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解放

 頭を締め付けていた黒いメッシュの水泳帽を、まず、力を込めて脱ぎ去った。二百時間以上もの間、まるで枷のように頭を拘束し、無機質な番号を掲げ続けていた憎き布。解放された頭は、信じられないほど軽く感じられ、押し込められていた髪が、待ちわびたように、ふわりと広がった。額には、ゴムの跡が赤くくっきりと残り、じんじんと熱い。同時に、二百時間以上も頭上にあった「314」という番号の呪縛から解き放たれたような安堵感が、全身を駆け巡った。

 続いて、泥だらけの、汗と冷たい雨水にまみれた水着を脱ぐ。肌に張り付いて、まるで第二の皮膚のように感じていた黒い布が、ようやく剥がれ落ちる。その瞬間、全身が、信じられないほど軽くなった。まるで、長年背負っていた重荷を下ろしたような、言うことがない解放感。まとわりついていた湿り気と泥の重さから解放された肌は、久しぶりに呼吸をしているようだ。

 その、まるで戦友のような水着。そして水泳帽を、感謝の気持ちを込めて、回収用の冷たい段ボールの箱に、そっと置いた。


 手放す前に、ふと、水着の表面を見つめた。


 そこには、いくつもの小さな傷が刻まれていた。縫い目のほつれ。生地の薄れ。泥に擦られて裂けたような箇所。肩のあたりの糸が、細く、何本も浮いている。裾には、泥と一緒に、ちいさな石が噛み込んでいた。

 まるで、この布が僕の代わりに、すべての負荷を受け止めてくれたかのようだった。

 そこには、白く大きくプリントされた「314」。そしてそのすぐ下に──まるで誰にでも見えるように、黄色の太いマジックで、大きく数字が書き足されていた。

 川を渡った回数。

 自分のためだけの記録じゃない。みんなに見られるために書かれた、その数字。

 それは、あの冷たい水の中で何度も何度も、無言で渡り続けたことの証。ふざけて書いたんじゃない。たとえ途中で誰かに書かれたとしても、それは、ちゃんと“ここまでやったんだ”という、無言の主張だった。

 そして、この黒い水着と水泳帽を着ている間、僕たちはそれ以外のものを身につけることを許されなかった。二百時間以上。昼も夜も、嵐の中も、ただこの一枚で。


 この水着と水泳帽を着ている間、僕たちは、それ以外の何も身につけることが許されなかった。どんな日も、どんな夜も、雨の中でも、風の中でも、この一枚に包まれて過ごした。体の一部のようになっていたこの布が、今、こうして脱がれ、箱の中に消えていこうとしている。


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