16話 ドーピング
今、お世話になっている定期馬車は聞いて驚いたが国営だそうだ。
しっかりと冒険者パーティーによる護衛も付いていて安全だし。もし盗賊が間違ってこの馬車を襲おうものなら国を挙げての報復が待っている。
なので間違っても襲われる事は無い。
冒険者の護衛が居るのは対人ではなく野生動物だったり魔物への対策だ。
国営なので安心も出来るし安全ではあるが・・・その分、割高ではある。
高額な分、利用者は比較的裕福な客層になっている。
貴族ほどではなく、平民よりは金がある。
即ち、乗客の大半は商人だ。
自前の馬車で護衛を付けるよりも割安だそうだ。
乗合なので重量もある為、速度は遅くはなってしまうが安さと安全がこの値段で買えるなら。と、言う事らしい。
「へぇ~・・・、って、お騒がせしました」
商人というのは話し上手に聞き上手で。軽く挨拶のつもりが話を聞くのが楽しくて、周りを気にせずについつい盛り上がってしまった。
「いや、全然構わないよ。こんな乗合に居るのは大抵が商人だからね」
「そうそう。和気藹々と情報交換するか」
「ギスギスして一言も口を利かないかのどっちかだからね」
「君のおかげで空気が和らいで助かったよ」
「それなら良かったです」
ん?和らいだって事は・・・俺が乗るまではギスギスだったって事か。
でも、その言葉の通り。そこからは乗客達による情報交換が活発に行われた。
乗客を見回すと大きな背負子を抱えている人や手ぶらに近い程軽装な人も居る。
その事を尋ねるとアイテムボックス持ちという訳ではなく、急ぎの荷を持っているとの事だった。
であれば馬に跨がり1人で行った方が早いだろうと思ったが・・・そういう場合もあるがそこまでしなければならない程急ぎの配達は滅多に無いそうだ。
「それに、乗ってるだけで着くんだから人の馬車に乗るのが1番だよ」
との事だ。
「雇い主ならそうも言ってられないかもしれないけど、雇われなら移動中は働いてないのに給料が出てるようなもんだからね」
それはちょっと分かる。
自分で車を運転してる時は思わないけど、新幹線とかで長距離移動の時はその感覚に近いものがあった。
「今日はここまでだ。夜番はこちらでするが各々も気を付けるように」
と、まだ陽が傾く前での停車となり各々が野営の準備を始め出した。
護衛の冒険者が馬車の比較的近くに火を焚き。そこを中心として乗客たちが散り散りに野営の準備をしている。
野営と言っても人それぞれで簡易テントを張る人も居れば、何の準備もなく地べたに座り込んでいる人も居る。
1番忙しそうだったのは御者の人だ。馬具を外し水浴びをさせたりマッサージをしたりと忙しなく動き回っていた。
俺のおかげで空気が良くなったとは言って貰えたが異物感満載なのは否めない。
なので、お詫びの意味を込めて御者の人を含め乗客全員に1杯ずつ酒を振る舞った。
護衛に酒はNGなので護衛の人達には肉をプレゼントしておいた。
元々、アイテムボックスには食材も大量に入っているし調理済みの物も大量にある。
それこそ・・・税として国中から集められた小麦やらジャガイモやらがまるっと入っているので俺1人では一生掛けても食いきれないと思われる。
ちなみに、護衛に振る舞った肉は前の村で半月ほど滞在した時の暇潰しに狩った獣の肉だ。
調理してないから各々で好きに食ってくれ。
翌朝、まだ全然陽が昇る前に起こされたが・・・もう出発だそうだ。
理由は国境となる山を越えるのに時間が掛かるから。
昨日、比較的早くに停車した理由もそれで。
山越えの為に馬を長く休ませ、翌日は早く出発する。
それで何とかギリギリ越えられるそうだ。
当然、馬の体調や乗客の人数や荷物の重さによっては越えられない事もあるとか。
「で、今回はどうなんですかね?」
「人数的には少なめだし、荷物もそこまでじゃないから大丈夫だと思うけど」
「後は、お馬様の調子次第だろうな」
「それと天気もかな」
山の途中で休憩を挟むだろうから。その時にお馬様には水と薄めたポーションの差し入れでもしようかな。
昨夜は馬にだけ何もあげてなかったし。
ただ、天気だけはどうしようもないな。
「山の天気は変わり易いからなぁ」
「そこは祈るしかないですな」
何度かの休憩を挟みながら山道を進む。休憩の度に薄めたポーションを飲ませてやったおかげか途中でペースが落ちる事もなく無事に山を越える事が出来た。
ベテラン御者さんの見事なペース配分のおかげかもしれないが。
「見て下さい」
「ん?」
「山に真っ黒な雲が掛かっておりますよ」
頂上付近を覆う真っ黒な雲。きっとあの辺りは大雨が降っているに違いない。
「ギリギリ降られずに済みましたな」
山間部での雨は本当に危険だ。
雨で視野も足元も悪い中、無理に進めば事故の危険性も高まる。
かと言って、そこに留まっても土砂崩れがあるかもしれないし、鉄砲水が出るかもしれない。
まぁ、何にせよ・・・無事に越える事が出来たのはお馬様の頑張りのおかげだ。




