14話 バニヤン
もうそろそろ行商の護衛としての旅も終わりが近い。
「こっからはどうするのー?」
「んー、とりあえず遠くに?」
「なにから逃げてるんだよ・・・」
「まぁ、色々?ってか、逃げてるって話たっけ?」
「実力のある元冒険者で知識も豊富。計算だって俺より出来るんだよ?」
「お、おう」
「そんなやつがひたすら遠くに。しかも目的も無いとか逃亡生活しかありえなくない?」
「そりゃそうか」
バレバレだったようだ。
「でも、そんなやつを護衛にするとか危ない橋渡るよなぁ」
「本当にヤバそうなやつだったら適当なタイミングで村の自警団にでも引き渡そうと思ってたんだよねー」
「マジかよっ」
「引き渡してないんだから安心しなよー」
「そんな事考えてた事にびっくりしてんだよ」
「ところで」
「うん?」
「懸賞金っていくらくらい?」
「言うかっ」
「えー」
「金額によっては売り渡す気満々じゃねぇか」
カラカラと笑う。
それが肯定の意味なのか冗談を言った笑いなのかは判断に困る。
良いやつなのは確かだが商人というのは金が絡むと信用出来ない。
コイツらは金を裏切らないから利になる方を取るという意味で。
「アイテムボックスの中どうすんだ?」
「どうしよっかー?」
ここに来るまでにいくつもの村を経由していて。その村々で毎回のように大量に買い付けているから荷台には到底乗り切らない量が俺のアイテムボックスに入っている。
「楽しかったし。色々、勉強させて貰ったからそのまま持ってってよ」
「は?」
「腐る物はもう無いはずだから時間掛けてゆっくり売ってけば良いんじゃない?」
「おいおい、それだと大赤字だろ」
「んー、ちょっと黒字だねー?」
「そうなのか?」
「アイテムボックスのおかげでかなり利益出させて貰ったからねー」
「こっちも楽しかったから買い取ってやるよ」
「ふっ・・・」
「買い取れないとでも思ってんのか?」
「結構するよ?」
「これで足りるか?」
と、想定の数倍の金額を渡してやった。
「いやいやいや、こんなにする訳無いじゃん」
「行商の勉強もさせて貰ったからなぁ。その勉強代も込みだ」
「良いの?」
「おう」
「そんな事されたらテツさんの情報売れないじゃーん」
「売る気だったんかよっ」
またカラカラと笑っている。
これは多分冗談だったっぽい。
「よし、そろそろ行こっかな」
「世話んなったな」
「こちらこそー」
「なんかあったら親父さんの店に言伝頼んどくわ」
「時間は掛かるけどそれだと確実に連絡付くからねー」
「おう」
「それじゃ、また」
「また」
結局、3ヶ月くらい行商に付き合った。
村から村へ移動を続ける旅は中々に楽しかったが腰とケツの辛さには慣れる事は無かった。
これが無ければまだ続けても良いと思える程には楽しかった。
でも、留まる事無く次から次へと移動し続けるのは3ヶ月が限界だったかもしれない。
俺はやっぱり一所でゆっくりと暮らしたい。
この村だったり、来た道を戻って通って来た村に滞在していれば定期的にマルコにも会う事が出来る。
ただ、街コンの場所からもそこまで離れていないから向こうが真剣に探せば足が付く可能性は十二分にある。
貴族から逃げているであろうあの女が俺の情報を売れる先があればという話ではあるが。
という訳で、残念ながらここで足を止める訳にはいかなかった。
「え?あんな村なんも無いぞ?何しに行くんだ?」
「村自体に用がある訳じゃなくて。あっち方向に行こうと思ってて」
「ふーん。何も無いぞ?ただの田舎だし」
ここも田舎で大差無いクセにどの口が言う・・・。
「じゃあ、そっちに向かう馬車とかは無い感じですか」
「んー、ポールに頼んでやろう」
「ポール?」
「ウチの村の木こりだ」
「へー」
「途中までにはなると思うが。それでも歩いて行くよりは楽だろ?」
「そうですね。お願いします」
しばらくして現れたのは2メートルを優に超えるであろう巨人。
「お前か?」
「あ、はい、多分そうです」
「明日の朝だ」
「え?」
「早いから遅れるな」
「あ、はい・・・」
その日はマルコの口利きで村長さんの家に泊めて貰えた。
コンコン───。
「え?はい・・・?」
「起きてましたか。ポールがそろそろ出発するそうですよ」
「えっ?」
と、飛び起きたが部屋の中は真っ暗だ。
窓から差し込む朝日なんてものは無く、ほのかに月明かりが覗いているだけだった。
「早すぎだろ・・・」
「木こりなもので」
「あ、そうですね・・・」
寝起きの所為か心の声が漏れていた。
急いで準備をして、村長さんに礼を言い村長さんの家を後にした。
「おはようございます。遅くなってすいませんっ」
「ん」
そのままポールは御者台に乗り、荷台を指差したかと思うとそのまま牛を歩かせだした。
あ、これ馬車じゃなく牛車だ。




