体育館へ
着替えを終えた子どもたちは、無言のまま、次々と体育館へと誘導されていった。
足取りは重く、視線は定まらない。
体育館の入り口で、「荷物はすべて、袋に入れてください」という、まるで録音された音声のような、抑揚のない無機質な声が、冷たい空気を震わせた。
僕たちは、言われるがまま、受付で渡された自分の番号「314」が大きく書かれた透明なビニール袋に、この世界との繋がりを断つように、次々と自分の持ち物を押し込んでいった。
擦り切れ布の財布。履き慣れた運動靴。昨日まで着ていた見慣れた服。肌身離さず持っていた夢や希望、不安や決意の言葉が書き込まれた小さなメモ帳——全部、ためらうことなく、その透明な袋の中に消えていった。
時間の感覚を刻む腕時計も、肌に直接触れていた下着も、例外じゃなかった。
袋にすべての私物を押し込んだあとには、まるで犯罪者みたいに、簡単なボディーチェックまで受けた。
忍ばせていた、母親がそっと握らせてくれた小さなハンカチすら、無情にも預けることになった。
そして、追い打ちをかけるように、冷たい声が響く。
「ボディーチェック後は、水着の肩紐を下ろしたり、水泳帽を脱いだ時点でリタイアとみなします。着用したまま、体育館へ進んでください」
袋は、まるで僕たちの過去を封印するかのように、返却についての説明もなく、その場で没収された。
手元に残ったのは、ただ、体に張り付く冷たい黒い水着と、頭を締め付けるメッシュの水泳帽、そして、その頭上に無慈悲に刻まれた「314」という番号だけだった。
まるで、生まれたばかりの無力な存在に逆戻りしたような、心もとない感覚が、幼い胸を締めつけた。
僕たちは、これから一体何と戦うのだろうか。
頭上の番号は、まるで監視の目を意味しているようだ。
本当に、水着と水泳帽一枚以外、僕の所有物は何ひとつなくなった。
体育館の中は、がらんとした空間が広がっていた。椅子も、机もない。高い天井は、声を出せばどこまでも反響しそうで、異様な静けさに包まれている。そこにあるのは、ただ広々とした空間、それだけだった。
まるで、ここから始まるのは、これまでとはまったく「別のルール」なのだと、無言のうちに告げられているようだった。
異様な光景だった。
何百人もの子どもたちが、皆一様に、黒いワンピース型の水着と、頭にぴったりと張り付いた黒いメッシュの水泳帽を身につけて、静かに立ち尽くしている。
性別による服装の違いなど、微塵もなかった。あまりにも皆が同じ格好をしているため、男の子か女の子かの区別すらつかなかった。
個性を主張するものは何ひとつなく、頭頂部に印字された白い番号だけが、かろうじて、僕の存在を示しているようだった。