110話 逆
翌日、護衛部隊は陽が昇り始めるよりも先に動き出し準備を始めていた。
その護衛対象であるナエジ様は朝が弱いようで侍女達にされるがままに朝の身支度をされてまだ目が開かないまま馬車に乗せられていた。
「んじゃ、留守の間俺の家頼むな」
「土産」
「分かってる。酒だろ?」
「任せとけっ」
このおっさんに任せなくてもジョーさんとマーシーさんがしっかりやってくれるはずだ。
それでも、おっさんのこの軽口を半年も聞けないかと思うと少し寂しくもあったりする。
「えっと、俺はどの馬車に乗れば?」
「アンタはナエジ様の馬車だ」
マジ?
「あ、ミトさん」
「おはよう」
「おはようございます。これをお渡しするの忘れてました」
「うん?」
「セバスチャンさんからの手紙です」
「あー、うん」
「それでは私はこれで。ナエジ様をよろしくお願いします」
「え?」
「??」
「デレクも一緒じゃないの?」
「私の仕事はここまでです」
「マジかよ」
まぁ、本来は宿の従業員だしな・・・。
というか、前から気になってるけど俺への呼び方が様だったりさんだったりブレてるのが気になる。
宿の従業員。ホテルマンだったら様で統一しろよ。とは思う。
コンコン───。
「はい」
「ミト様をお連れしました」
「どうぞ」
と、侍女が馬車の扉を開けて招き入れてくれた。
「それでは私はこれで失礼させて頂きます」
「うん、セバスチャンさんによろしく言っといて」
「はい」
馬車の中に入るとナエジ様はまだ寝ていた。
「失礼します」
昨日も思ったが大きな馬車で中はゆったりと横に3人座り向かい合う形で6人が座れるようになっている。
進行方向向きにナエジ様が真ん中に座り両サイドで侍女がナエジ様を支えている。
そして、俺の隣にも1人侍女が居る。
この寝ている女の子1人の為に3人も侍女が居るのか。
まぁ、その何倍も護衛が居て何台もの馬車を引き連れているんだけど。
そして、先程デレクから受け取ったセバスチャンさんからの手紙を開く。
内容としては以前言われた事が大半でナエジ様に対して敬称等は要らないし敬語も要らない。
子供に接するか対等な相手と接するようにして欲しい。
との事だった。
しかも、それはセバスチャンさんではなく先代のカギノ伯爵からの要望らしい。
「って事らしいんですけど、敬語じゃない方が良いんですかね?」
「はい。その様にお願い致します」
姫はまだ寝ているので俺が聞いているのは侍女の人にだ。
孫は複数居るって話だったはずだけど、この子が次期領主として指名したのはきっと理由があるはずだ。
昨日、少し話した時に思ったのは年の割にしっかりしているという程度で別段優れていそうだとか特異性は感じられなかった。
ここまで朝に弱いのは特異性かもしれないけど・・・。
「いつもこんな感じなんですか?あー、んと、朝に弱い感じ?」
「そうですね。比較的朝には弱いかと思いますが今日程なのは少し珍しいかと」
「なるほど」
あー、慣れない旅をして夜寝れなくて疲れのピークが今来たとか?
枕が変わると眠れない人も居るって言うし。
「どんな感じの子ですか?」
「そうですね。年齢に対して落ち着いてらっしゃられるかと思います」
「ふむ」
「後、少し知識がチグハグな印象がございます」
「チグハグ?」
「はい。大人でも知らない知識を持っている反面、子供でも知っている事を知らない事があったり」
「ふむ」
「勉強に関しても得手不得手が極端だったりしますね」
「なるほど」
ステータスが尖っているタイプなのかな?
逆呂布とでも言うか、この年で既に内政特化な能力をしている可能性がある。
俺達の話し声がうるさかったのかゆっくりと目を覚まし。
うつらうつらしているのが見て取れたがある時俺と目が合い。その瞬間に一瞬で完全に目が覚めたようだった。
「す、すみませんっ」
「おはよう」
「おっ、おはようございますっ」
「昨日、軽く挨拶はしたけど一応ね。ミトです。元冒険者で元錬金術師で元商人で今無職です」
「え、あ、ナエジです。これから領主?伯爵?になる予定です」
これから。
そうか、約2ヶ月後王都に着いて1ヶ月程滞在する。その滞在中に授爵してフーバスタンクの領主を拝命するのだから3ヶ月後くらいに正式に伯爵になり領主にもなる訳だ。だから、これから。
「セバスチャンさんから敬語とか使わなくて良いって言われてるからそうさてせ貰うね」
「はい、それはもちろん」
「ところで朝ご飯は?」
「食べてないです」
「じゃあ、簡単に食べられそうな物・・・サンドイッチでも食べる?」
「え?あるんですか?」
「うん」
一応、アイテムバッグから取り出したフリをしながらアイテムボックスから取り出し。
ナエジだけでなく侍女の皆にも勧めた。
毒見も兼ねて先に侍女に確認させた方が無難だろうし。更に言えば食べ物で釣って好感度を上げる作戦だ。




