17話 元
何とか無事に山越えを果たし。馬の疲労を抜く為に麓で長めの休憩となった。
まずは御者さんの手伝いとして近くを流れる小川から水を汲んでくる。
これは自分の仕事だからと断られたが、自分の分を汲んでくるついでだからと引き受けた。
お馬様には労いの薄めたポーションを。その他のメンバーには果汁100%のジュースは少しクドいので加水した物を振る舞った。
実はポーションには依存性がある。
流通しているポーションの9割は依存性があるので使用する場合は気を付けなければならない。
ただ、それはレベルの低い錬金術師が作った練度の低いポーションに限った話で。俺が作った物には依存性は無い。
特に中毒症状が出やすいと言われているのがMPポーションだ。
MPが枯渇すると死にはしないが精神的に落ち込む。そこにMPポーションを飲んで回復すると、その落差に快楽を感じてしまうそうだ。
パチンコで負けが込んでから大当たりして大勝ちした時の脳汁ブッシャーに近いのかもしれない。
怪我をしてHPポーションで回復させた時はならないそうだが。怪我をしていない時に飲むと中毒になるそうだからモルヒネとか鎮痛作用のある薬と似た所があるのかもしれない。
解毒ポーションも同じで状態異常が無い時に飲むと中毒になる。二日酔いも状態異常に含まれる。
なので、お馬様にポーションを飲ませているが依存等の問題は無い。
あるとしたら御者さんがこの馬の能力を高く見積もってしまう可能性があるくらいか。
ほぼ等間隔に離れて休憩している皆にジュースを振る舞っていると・・・。
「もしかしてアイテムバッグでも持ってたりする?」
「あ、バレちゃいました?」
「そりゃ、カバンから果物が出てきたりコップが出てきたりしてたら誰でも気付くよ」
「まぁ、そこまでの容量じゃないんですけどね」
「それでも一財産だよ」
「ですねぇ」
勿論、嘘だ。
アイテムボックスを隠す為にアイテムバッグ(偽)を持っている。
それっぽく見える様に取り出しているだけで普通のバッグなので盗まれたとしても困らない。
「いくらで買ったとか聞いても良いかな?」
「あー、これは冒険者時代の師匠のお下がりなんで買った訳じゃないんですよ」
「なるほど」
当然、これも嘘だ。
師匠なんて居ない。ドキドキわくわく魔王討伐ツアーの時も監視役の騎士は着いて来てただけで何も教えてくれてはいない。
「僕も元冒険者だから分かるけど。かなり強いよね?」
「そんな事無いですよ。必死こいてCまでしか上がらなかった程度です」
「そうなの?もっと強そうに見えるんだけどなぁ」
「そんなに強そうに見えます?そろそろ俺も風格ってやつが出てきたかな?」
「ははっ、普通に足運びとか気配の消し方とかかな。Aランクって言われても驚かないね」
「冒険者からは足を洗ってるんですよ」
「そうなの?」
「やっぱり怖いじゃないですか。あぁ、狩りとかはしますよ?森に入って鳥とかウサギとか」
「ふーん」
「ところで」
「うん」
「冒険者の時のランクは?」
「僕?Aだよ」
「えっ?」
「Aだった僕が思ったんだよ?足元にも及ばないって」
「・・・・・・」
「他の人には内緒にしといた方が良いみたいだね」
「そうですね。お願いします」
まさかこんな乗合馬車に元Aランクの冒険者が居るなんて思わないじゃん・・・。
「ちなみに、なんで冒険者辞めたのか聞いても?」
「実家が商家でね。兄貴が継いだんだけどお前も手伝えって命令されて仕方なく?」
「そ、そんな簡単に辞めれるもんですか」
「いやぁ、仲間からもギルドからも引き止められたんだけどね」
「それはそうでしょうね」
「限界を感じてたのもあるし。さっき君も言ってたよね」
「ん?」
「怖くない?命のやり取りなんて」
「あぁ・・・」
「商人なら金を失ってもそう簡単に死ぬ事なんて無いからね」
「まぁ、冒険者ほどは命も軽くないでしょうね」
「そうそう。あまりにも命が軽すぎる」
「ですね」
「そういう所も向いてなかったんだろうね。本物の冒険者はそんな事気にもしないし気にした事なんて無いだろうからね」
「かもですね」
「君も気にした事なさそうに見えるけどね」
「いやいやいや、命が1番大事ですよ」
「その割に数え切れない程の死線を越えたんじゃ?」
「どうでしょうね?なるべく危ない橋は渡らない主義ですけど」
「そっか、なら僕とはやっぱりお仲間なのかもね」
「かもですね」
「ということで、今更だけど自己紹介なんかは」
「いやぁ、今回は見送りましょう」
「そう?」
「はい」
「気になりすぎて調べちゃうかもよ?」
「そこは個人の自由なんで止められませんよ」
「そっかぁ。じゃあ、これ」
「?」
「僕の連絡先。気が向いたら連絡欲しいかな」
「たぶん、しないですよ?」
「受け取って貰えればそれで良いよ」
「わかりました」
なにやら妙な縁が結ばれてしまった様な気がしないでもない・・・。




