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寝過ごした後に

 休憩施設のドアを押し開けた瞬間、まるで凍てついた彫像に温かい息を吹きかけるように、冷たい夜の空気が、鋭い刃物となって僕の頬を、額を、容赦なく突き刺した。

 世界は、僕の疲労などまるで意に介さず、まだ終わっていなかった。そして、まるで巨大な歯車が回り続けるように、ただ黙って、容赦なく、その時間を刻み続けていた。

 僕は、再び、あの底なしの闇が広がる川へ向かって、重い足を引きずって歩き出した。

 ドアを開けた、ほんの一瞬の出来事だったのに、全身の細胞が悲鳴を上げるように身を縮こませた。骨の髄まで染み渡るような、容赦のない冷気が、僕の熱を奪っていく。

 空は、深い夜の帳が降りたように、黒く沈んでいた。冷たい川の向こう岸も、頼りない橋も、温かい光を放つ休憩施設の建物さえも──すべてが、闇に飲み込まれたように、黒く、重く沈んでいた。

 ──さあ、行こう。もう、こんなところで立ち止まって、迷っている暇はないんだ。

 そう、まるで壊れたレコードのように、何度も何度も自分に言い聞かせた。

 けれど、その、決意を新たにしようとした、まさにその時だった。

 僕は、まるで雷に打たれたように、はっきりと、その事実に気づいてしまった。

 休憩している間に、ほんのわずかな時間だけれど、乾いた僕の水着・水泳帽が、信じられないほど、まるで天国の衣のように快適だということに。

 サラサラと、まるで優しい風が肌を撫でるような、ポリエステルの繊細な感触。締めつけも、肌に張り付くような不快感も、そこには微塵も存在しない。

 冷たい雨に濡れていない、ただ乾いているだけの水着・水泳帽は、こんなにも軽くて、まるで羽が生えたように動きやすく、そして、温かいものだったのか。

 その、あまりにも当たり前の事実が、まるで鋭い棘のように、僕の疲れた身体に深く突き刺さり、嫌でも、骨の髄まで沁み渡ってきた。鋭く、そして、あまりにも明瞭に。

 あの冷たい川に入れば、またすぐに、あの忌まわしい冷たさに包まれ、まるで鉛のように重くなり、全身に吸い付くように張り付き、そして、さっきまで僕を苦しめた、あの耐え難い痛みが、まるで悪夢のように、鮮明に蘇ってくるだろう。

 ──わかっている。そんなこと、痛いほどわかっているんだ。それでも、僕は、あの冷たい川に戻り、前に進まなければいけない。

 それが、この過酷な場所で、かろうじて生き残るための、唯一の道だから。

 でも。

 ほんの少しだけ。ほんの、本当に、少しだけでいいから、また、あの温かい場所で休んだって、誰も文句は言わないじゃないか。

 ゆっくりと振り返った。

 そこには、温かい光が、まるで小さな灯台のように漏れ出す、ガラス張りの休憩施設が、静かに佇んでいた。

 あの、温かい空気。ふかふかの、疲れた身体を優しく受け止めてくれる、誘惑に満ちたソファ。優しさという、あまりにも危険な形をした罠。

 それが、まるで僕を待ち構えているかのように、その温かい光の中で、静かに、そして妖しく輝いて見えた。


 ──これは、紛れもない敗北だ。自分の弱さを認め、この過酷な試練から逃げ出すという、敗北を、認めるということなのだ。

 そんなこと、痛いほどわかっていた。優しい温もりに惹かれる自分を、ただ、甘く騙しているだけだということも、理解していた。

 それでも。

 僕は、まるで操り人形のように、静かに、冷たい雨の降る川に背を向けた。


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