回収
儀式が終われば、すべて回収される。
僕らの身にまとったこの水着も、水泳帽も、もう二度と見ることはできない。
たとえ、どんなに願っても。たとえ、どれだけの時間を一緒に過ごしても。
もう、手に取ることも、触れることもできないのだ。
ほんの一瞬、「持って帰れたらな」と思った。自分のことを“314”としか名乗れなかった、この日々を、何かの形で残しておきたかった。
けれど、それは許されない。
僕は、そっと、もう一度だけその布に触れ、ゆっくりと回収箱の中に、水着と水泳帽を置いた。
ありがとう。
誰にも聞こえない、小さな声で、僕はそう呟いた。
そして、まるで長い間着ていなかった晴れ着に袖を通すように、久しぶりに、自分の制服に、震える手を通した。本当は、熱いシャワーを浴びて、泥と疲労を洗い流したかったのだが、そんな体力は、とうの昔に使い果たしてしまっていた。体はまだ、泥だらけのままだったけれど、
乾いたシャツ。
温かい布。
まるで、優しい毛布に、体がふわっと包み込まれるような、そんな安堵感。
それだけで、まるで堰を切ったように、涙が溢れそうになった。
ようやく、僕は、人間らしい温かさを取り戻し、人間に戻れた気がした。
更衣室を出ると、再び、疲弊した僕たちに、体育館への集合がかかった。
そこには、泥と汗と、そして、拭いきれなかったであろう涙で、ボロボロになった、でも、最後まで、あの冷たい床に立ち続けていた、同じ苦しみを分かち合った仲間たちがあいた。
そして、ほんの直前に、まるで夢のように消えていった、リタイアした子どもたちの私物が、まるで忘れられた玩具のように、そこに、持ち主を失って所在なげに置かれていた。あの、頭上に同じ番号を掲げていた子どもたちは、今、どうしているのだろうか。冷たい雨に打たれながら、一人、あの場所を後にしたのだろうか。
ふと、隅に置かれた、見覚えのある「268」という番号が書かれたビニール袋が目に入った。休憩時間、疲労困憊の中、偶然隣に座り、ほんの少しだけ言葉を交わした女の子の番号だ。短い時間だったけれど、お互いを励まし合いながら、先の試練に臨んだ。その後、離れてしまってからは、あの小さな背中をずっと探していたけれど、最後のほんの少しのところで、ここに荷物だけを残してリタイアしまったのか……。胸の奥に、小さな、けれど確かな痛みが広がった。
なぜ、こんな 最後の最後で消えてしまったのだろうか。小さな、胸の奥の何かが、チクリと痛んだような気がしたけれど、疲労困憊の僕には、そんな他者のことを深く考える余裕さえ、残っていなかった。自分のことで、もう、いっぱいいっぱいだった。




