制服
『これより、順位発表を行います。』
体育館の壇上。運営者が一人、まるで能面のような無表情で、淡々と名前と順位を読み上げていく。感情は一切ない。ただ、事務処理のように。
それでも、その声は、場の空気をぴんと張り詰めさせるには十分だった。
僕の名前も、呼ばれた。
順位は、上位じゃなかった。
でも、それでも、僕の中には確かな熱が残っていた。冷たい川を、あの泥の中を、あれだけ渡り続けたんだ。誰にも褒められなかったけど、それは、紛れもなく、僕の力だった。
そしてその時、壇上の運営者を見て、ふと、気づいた。
まだ、水着姿だった。
黒い水着に、水泳帽。背中には赤の番号。泥に濡れては乾いた、その布。僕らがたった今まで着ていたものと、まったく同じ姿。
まだ、あの人たちは、終わっていないんだ。
もう制服を着た僕の隣で、誰かが床に腰を下ろし、汗を拭っているのに。
運営者たちは、まだ試練の中にいた。水着の肩紐が、あの時のまま、ぐっと食い込んでいるのが、遠目にもわかった。
まるで、まだ“川の側”に立っている人たちだった。
そして、ほんの一瞬、僕は、自分の制服の袖を見た。
ついさっきまで、自分も、そっち側にいた。
不思議だった。たったそれだけのことなのに、まるで自分が、すでに違う世界の人間になってしまったような感覚。
あの黒い水着に、もう一度、袖を通してみたい。
そんなことを、思ってしまった。
かっこいい、と思った。
自分も、あの厳しい世界の中で、ずっと闘っていた。それが、ほんの少しだけ、誇らしかった。
僕は制服の胸元を、ぎゅっと握った。
よし。
来年こそは、もっと上へ行こう。




