目覚め
──どれくらい、眠っていたのだろうか?
まったく、見当もつかなかった。
天井の光は相変わらず淡く優しく、時計も窓もないこの空間は、時間の流れを伝えるすべを最初から持っていなかった。ただ静かで、ただあたたかい。夢の中にいたのか、意識があったのか、その境界すら曖昧だった。
けれど。
どこか遠くで響いたドアの音とともに、ほんの少しだけ空気が変わった気がして、僕はふと目を覚ました。頭の芯がまだぼんやりしている。身体は、柔らかなソファに沈み込んだまま、まるで重りをかけられているかのように動かなかった。
そして──気づいた。
扉の向こうから、わずかに差し込む光。それは、夜の冷たい暗さでも、朝の白さでもなかった。
あれは……夕方の、茜色。
「……うそ、だろ……」
喉がかすれて、声にならなかった。冷や汗が、背中に一筋、つうっと流れた。
深夜に寝落ちして、起きたら……もう、夕方。
僕の中に刻まれていた体内時計は、とうに壊れていた。寝る前の、あの冷たい雨の記憶は、もう何時間も前のことだったというのか。僕がこのあたたかい場所で無防備に眠っていた間に、あの川では、何百という記録が、誰かの手によって積み重ねられていたのかもしれない。
──置いていかれた。
その事実が、まるで濁った水を一気に飲み干したときのように、胃の奥へずしりと沈んだ。
「くそ……」
小さく、噛み締める。立ち上がろうとして、腰がぐらついた。筋肉はすっかり緩んでいた。温かさに馴染んだ身体は、まるで水に戻った砂の城のように、形を失っていた。
でも、行くしかなかった。
戻らなければ、すべてが終わってしまう気がした。
「314」──水着に印字された番号を、僕はもう一度、胸の内で唱えた。
冷たいドアノブに手をかける。その向こうには、今度はどんな川が待っているのだろうか。
わからない。けれど、僕にはもう、それを選ぶ権利さえ残されていなかった。
休息は、もう終わりだ。
僕は、ゆっくりと、ドアを押した。




