに新作のお菓子をお披露目する事になった。
ジョーさんは仕事で出ているそうで俺とおっさんとマーシーさんの3人で試食会だ。
「それじゃあ、まずは・・・」
パン。
本来はイースト菌で発酵させて膨らませるはずだが、やってみたら意外とそれっぽくなった。
「パンですか?」
「はい」
「米農家にパンを食わせようってか?」
「嫌なら食うな」
「て、敵情視察も大事だからな。うん」
折れんの早すぎだろ。
「おっさんに作って貰った石窯で焼いたパンだからな。しゃーなし食っていいぞ」
「まぁな。俺が作った石窯で焼いたパンなら俺も食うべきだよな」
食いたくて必死なおっさんは放置で良いか。
「とりあえず食べてみて下さい」
この世界のパンは基本的に固い。フランスパンやカイザーゼンメルが霞む程に固い。
科学的な添加物も無いので賞味期限を延ばす為には水分を減らしたり異様に酸っぱくしたりするなど方法が限られているので仕方の無い事だが。正直、あまり美味しくは無い。
「「えっ?」」
「柔らかいでしょ?」
まず小麦を精製しまくって真っ白にした。なのでこれは白パンってやつだ。
「でも、味も薄いし香りも弱いな」
確かに、全粒粉とかのパンに慣れていると弱く感じるかもしれない。
「柔らかくて食べやすいので私は好きです」
「そう!そこが大事なんですよ」
パンはお菓子では無い。
でも、こうする事でほぼお菓子にはなる。
「薄くスライスしたパンに生クリームを塗って。そこにカットした果物を乗せて挟めば」
フルーツサンド!
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「おい、俺の分は!?」
「要るのか?」
「要るに決まってんだろ」
「めんどくせぇ」
なんでこのおっさんは酒飲みのクセに甘い物もいけるんだよ・・・。
いや、それは俺もか。
「おい、他にも果物はあんのか?」
「ん?あるけど?」
「ならイチゴだイチゴ。俺のはイチゴにしてくれ」
「お、おう・・・」
マーシーさんに渡したフルーツサンドはオレンジとブドウだった。
理由は無い。本当になんとなくで選んだだけだがおっさんの方が色味と見栄え的に可愛くなったのはちょっと納得がいかない。
「普通のパンだと合わないですよね」
マーシーさんは目を爛々と輝かせながら無言で頷いている。
「中々だな」
「だろ?」
ねだって、イチゴのリクエストまでしておいて微妙に偉そうなおっさんにはイラっとくるが我慢だ。
「お次は」
そう。まだある。
「ホットケーキ。ん?いや、パンケーキか?」
「またパンか?」
「だから不満だったら食わなくて良いんだぞ?」
「・・・・・・」
黙りやがった。
「これに・・・こうっ!そして、更にこうっ!!」
焼き立てで熱々のパンケーキに大きい目のバターを乗せて、その上からハチミツをたっぷりと掛けた。
「ナイフとフォークでどうぞ」
「おい、俺には?」
「ちょっとくらい待てよ・・・」
2人共、特におっさんはナイフとフォークに慣れていないのかカチャカチャと音を立てながらパンケーキを頬張った。
「どうですか?」
「モソモソしてんな」
「おっさんには聞いて無ぇよ」
マーシーさんはまた無言でコクコクと頷いている。
が、フルーツサンドの時よりは反応が微妙っぽい。
「あー、生クリームも追加しますね」
と、マーシーさんのお皿に生クリームを盛り付けた。
「おい」
「なんだよ」
「ん」
「ん。じゃねぇよ。俺はおっさんの嫁さんじゃないんだからちゃんと言葉で言え」
「嫁さんよりお前の方が万倍察してくれるけどな」
「なんでおっさんとツーカーの仲にならなといけないんだよ」
「なんだそれ?」
それは通じないんかよっ。
「いや、いい。気にすんな」
「そんなのはどうでも良い。俺にもくれ」
大きな溜息と共におっさんの皿にも生クリームを落としてやった。
「あった方が美味いな」
マーシーさんがおっさんの方を向いて無言で頷きまくっている。
「これに合う酒って何がある?」
「パンケーキに酒?んー、ラムとか合うかな?」
「ほう」
「いや、無いぞ?」
「無いのかよ・・・」
そんな事よりも。
「今回はお菓子そのものじゃなくて。これをマーシーさんに紹介したくて」
「は、はいっ」
「これ、重曹って言うんですけど」
「は、はい」
「パンとかの生地に混ぜ込むとなんでか膨らむんですよ。で、フワフワになるんです」
「なるほど・・・」
「なので、これを進呈するので美味しいパンとかパンケーキとかを作って下さい」
「え?私がですか?」
「はい。それで、バランスの良い分量を教えて下さい」
試作品をいくらでも作れる様に重曹だけじゃなく小麦粉等の他の材料も大量に置いてきた。
なので、当分あの家での主食はパンになるだろう。米農家なのに。




