12話 HT
荷馬車に揺られながら他愛ない会話は続く。
「テツさんの故郷ってどんなトコ?」
そう。
今回からはテツと名乗る事にした。俺の下の名前、徹の音読みだ。
「んー?そうだなぁ、便利で楽で楽しくて死ぬ程忙しい」
「便利なのに忙しいの?」
「あー、それから食い物が美味い」
「それは良いなー。テツさん料理は?」
「出来ないなぁ」
「じゃあ、その美味しいっていう故郷の食べ物は?」
「当然、作れない」
「くっそー」
就職して実家を出てからは専らコンビニ飯とスーパーの惣菜に生かされていたので料理は出来ない。
「そういや」
「うん?」
「こんな田舎の村に宿なんてあんのか?」
「まぁ、無いね」
「無いんかよっ」
「あー、でも、村長ん家に泊まれるように手配するから安心して」
「飛び込みで2人も泊まって大丈夫なんか?」
「泊まるのはテツさんだけだよ?」
「は?」
「俺は別のトコに泊まるから」
「ん?どういう事だ?」
「次の村は仲の良い未亡人が居るからさ。そこにね」
「お前・・・ズルすぎんだろ・・・」
なんて羨まけしからん・・・。
そんなこんなで未亡人の待つ村に到着した。
いや、未亡人が待っているのは残念ながら俺ではないが・・・。
「マルコ。今回はちょっと遅かったんじゃないかい?」
「ごめんごめん。道中で大きい荷物拾ったりしてたからー」
「荷物?」
「あれ、あれ。護衛の拾い物」
と、俺を指差ししている。
「へぇ~、護衛なんて付けれる程偉くなったんだねぇ」
「護衛費で大赤字だよー。だからいっぱい買ってってねー」
軽口を叩きながら押し寄せる客達を捌いていく。
田舎の村からすると数ヶ月に1度来るか来ないかの行商は一大イベントだ。
塩等の生きていく上で必須な物は勿論。煙草等の嗜好品も飛ぶように売れていく。
税は麦だったり薪だったり現物で納める事が多く、現金を使う機会自体がかなり限られている。
なので、田舎な村ほど意外と現金を溜め込んでいたりする。
これはそんな溜め込んだ現金を使う事の出来る少ない機会なので村人のテンションも上がるというものだ。
「行商っていっつもこんな売れるもんなのか?」
「大体、こんな感じだねー」
だとしたら行商人ってのはアイテムボックス持ちで自衛出来る強さもある俺の天職かもしれないな。
「なに?行商人にでもなる気とかー?」
「それも悪くないかもな」
「弟子入りでもしちゃう?」
「それだとお前の全取りになるだろ」
「バレたか」
と、途中まではマルコも楽しく商売をしているように見えた。
が・・・気付いた時にはめちゃくちゃ落ち込んでいて、覇気の無い姿になっていた。
「どうかしたのか?」
店仕舞いを済ませ村長宅に挨拶に向かう途中でようやく聞く事が出来た。
人前では何があったのか聞かない方が良い気がしたので。
「ジョセフィーヌが・・・」
「だれ?」
「未亡人・・・」
「あぁ・・・ジョセフィーヌがどうした?」
「男とイチャついてた・・・」
「あぁー・・・それはドンマイ・・・」
あちこちの村に女が居るマルコが楽しみにしている様な女がいつまでもフリーな方がおかしい。
それに、幸せな方が良いんだからくっつく気の無いマルコなんかよりもそっちを選んで正解だとも思ってしまう。
「まぁ、良い女が幸せになったんだ。祝おうぜ?」
「ん?それはそうだけど?」
「ん?」
「ここの村長の家さ?」
「おう」
「しょぼいんだよね・・・」
「うん?」
「まぁ、見たら分かるよ・・・」
村長の家に着いた。外観は確かに豪華な家ではないが普通の家だ。
ノックをして家に上がらせて貰い挨拶をする。
この時点ではまだマルコの言っている意味が理解出来ていなかった。
「それでは客間はご自由にお使い下され」
「はい、ありがとうございます」
「夕飯が出来たらお呼びしますでな」
「ありがとうございます」
客間に入って理解出来た。
あっても精々三畳、下手したら二畳半くらいの広さ。
そして、小さめのシングルベッドが1つ。
「もしかして、どっちが使う?って事か?」
「そー」
ジョセフィーヌ宅に泊まれないのが確定している以上。マルコも村長宅に泊まるしかない。
大人の男2人が並んでは寝れないサイズのベッド。いや、余裕があっても一緒には寝たくない・・・。
「ってか、落ち込んでた理由がこれかよっ」
「1人で行商やってると野宿も多いしベッドで熟睡出来るのは少ない楽しみなんだけど?」
まぁ、分かる。
魔王討伐ツアーの時は本当に悲惨だったから。
「しかも、ジョセフィーヌがテツさんに交換されたんだよ?」
「それは、なんかすまん」
どちらがベッドを使うかコイントスで決める事になった。
マルコがトスして俺が裏か表かを選択したが・・・。
魔王を単独で討伐出来るくらいの能力があるから回転するコインの裏表なんてハッキリと見えている。
なので遠慮なくベッドは頂いた。




