エピローグ
夏の熱気が、まだアスファルトをじりじりと焦がす頃、学校では、待ちに待った水泳の授業が再開された。久しぶりに足を踏み入れたプールサイドに立つと、すでに水着に着替えた僕の姿を見たクラスメイトたちが、まるで珍しい生き物を見るように、一様に目を丸くした。
「うわっ、なにそれ!」
「え、真っ白じゃん!」
プールサイドに、抑えきれない好奇心を孕んだ、ざわめきのような声が上がる。彼らの視線は、僕の肌に、まるで黒い線で描かれた地図のように、くっきりと浮かび上がった水着の形の日焼けの跡に釘付けになっていた。肩も、お腹も、そして背中も、まるで別の色の生地を貼り付けたように、白く浮き上がっていた。
これは、ただの夏休みの日焼けじゃない。炎天下のビーチや、レジャー施設のプールサイドで、のんびりと日焼け止めを塗って過ごしたような、そんな平凡な夏の思い出が刻まれた跡ではないのだ。
二百時間以上。
容赦なく照りつける太陽の下、足を取られる泥と、冷たい川の水に浸りながら。
これは、僕が、あの過酷な儀式で、ただひたすらに、必死に、渡り続けた、その決して消えることのない証だった。
「めちゃくちゃ変な焼け方!」
「どんだけ泳いでたんだよー!」
友達たちは、面白おかしくてたまらない、という表情で、笑いながら僕をからかった。
でも、僕は、ただ、照れ臭そうに笑い返した。
別に、気になどしていなかった。
いや、本当は、心の奥底で、まるで勲章を誇る兵士のように、すごく、誇らしかったのだ。
これが、僕があの過酷な試練で、最後まで戦い抜いた、紛れもない証だ。
これが、僕にとっての、泥と水と汗にまみれた、誇り高き渡河儀式なのだ。
きらきらと陽光を反射するプールの水面に、どこまでも広がる青い空が、まるで吸い込まれるように映っていた。その、どこまでも続く青い水面を見つめていると、遠い記憶の彼方、あの、全てを飲み込むように淀んでいた川の、冷たい水面が、鮮やかに蘇ってきた。
来年も。
僕は、必ず、再びあの場所へ行き、あの過酷な儀式に、挑戦する。
僕は、誰にも聞こえない心の声で、静かに、そう、固く誓った。
プールの水面が、まるで僕の決意を祝福するように、そっと揺れる。降り注ぐ太陽の光が、まるで記憶をなぞるように水着の跡をくっきりと照らし出した。この、特別な夏の、泥と汗と決意の記憶は、たとえ、肌の白い部分が再び日焼けして、この奇妙な模様が消えてしまったとしても、僕の心の奥底で、まるで永遠に輝き続ける星のように、決して色褪せることはないだろう。




