束の間の天国
そして、ドアを押し開けた、その瞬間。
ああ。やっぱり──ここは、疲弊した僕にとって、束の間の天国だ。
でも。その、甘い安堵感に満ちた空気は、ほんの少し前とは、どこか決定的に違っていた。
広い休憩室には、僕と同じ黒い水着・水泳帽を身につけた子どもたちが、以前よりもずっとたくさんいた。
だけど、休憩室全体を漂う空気が、前回の、張り詰めた夜の空気とは明らかに違っていた。
そこにいた子どもたちの顔には、もう、あの、生き残るための「真剣さ」が、まるで抜け落ちたネジのように、見当たらなかった。
柔らかいソファに深く腰掛けながら、まるで現実逃避するように、無意味な言葉を交わし、所在なさげに笑い合っている子どもたちもいた。
片手に甘いジュースを握りしめ、もう一方の手には、色とりどりのお菓子を摘み、まるで憂鬱なピクニックにでも来たかのような、作り笑いを浮かべている。
さらには、空になったペットボトルの小さなキャップを、まるで大切な宝物のように弄んでいる子どもまでいた。
この、安堵感に満ちた空間に、あの、生き残るための戦いの匂いは──もう、微塵も残っていなかった。
彼らは、もう二度と、あの冷たい川に戻るつもりなどないのだろう。
彼らにとって、この温かい場所は、疲れた体を癒すための「休憩」ではなく、この過酷な試練からの「終着点」になっていたのだ。
冷たい雨の中、無数の番号を積み重ねることよりも、いかにこの、束の間の温かい場所で、快適に、そして長く過ごすか。それが、彼らにとっての、生き残るための“正解”になっていた。
その空気は、まるで重い鎖から解放されたような、投げやりな安堵感で満ちていた。
僕は、まるで見えない力に引き寄せられるように、静かに、空いているソファに重い腰を下ろした。
温かさと柔らかさは、まるで麻酔のように、僕の感覚を鈍らせていく。
でも、心の奥底の、まだ完全に麻痺していない部分では、この、甘い安堵感に満ちた空気に、完全に飲み込まれてしまいたくないと──確かに、強く思っていた。
ここにいれば、確かに楽だった。冷たい雨に打たれ続けた体力は、もう限界に近く、凍え切った心も、まるで使い古されたボロ布のように、ボロボロだった。
でも、それは、つまりは「終わる」ということだった。
この、安楽な温かさに身を委ねることは、もう二度と、あの冷たい雨の降る川に戻らないことを、自分自身に許すことだった。
──それでも。
僕は、疲労困憊した身体の奥底で、このまま、何もしないまま終わるわけにはいかないと、静かに、しかし強く思った。
たとえ、僕の決意など、誰にも気づかれなくても。たとえ、もう、あの過酷な川に戻ろうとする者が、ほとんどいなくなっていたとしても。
僕は──まだ、終わっていなかった。
束の間の休息を取りながら、僕は、まるで獲物を狙う獣のように、再び、あの冷たい雨の降る川へ戻る、最適なタイミングを、静かに探っていた。
──ほんのちょっとだけ、本当に、ちょっとだけ休もう。
「すぐに……また、必ず、行くから……」
そう、まるで眠りにつく前の子供のように、自分自身に何度も言い聞かせるように、僕は、重い瞼をそっと閉じた。




