148話 敗因
作りたいイメージを固めたいから作業するのは明日からと言ったがあれは嘘だっ。
家に帰るとそのまま鍛冶場に直行して何も考えずに作業を開始してしまった。
炉に火を入れて温度が上がるのを待つ間にイメージを固めていく。
今回は鍔も柄も全て一体型で全て金属製の剣になる。
イメージとしては昔ゲームで見たツヴァイヘンダーって名前の剣だ。
依頼書には振り下ろしではなく横に薙ぎ払う様に使うと書いてあった。
遠心力を活かしてブチかます感じだろう。
となると・・・柄の最後に引っかかりを作った方が良いかもしれないな。
火の温度も上がり、鉄塊を炉に放り込み金床やハンマーの準備をしていく。
「おーい、おーい」
「!?」
「集中しすぎだろ」
「おっさんか。どうした?」
「もう仕上がりそうだな」
叩いていた剣を見ると確かにほぼ仕上がっていた。
後は削ったり研いだりして微調整をするだけで完成だ。
「今日はイメージ固めて。打つのは明日っつってなかったか?」
「そうだっけ・・・?」
「まぁ、いい。さっさと仕上げちまえ」
「お、おう・・・。で、どうしたんだ?」
「飲んだ帰りにお前の家の方見たら煙が出てたから。もしかしてって思ったら案の定打ってやがったって感じだ」
「今日も飲みに行ってたのか」
「毎日だからな」
「そ、そうか・・・」
「お前こそ、もしかしてずっとあの後からずっと打ってたのか?」
「たぶん?」
「はぁ~・・・片付けはやっといてやる。さっさと休め」
鍛冶場の外に引きずり出され強制的に休まされた。
「水も飲んどけよ?」
「おう」
色んな耐性スキルがあるから熱中症になったりはしないし脱水症状になったりもしないとは思う。
喉は乾くし腹も減る。酒を飲めば酔いもするし飲みすぎれば二日酔いにもなるけど耐性スキルが仕事をしてくれてるおかげで滅多な事では怪我もしないし風邪をひいたり病気になったりもしない。
「ぷはー」
とは言え、染み渡る。
「ちゃんと飲んで・・・って、酒だな?」
「なんで分かるんだよ」
「酒の事なら何でも分かる」
「おっさんも飲むか?」
「飲む」
さっきまで飲んでたのにまだ飲むのか。
「どうだった?」
「出来か?」
「うん」
「まぁ、良さそうじゃないか?」
「だよな?」
「自信アリか」
「そこそこ?」
狙った通りの質感に大体近付いた。
重さも指定通りだし長さもピッタリ。重心の位置も横薙ぎに振るう事を考えれば良い感じだし完璧とまでは言わないが狙い通りに仕上がった。
「っても、依頼したやつがどう思うかは別かもしれないけどな」
「名剣でもボンクラじゃ斬れんだろうしな」
「逆に剣豪ならナマクラでも斬るだろうな」
「使い手に寄せるもよし。自己満足を追求するもよし。ってトコじゃねぇか?」
「ケース・バイ・ケースだな」
そういや、完全に忘れてた・・・。
「この鉄ってさ?」
「おう?」
「値段は?予算の指定もあるんだけど考えずに打っちまった」
「鉄の塊の値段か?」
「うん」
「0だ」
「へ?」
「端材っつーか、ゴミをまとめて溶かして適当に固めただけの鉄くずだからな」
「マジかよ」
「あれ見た事無ぇか?インゴット」
「あー・・・あるな」
「買うってなったらあれで買うからな普通は」
「なるほど・・・」
それであんなにゴツゴツした鉄塊だったのか。
「ってか、インゴットからだったら伸ばすのも楽じゃね?」
「楽だろうな」
「くっそー、無駄に苦労してたのかよっ」
「でも、タダだぞ?」
「それは大きい」
「それに、練習にもなったろ?」
「なった」
「いい事尽くめじゃねぇか」
「納得はいかんけどな・・・」
まぁ、その練習云々は為になってるから良いとして。
「でも、どうなんだ?」
「なにがだ?」
「そんなくず鉄で打った剣を売って良いのか?」
「良いだろ」
「そうなのか?」
「寧ろ、不純物も少ないから質は良かったりするかもしれんぞ?」
「あー、なるほど」
鍛造で叩かれまくって不純物が叩き出された後の鉄だから叩く回数が少なく済んだとかもあるのか?
成形に手間取った分でトントンかもしれないが・・・であれば余分に叩きまくった分、質が上がってる可能性もあるな。
「明日にも完成しそうな勢いだけどな?」
「うん?」
「直ぐに納品するのは止めとけよ?」
「なんで?」
「そんなペースで作れるのがバレたら山のように仕事振られるぞ?」
「いや、まず受けないし。そんな量は」
「ふっ・・・」
「なんだよ・・・」
「商売人の口の巧さと根回し。受けざるを得ない状況に持ってかれるぞ?」
「マジで?」
「そんで、それを上回るお前のチョロさが敗因になるだろうな」
「うっせぇ」
敗因って何だ。敗因て・・・。
もう負けるの確定かよっ。




