その間に
どれくらいの時間、意識を手放していたのだろうか。
柔らかいソファの感触が、まるで温かい泥のように、疲れきった身体の奥深くまで、じっくりと染み込んでいた。その、まるで天国の雲のような心地よさは、疲労した僕の全身を優しく包み込み、痛いほど、深く、そして甘美だった。
──もう少しだけ、このまま……
この、まるで陽だまりのような温かさに、身を預けていたい。この、ふかふかの雲のような柔らかさに、いつまでも包まれていたい。
そんな、まるで甘い毒のような誘惑が、静かに、しかし確実に、まるで濃い霧のように、僕の思考をゆっくりと覆いはじめた、その時だった。
僕は、まるで操り人形のように、ぼんやりとした意識の中で、何気なく、疲れた目で周囲を見渡した。
そして──まるで雷に打たれたように、その異質な光景に気づいた。
──違う。何かが、おかしい。
柔らかいソファに、まるで抜け殻のように座り込んでいる子ども。冷たい床に、まるで死んだように力なく寝転がっている子ども。
その、ほとんどの子どもたちが身につけている黒い水着・水泳帽が、信じられないことに、濡れていた。
休憩施設の床には、まるで雨上がりのように、小さな水たまりが、点々と広がっていた。
さっきまで、皆、僕と同じように、あの忌まわしい冷たい雨から解放され、乾いた水着・水泳帽を身につけ、この束の間のぬくもりのなかに、まるで深い眠りに落ちるように沈んでいたはずだった。
皆、いつの間にか、あの過酷な川に戻っていたのだ。
誰かに、出発の合図を送られたわけではない。彼らが、重い身体を起こし、立ち上がる音さえ、疲労困憊した僕の耳は、捉えることができなかった。
それでも、世界は、僕の眠りなど意に介さず、静かに、しかし確実に動いていた。束の間の、甘い休息は、もう、とっくに終わっていたのだ。
気づけば、僕は、まるで忘れ去られた玩具のように、自分ひとりだけが、あの時のまま、乾いた水着・水泳帽を着て、温かいソファに深く沈み込んだまま、そこに取り残されていた。
「……!」
僕は、勢いよく飛び起きた。腰に走る、鈍く、重い痛みをまるで無視して、疲労困憊した身体を、まるで無理やり引き剥がすように、強引に起こした。
胸が、まるで壊れた太鼓のように、どくどくと激しく脈打っていた。心臓が、まるで喉元までせり上がってくるように、激しく鼓動していた。
──まずい。大変なことになった。
皆、もう、とっくに動き出していた。僕が、この温かい場所で、甘い眠りに耽っている、その間に。誰にも気づかれることなく。ただ、黙々と。
──このままじゃ、皆との差が、どんどん開いてしまう。
──まるで、遠ざかる船のように、どんどん離されていく。
──もう、二度と、あの冷たい川に戻ることすらできなくなるかもしれない。
二度と、彼らに追いつくことなど、できなくなるかもしれない。
僕は、まるで重力に逆らうように、慌てて柔らかいソファから、よろめきながら立ち上がった。
身体は、まるで鉛でできた人形のように、信じられないほど重かった。
膝が、まるで生まれたての小鹿のように、小刻みに震えていた。少し、どころではなかった。いや、全身の筋肉が、まるで制御を失った機械のように、ガタガタと震えていた。
でも、そんなことなど、今の僕には、どうでもよかった。今は、ただ、あの冷たい川へ戻り、前へ進むこと。それだけが、僕の頭の中を占領していた。
僕は、まるで足に重りをつけたように、よろよろと足を引きずるようにして、休憩施設の出口のドアへと向かった。
ドアの向こうから、まるで鋭い鞭のように、冷たい夜の空気が、僕の疲れた顔を容赦なく打った。
僕の身につけている黒い水着・水泳帽は、まだ、あの時のまま、不思議なほどサラサラに乾いていた。
でも、これからまた──冷たい雨に濡れる。冷たい水に浸り、鉛のように重くなる。そして、あの、骨の髄まで染み渡るような痛みが、また、僕の全身に、まるで悪夢のように戻ってくるだろう。
それでも。
それでも──僕は、あの冷たい雨の降る川へと向かった。
世界が、まだこんなにも冷たいのなら、それを、もう一度、受け入れてやる。
僕は、行く。もう一度、あの、終わりの見えない冷たい川へ。




